上 下
339 / 789
第八章

第352話

しおりを挟む

「エ・ミ・リ・ア。いま一体何をしたのかなー?」
「ノーマン……怖~い」

目の前で行われた『騰蛇への譲渡』。そりゃあ、隊長のノーマンにしてみれば怒る問題ことだろう。カラになった檻の両隣にいた『うまくいけば自分たちも雇ってもらおう』と考えていた連中に目を向ける。
騰蛇は目的の罪人たち五人をパックンと口に含むと両隣の罪人たちを見て『にまぁ』と笑った。……そう、恐怖心を与えてから地中に戻っていったのだ。両隣が土壁ではなく鉄柵で仕切られているため、目の前で起きたことは十分脅しとなっただろう。

「バカは騰蛇に任せるのが一番」

私が怒っているのを声で気付いたのだろう。ノーマンが小さく息を吐いた。

「奴隷堕ちした分際で、私に何を求めてる? お前たちが罪を犯したのはお前たちの責任、そこに私は関係ない。それとも何だ? 許可なく敷地に入ったのは私のせいだとでも言うのか? お前らに何の権利がある? え? 私は職人だ。レシピの公開は職人わたしの権利。お前らに公開する必要も譲渡する理由もない。それに……そこのお前、私に『販売する権利を全権よこせ』と言ったな。私は商人だ。私が作ったものは私が販売する権利を持っている」

私の言葉でノーマンが檻の中に入って、奥の壁まで逃げた商人の男の腕を掴んで戻ってきた。入り口には鑑定石を持った隊員が待っていて、その鑑定石に男を手を強引に乗せた。

「あ、ああ……」

男から絶望に近い声が漏れる。彼は『同じ商人に迷惑をかけない』という商人ギルドの規約を破ったのだ。商人ギルドからの追放、そして私財の押収。被害者である私と、私が所属する商人ギルドへの慰謝料が借金として表示されていた。
これは二年前から追加された内容だが、同業者に迷惑かけた場合、慰謝料はその相手だけではなくにも支払うことになった。それも、慰謝料は迷惑をかけた本人だけでなく所属ギルドも支払う。管理不十分という理由からだ。同じギルド同士なら収支がゼロとなるため、ギルドからの慰謝料請求はない。
しかし、相手は私だ。冒険者ギルド以外はほかの大陸のギルドに所属している。それはすなわちになっているのだ。

「慰謝料が物納可でよかったね。それでも四倍だよね。とりあえず優先順位は私と私が所属する商人ギルド。借金は自分が今まで所属していたギルドの分。まあ、それらは駆けつけたギルドの職人と相談するんだね。ああ、私も所属ギルドも1ジルだって負けないから」

絶望真っ只中の男に私の声は聞こえていただろうか?
ただ、すでに檻の中にいる男たちの中には同じく青ざめている者たちもいる。自分で気付けないのは、檻の中にいるときはステータスが使えないからだ。

「ほかの連中も、こうなることがわかっててやったんだよね、奴隷になりたいから。おめでとう。希望どおりに奴隷になれて。で・も、犯罪奴隷はこのダンジョン都市シティにいられないから。もちろん、私の農園で働くこともできない。そして私と所属ギルドへの慰謝料もありがとうございま~す。どんな物納が届くかな~。あ、そうそう。大陸法違反による慰謝料もありがたくいただきま~す! ……あれ、何で驚いているの? 私は聖魔師テイマーなんだけど? つまり、私に絡んだ時点で『テイマーに手をだすな』っていう大陸法を違反してるんだよ」

商人でも職人でも冒険者でもない連中は青ざめている人たちを嘲笑っていたが、彼らの表情から笑いが消えた。ようやく全員が事実にたどり着いたのだろう。自分たちも大陸法違反の犯罪者だと。

「私本人じゃなくても、私が所有する農園に侵入した時点で大陸法違反。つまり皆さん全員仲良く犯罪者。『知らなかったから許される』なんてないからね。大陸法は一律二十年の実刑。おめでとう、私に慰謝料を支払ったら頑張って罪を償ってね~」

さあ、大陸法違反の慰謝料は白大金貨五枚。借金奴隷にならずに二十年後に自由になれるのは何人いるかな~?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。 レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。 【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。 そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】

死んだ王妃は二度目の人生を楽しみます お飾りの王妃は必要ないのでしょう?

なか
恋愛
「お飾りの王妃らしく、邪魔にならぬようにしておけ」  かつて、愛を誓い合ったこの国の王。アドルフ・グラナートから言われた言葉。   『お飾りの王妃』    彼に振り向いてもらうため、  政務の全てうけおっていた私––カーティアに付けられた烙印だ。  アドルフは側妃を寵愛しており、最早見向きもされなくなった私は使用人達にさえ冷遇された扱いを受けた。  そして二十五の歳。  病気を患ったが、医者にも診てもらえず看病もない。  苦しむ死の間際、私の死をアドルフが望んでいる事を知り、人生に絶望して孤独な死を迎えた。  しかし、私は二十二の歳に記憶を保ったまま戻った。  何故か手に入れた二度目の人生、もはやアドルフに尽くすつもりなどあるはずもない。  だから私は、後悔ない程に自由に生きていく。  もう二度と、誰かのために捧げる人生も……利用される人生もごめんだ。  自由に、好き勝手に……私は生きていきます。  戻ってこいと何度も言ってきますけど、戻る気はありませんから。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花
恋愛
「お前はいつものろまで、クズで、私の引き立て役なのよ、お姉様」  私を蔑む視線を向けて、双子の妹がそう言った。 「本当、お前と違ってジュリーは賢くて、裁縫も刺繍も天才的だよ」  愛しそうな表情を浮かべて、妹を抱きしめるお父様。 「――あなたは、この家に要らないのよ」  扇子で私の頬を叩くお母様。  ……そんなに私のことが嫌いなら、消えることを選びます。    消えた先で、私は『愛』を知ることが出来た。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。