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第八章
第349話
しおりを挟む「これは売らないしあげる気もないよ、アラクネの作品だもん。アラクネは妖精たちの洋服を作ってるし。このストールはアラクネと妖精たちを引き合わせたお礼だもん」
だいたい、身につけているストールを本人の許可なく勝手に奪い合うって非常識でしょ。そして「もらう一人が決まったからください」って手を出されて「はいどうぞ」って渡すわけないじゃん。
そう言ったのは突然「じゃあ、それを渡してください」と言ってストールを指さされたときだ。意味もわからず断ったら「何故ですか!」って怒鳴られて、ストールに手を伸ばされた。そこから止めようとした男性たちとつかみ合いの騒ぎに発展した。ちなみに私は結界の指輪が起動して安全地帯の中。通報が入ったのかノーマンが守備隊を連れて駆けつけて、彼女たちは私の私物を集団強盗をしたとして罪名がつけられていた。
連中は観光客やダンジョンへ挑戦するために来ていた。
冒険者たちは女性たちをサクッと追放して自分たちは無関係と突き放し、ダンジョンへ入る手続きのため冒険者ギルドへいった。冒険者の女性たちは何も言えない。自分たちが一緒にいけば、彼らもダンジョンに入れないからだ。
「冗談じゃないわ! 今まで誰のおかげでダンジョンを攻略できたと思っているのよ!」
そう叫んだ女性もいたが、「だからやめろって止めただろ」と返されると黙るしかなかった。冒険者パーティの追放条件に『ほかの冒険者に迷惑をかけた場合』というのがある。そして私は冒険者だ。
「冒険者だとは知らなかった」
そんな言葉はいっさい通用しない。
観光客の女性たちはもっと酷かった。恋人はともかく、夫婦や家族からも「こんな女だと思わなかった」と一律で捨てられたのだ。
まあ、他人が身につけているものを「欲しい」との理由で奪い合ったのだから、それこそ常識を疑うだろう。それも一部の女性たちは、地下牢でお泊まりしたときに「どうしたら手放すか」という相談を始めただけでなく、罰金刑で解放されても反省すらしないで、詰め所まで身元を引き取りに来た恋人や夫に「あの女を殺してストールを奪ってきて」と頼んだのだから。
彼女たちが罰金刑と地下牢一泊体験ツアーだけで解放されたのは、妖精たちが罰を与えたくて守備隊の詰め所を取り囲んでいたからだ。その中で私を殺すように言えば敵認定されて当然だ。どのパートナーからも捨てられた彼女たちは一時間後に人事不省に陥った状態で、南部にいくつもある肥溜めに頭を下に突き刺さっていた。
「大丈夫、大丈夫。首から上には空気の膜が付けられていたから、呼吸はできてたよ。臭いは無理だけど」
「……それを大丈夫とは言わない」
「一緒に遊んでもらって喜んでいたんだよ」
「……誰が?」
「妖精たちが」
「……遊び足りなかったか?」
ダイバの呟きに苦笑した。ダイバが妖精たちと遊ぶのはイタズラを減らすため。でも今回は、ちゃんとした理由がある。
「今回は妖精たちの前で『私を殺すように訴えていた』って理由があるんだ。元々アラクネが私にくれたストールを奪おうとしたことと、いっぱい遊んでくれるダイバの家で暴れて物を壊したことで仕返しをするつもりだった。だから、罰金を払って大人しく都市から追放された女性たちは今回の被害にあっていないよ」
「……よく我慢したな、妖精たちも」
「彼女たちは全員、家族やパーティから捨てられたからね。それと大半は『勝負に勝ったら虹色のストールが手に入る』って聞いたから騒ぎに加わった。情報を鵜呑みにした罰は十分受けたでしょ」
「それでも諦めなかった連中が、妖精たちに罰を受けたってことか」
「そういうこと」
こういうことは今までにも何度かあったらしい。だからこそ、『結界の指輪( 回数限定版 )』が飛ぶように売れる。カバンやステータスの持ち物に入れたままでも危険を察知して結界が張られる。ちなみに回数は値段によって変わる。一番人気は五回限定版の指輪だ。
「魔物の襲撃で生き残った商人が身につけていた」
そのことが各地の商人ギルドで広がったため、売り上げに拍車をかけている。
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