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第八章
第327話
しおりを挟むダンジョン都市の浄化作用で、外周部に今までの『自分さえ良ければ』というこの大陸に植え付けられた常識が書き直され、いまでは自己嫌悪に陥っている住人や観光客が多くなった。最短で当日の内に常識が書き直されるため、誰もが数日で今までの自身の言動に後悔をする。そして、外周部から離れると二つの善悪に悩まされ、自ら生命を断つ者や精神を病んでしまう者も現れた。もちろん、それは同行者の証言により各地へと拡散していった。
そのうち、各地では「ダンジョン都市に行ったら二度と帰って来られない」という話が実しやかに広まった。
それはダンジョン外周部に一時的な平和を齎した。ダンジョン都市に来る冒険者や権力者が減ったため、罪名を持つがために中に入れず外周部に留まる人々が減ったことが理由だが、それは本当に一時的なものだった。
外周部に留まらずに故郷へ帰った者もいるのだ。ただし、戻ろうにも、途中の町や村で『罪を犯し罰を受けていない愚か者は入られない』という事実に驚愕する。そんな彼らは結界を張り野宿をする。そんな一行の中でも、罪を犯していないため中に入れる同行者がいるならそれでもマシな方だ。また、連絡をしたら食材を送ってくれる知己がいるのもマシ。
そんな協力者がいないがために食料の調達ができない上に常識も欠落している者たちは、誰かから奪おうとする。強盗犯のできあがりだ。それを繰り返せば、罪は増え罰は重くなる。故郷に入れず、いつの間にか城壁周辺に増えた路上生活者と同じように小屋を作って住むか、破落戸同士で徒党を組み、さらなる外部に集落をつくる。行商人を襲っては金品や婦女、ときには人命をも奪う。奪う側に立てば奪われる側に身を置くことになる。彼らは討伐隊に犯罪者として討たれる。
以前は犯罪ギルドがあったため、彼らに保護されるか上納することで統制がとれていたが、まるっと捕らわれて処刑や永久労働者となった。残党も今はそれほど多くなく、仲間が増えればどこかに解れた穴ができ、そこから存在がバレて一網打尽になっていった。
そんな中で、『神罰を受けた王族や貴族が男娼木賃宿に大勢いる』という話も広まった。そのため再びダンジョン都市に向かう人たちが増えた。
出立の際に綺麗だった賞罰欄に気を良くして向かったものの、旅は過酷で慣れない者には乗合馬車の旅はつらく厳しいものだった。
三度の食事は自己管理で自己責任。予定通りに進むめないことも多く、用意した食材が足りなくなり、誰かから勝手に拝借すれば窃盗罪。強請れば脅迫罪。断られて分捕れば強盗罪。
それを繰り返して、ダンジョン都市に着いた頃には立派( ? )な犯罪者のできあがり。
それだけではない。
集合時間に間に合わず、置き去りにされることもある。それは町や村だけではない。野宿のときは、御者が置く結界石で安全が保たれる。しかし、寝坊をすれば置き去り。それが嫌なら荷台に座った状態で眠ればいい。しかし、一日中乗っている荷台には冒険者や長距離の行商人が使う馬車のような空間魔法は使われていない。振動を防ぐ機能もない。揺られ続けて軋む身体の節々に、『寝るときくらいは全身を伸ばしたい』と望むことは罪だろうか。
しかし、旅の初心者の疲れきった身体や神経が、早朝の出立に慣れることはない。起きないから置いていく。それが嫌なら、値が張るものの空間魔法が使われた乗合馬車に乗ればいい。中は宿になっていて、到着まで個室で過ごせるのだ。料金は宿一泊分の三倍だが、魔物や強盗から確実に身を守られる上に快適に過ごせる。……ただし、自炊だが。中には別料金で食事もつけられる乗合馬車もある。ひと口で乗合馬車といっても、様々あるのだ。
残された人は、運が良ければ無事に近くの町や村にたどり着けるが、運がなければ魔物の朝ごはんだ。
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