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第八章
第319話
しおりを挟む「大丈夫だよ。騰蛇の領域から逃げ出せないから」
「そういう問題じゃねえ!」
「アゴールの氷は刺さったままだよ」
「そいつも違う!」
ダイバの般若面の開いた口からはヘビの舌が見える……
「エミリア!」
……火を噴きそうだ。
「エミリアちゃん、騰蛇に渡してどうする気なの?」
「どうって……。今から脅しにいってこようと。私が結界を張っても壊れそうだし。でも騰蛇の結界ってすごいのよ。ヤンシスが魔法を暴走させても、地上にもダンジョンにも影響は一切ないんだから」
「エミリア……そこ、自慢するところと違う」
フーリさんの質問に答えたら、ダイバが脱力したようにイスに腰掛けてテーブルに突っ伏した。
「エミリアちゃん、連中を脅してどうするの?」
エリーさんが心配そうに聞いてくる。魔物やダンジョンボスにするのでは? と思っているのだろうか。
「だって、私はハイルたちの主人だよ。そんな私に開口一番に『身柄を寄越せ』って、私をバカにしたってことでしょ? それに奴隷制度を理解していないよね。大丈夫、痴態を反省してもらって、ハイルの罰を連中に肩代わりさせるつもりだから」
そういうと、エリーさんも「それなら……」と納得してくれた。
「じゃあ、いってきま~す」というと、金色の細い光の糸がいくつも地下から伸びてきて私を包んだ。これは騰蛇と一緒にいる機織り女の金糸だ。これで騰蛇のところまで連れていってもらえる。
「アラクネ~」
「お久しぶりです」
アラクネの外見は金色の女性だ。そう、全身が金色。元々機織りの上手な人だったが、その噂を聞いた女神が機織り勝負を仕掛けた。その結果、女神が負けた。その腹いせに、体長三メートルもある『金の糸を吐きだすクモの魔物』に姿を変えられた。
そんな彼女が弱っていたところを見つけた地の妖精たちが教えてくれて、騰蛇がパックン。口から出てきたときは、すでに今の姿になっていたそうだ。
《 だって、元々は人間だったから。クモの要素を吸い取ったら人間の姿になったんだ 》
そんな騰蛇でも、なぜ金色なのかはわからない。ただ、この神が見捨てたため二度と手出しできない大陸で騰蛇の庇護下に入ったため、女神に狙われることはないらしい。
ちなみにアラクネが騰蛇に救われたのは百年以上前。女神にケンカを売られたのは何千年も前になるらしい。クモではなくなったため、種族を『機織り女』としたそうだ。人の姿になった今でも自分の手から金糸が出せるため、好きな機織りを続けている。
その糸は魔力を撚って作られているらしい。ということで、私も魔力を糸のようにだす方法を教わっているが、全然上手くいかない……。一本ずつなら出せるようにはなったけど、アラクネみたいに一度に何十本も出せない。
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