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第八章

第305話

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「フリンク! ベイル!」

食堂の扉が開くと同時に飛び込んできたのはエリーさんだった。青白い顔色で肩で息をしている。

「エリーったら、休まずに空を飛んできたのよ」

心配している私にミリィさんが小声で教えてくれた。エリーさんは私たちが目に入っておらず、三人の奴隷たちに飛びかかった。そして……三人の腹部をサンドバッグのように殴りつけた。あっという間に、その場で蹲る四人。三人は殴られた奴隷で、一人は……

「個人契約している奴隷に手をだすからよ」

奴隷に暴行をしたエリーさんだった。


「ごめんなさい、エミリアちゃん」

エリーさんが頭を下げて謝罪する。私がエリーさんに回復魔法を使ったことで、奴隷への暴行が正当化されたようだ。おかげで賞罰欄は無傷で罪に問われなかったようだ。

「いえ……それより大丈夫ですか?」
「ええ、私は大丈夫」

エリーさんの目が三人の奴隷たちに向けられた。三人は腹部を押さえて蹲っている。これは自業自得か何かだろう。そうじゃなければ、エリーさんが問答無用で殴らない……と思う。話を聞いてから回復魔法をかけても遅くはないだろう。

「エリーさん、この人たちと知り合いなの? 同じシメオン国出身で同じエルフ族だけど」

この三人は大人だ。農作業は子供たちの労働力だけでできるような簡単なものではない。それもあって購入したのだ。
「私と同じ風属性のエルフたちよ。風属性のエルフは気まぐれで一処ひとところに留まるのを嫌うわ。新しい風を求めるの」
二人は外の世界を求めて、木々に囲まれたエルフの里をでた。そして、エルールカという別のエルフの里出身のエルフと出会った。彼女は里からいなくなった姉を探して旅をしているという。そんな彼女に飽きるまで付き合うことにした。そしていくつかの大陸を渡り、国を巡り、この大陸にたどり着いた。

「それで、奴隷商に売られたってわけね」

私の呆れた声に何も言えず俯くフリンクとベイルの二人。

「で? そっちのハイルは? 一緒にぶん殴られたってことはエリーさんの知り合い? そのわりに何発もくらってたようだけど」

ハイルに目を向けると、彼はミリィさんと会ってから青ざめたまま口を開かず、一度も顔をあげていない。

「コイツは休まずに重労働させて潰していいわ。生かす価値はないから。ね、ミリィ」
「…………それを決めるのは私じゃないわ」

実はミリィさんから簡単に説明は受けて知っている。
エルフの里に住んでいた頃、ハイルはミリィさんを嫌っていた。そんなハイルは里長さとおさの息子と里を守る守備隊のような立場の守長もりおさという二重の立場を悪用し、森の牢獄に一生涯閉じ込めようとした。それはエリーさんのお姉さんでミリィさんの育ての親だった人が事前に察知してミリィさんを逃すことに成功した。そのあと、育ての親はミリィさんを罪人と聞いていた人たちに罪人を逃した罪を問われて捕らえられた。そして里長が森に真偽を確かめたところ、罪は虚偽をばら撒き混乱を起こしたハイルにあり、ミリィさんは無罪とわかった。もちろんミリィさんの育ての親も無罪。ミリィさんが逃げ出したことで罪にならなかったが、もしミリィさんが捕まっていたらハイルは重い罰を受けていただろう。
ただ立場を二重も悪用して、一時的とはいえミリィさんの育ての親を囚われの身にした。里長たちに呼びだされなければ、罰と称して死なない程度の加減をしつつ暴行鬱憤ばらしをするつもりだったことを隊員の自白から判明した。幼い子供をその生まれから見下し、さらに無実の罪で森の牢獄に入れようとしていた事実を問題視した族長に、追放紋を与えられて里を追われた。追放紋がある以上、ほかのエルフの里に身を寄せることはできず。ただ、はぐれエルフと違うのは罪を犯さない限り自由でいられる点だろう。
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