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第八章
第286話
しおりを挟む奴隷商は警備隊が厳しく……取り調べられなかった。口封じで殺されたわけでもない。
奴隷商はこの大陸の典型的な住人らしく、「聖魔師相手に」という言葉を聞いた瞬間に青ざめ、「申し訳ありませんでしたー‼︎」と土下座で謝罪したらしい。それが『従来の正しい態度』だそうだ。
「今までの連中は?」
「あれは自らの地位が高いのと、聖魔師と遭遇する確率が少なかった。定住したのはエミリアが初めてだからな。だいたいは周りに気付かれそうになれば、いつの間にかいなくなっていたんだよ」
「でもさあ、昔話にあるけど『妖精たちの反撃』は知られてるよね。だったら、『手を出せばヤバい』って思わない?」
「それが……自分は、もしくは自分たちは大丈夫。という慢心が働いていたんだな」
「それこそ、地位とか立場で人を見ているからでしょ」
「そんな連中が悉く妖精たちに潰されてきたのを知ったら、正常な思考を持つ奴らなら大陸法を破ろうとは考えないな」
あれ? そういえば数年前に起きた隣国の消滅を知らないのだろうか。
「過去の話と混ざって、ここ数年に起きた話だと認識されていないようだ」
「ウチの妖精たちが何をやらかしているか知らないの?」
「大袈裟やデマだと思っているんだろう」
「隣の国がすでに妖精たちの罰を受けて滅んだ事実があるのに? 結界が張られたけど、国民の半数はすでに『腐った死体』になって、死ねない罰を受けているよね」
神が見捨てた大陸だから、この大陸の住人には神の罰は下らない。その代わりに妖精たちが罰を与えている。
「それって『神の代理人』っていうよね」
「それでもわからないんだろうなあ……」
ノーマンが呆れたように深く息を吐き出すと天井を見上げた。
「『ダンジョン都市に聖魔師がいる』という話は聞いて知っていました。しかし、どの方かわからず……今までの記録から男性だと勝手に思い込んでいました」
奴隷商はそう言い訳したが、それで許されるほど妖精たちは甘くない。さらに怖いのはリリンだ。枯れ枝を束ねて、それで土下座する奴隷商のお尻を叩き続けたらしい。
「まあ、罰だからそれでいいんだけどな」
「ところで違法云々は?」
「奴隷たちは外周部に馬車ごと見つかった。彼は観光気分で入ってきたらしい」
「それで私に絡んだ理由は?」
そう、それが問題だった。しかし理由は単純だった。
「冒険者に見えず、さらに奴隷を買えるだけの金を持っていそうだから、だったぞ」
「うん、まあ。……買えるだろうね」
奴隷商は奴隷を売ってナンボの世界。一人でも売れなければそれは負債になる。そして食費をケチれば奴隷たちの見栄えは悪くなり、奴隷は売れなくなる。奴隷を売るときに、それまでの食費など掛かった経費を代金に計上するらしいが。
「それから、ミリィが気にしていたトラブルだけど。……この国の奴隷商にはいない、というか『犯罪ギルドと繋がっている奴隷商』が関係していたらしい」
「じゃあ、犯罪ギルドが滅んだことで撲滅された?」
「まだ逃げ回っているのもいるらしいが、今いる奴隷商たちは犯罪とは無関係だ」
奴隷商は人生を売買する。そのため不正が行われれば、問答無用で処刑される。そんな危険な橋を渡る物好きはいない。
ルーフォートの事件で関わった奴隷商は、事件を洗いざらい証言したり証拠を提出させられたのちに首を括られ、鉱山の周辺に現れた魔物を呼び寄せる撒き餌となった。
……罪を犯していない一般人を奴隷にしてきた。
何十人もの女性の人生を狂わせてきた罰としては甘くないだろうか。
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