私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル

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第八章

第279話

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『聖魔士くずれ騒動』ですっかり忘れられてしまっただろうか。アウミの存在が『生きた証拠』となり、判明した犯罪ギルドの事件を。すでに犯罪ギルドは解体し、犯罪者は捕縛され、犯罪に手を染めていない者は保護された。そして、聖魔士ギルドに侵入していた元・犯罪ギルド所属だった者たちも騒乱罪で捕縛された。

このタグリシア国で王都の次に大きいファウシスという街に送られて保護とギルド壊滅に協力という名目で取調べを受けていたアウミ自身は、本人の告白通りに調査が判明して『犯罪とは無関係の孤児』との太鼓判を押された。本人の希望通りにダンジョン都市シティに送り返された彼女は、ダイバたちの母が経営する食堂バラクルに引き取られて一年。まだ平均よりは小さいものの健康体といえるまで体力は回復した。そんな彼女は両親が冒険者だったこともあり、冒険者として必要なアイテムの知識を持っていた。

「今年からソマリアのパーティに加わることになったの。当分の間は荷物持ちだけど」
「ソマリアのパーティは三人だっけ?」
「はい。全員女の子だけど、無料ダンジョン専門だから大人たちに見守ってもらえるから安心して潜れるよって」

食堂に行ったとき、アウミは皿洗いの手伝いをしていた。そんな彼女が私に気付いて報告にきたのだ。時間をずらして行っているため客もまばらで、彼女も小休憩という形で休みをもらってきたようだ。

「じーさんやばーさんとか、なんか言ってきたんだろ?」
「はい。私を引き取りたいって。『何を今さら』って返事しました」

アウミは元貴族らしい。しかし、彼女の後継人の立場を両親の実家が取り合い、両親は彼女を連れて出奔した。国王と王妃に王子が誕生し、彼女は王子の婚約者候補に選ばれたらしい。それだけで政権争いが始まった。さらに彼女の弟が未来の側近候補に選ばれたと同時に、権力争いを優位にしたい両親の実家はアウミが王子妃に確定したと吹聴して回った。
……その結果、当時まだ二歳に満たなかった弟は誘拐され、見せしめのように惨殺体で発見された。その頃、弟のほかにも側近や王子妃候補にあがった子供たちが誘拐されては死体で見つかっていた。そのため、アウミの両親は息子を先祖代々の墓に埋葬するため妻子を連れて領地に戻った。そして息子を埋葬した翌日に領都を出たものの王都に戻らず、そのまま国を捨てた。
調査の結果、弟たちの死には犯罪ギルドが関わっていた。それだけでなく、冒険者になっていたアウミの両親の死にも犯罪ギルドが関わっていた。アウミだけでも見つけて取り戻そうとしたのだ。
そんなアウミが闇取引で奴隷として豪商に売られたのは、彼女を手に入れた犯罪ギルド側が引き渡しに法外な値段を上乗せしたからだ。それを突っぱねた結果、彼女の身柄は祖父母ではなく豪商に引き渡された。
ソアラとソマリアの顔馴染みの孤児が、その豪商の荷馬車の中で荷物の中に隠されるようにして眠らされていたアウミを見つけた。そして相談を受けた二人が、眠るアウミを二人に住む家に連れ帰った。

「二人には感謝している。怯える私を一生懸命世話して守ってくれた」

彼女たちはアウミがバラクルのフーリさんたちに預けられても何度も会いにいき、ファウシスに送られる際には「必ず戻る」と約束した。約束を守って戻っても、自ら生きられる道を選ばなくてはならなかった。二人に甘えるために戻るのでは意味がない。それだったら、引き取りを望んだ祖父母の元に帰ればいい。

「私は冒険者になる」

それを宣言して戻ったアウミはバラクルに向かい、住み込みで働かせてもらいたいと頭を下げた。もちろん、目指すのは冒険者だ。だから、満足に働けないかもしれない。
フーリさんたちは、そういったアウミに「だったら出世払いにする」と快く許したらしい。冒険者になり、ダンジョンに入って食材や魔物の肉を獲れるようになれば、バラクルに提供する。その誓いをして現在に至っている。

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