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第七章
第252話
しおりを挟む「……なんてことがあったのよ」
ミリィさんがエリーさんたちに笑いながら報告すると、話を聞いた皆さんから心配された。エリーさんと『鉄壁の防衛』の半数の皆さんは、今年もダンジョンに挑戦するそうでミリィさんたちのお店を拠点にするそうだ。
「エミリアちゃん、大丈夫なの?」
「ん~? なにが?」
「その、助けた母親のこと」
「ああ、ミスリアの?」
私の言葉に頷くエリーさん。他の皆さんも無言で頷いた。
「大丈夫じゃない? さすがにミスリアも母親の言動が修正不可能だと思ったらしくて、ピピンたちのお食事に提供したよ」
ピピンたちが常識から外れた考え方を消してくれると知り、ミスリアは母親の貴族脳を消してくれるように頼んできた。
ミスリア自身は、この国の王族や貴族の子供たちの礼儀作法教育を依頼されて、新国王たちと共に王都へ向かう。このまま放りだしていっても、王都へ一緒に連れていっても、迷惑をかけるだけでしかない。それは、ミスリアを信頼して教育係に任命した国王たちの顔を潰すことになる。
ミスリアのその訴えにピピンが了承した。私たちが空魚のところへ向かい、私が聖魔師だったと知って驚いていたミスリアの母親に覆い被さった。そして、二時間弱で吐き出されたそうだ。そのときからすっかり大人しくなったらしい。
「皆さまには大変ご迷惑をおかけしました。聖魔師様にも大変失礼なことをしてしまいました」
ひたすら謝罪し続ける母親に周囲は引きまくった。ピピンやリリンが『丸飲み』すると、それまでの自身の言動を深く反省して何度も謝罪するようになるらしい。
ミスリアの母親の謝罪は、三日後に妖精たちの『妖精の輪』で王都に戻されるまで続いた。
「今は大人しくなったそうだよ」
「あの母親、あのまま王都に送っていたら、今度は娘を国王たちの誰かに嫁がせようとしてただろうな」
ルーバーの言葉にミリィさんが苦笑する。私が席を離れて空魚と遊んでいるときに、「聖魔師が女では役に立たない」と言っていたらしい。直後に、ミリィさんの服に隠れていたピピンが『いただきま~す』とばかりにパックンとしたそうだ。
ピピンの中でもがき、大人しくなり……ペッと吐き出された直後には泣き続けていた。
「泣く⁉︎」
「そう。だいたいは反省するらしい」
「神の罰を受けている前国王たちは、罰が終了次第、パックンされることになってるよ」
「そして泣きながら謝り、その後はこの国の法律で裁かれて罰を受けるわ」
「抵抗も歯向かうこともせず、素直に裁判を受けて熱心に罪を償う。なあ、エミリア。ピピンたちの効能を魔導具で再現できないか?」
ルーバーの言葉にちょっと考えたが、なにが適当なのかがわからない。
「現時点ではムリだね。まず、『なにが正常かわからない』以上、製作者の固定観念で善悪が決められる。製作者が貴族の考えに近かったら、私たちの持つ常識が書き換えられるよ」
「それは……『殺人は許されない』という常識が『貴族は感情で殺すことが許される』に書き換えられる。さらに殺人が正当化されたら罪自体が消えることになる、ということか」
私の言葉にルーバーが唸った。
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