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第七章

第235話

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「エミリアの魔法はケタ外れだとつくづく思うよ……」

シーズルのため息混じりの声が聞こえる。

「本人はあまり体力がないけどな」

ダイバが私の頭を撫でながら苦笑する。

「竜人と比べるなあ」
「わかった、わかった。着くまで大人しく寝てろ」
「ベッドが喋るなあ」
「ハイハイ」

シーズルの背中をポカポカ叩く。さすがに音速と光速を繰り返したため、体力が限界まで落ちてしまった。……倒れなかっただけまだマシだ。
光速で一秒。風魔法の移動に弱いダイバは具合を悪くしなかったが、その代わりに私のほうが一気に疲れてしまった。最初と同様、王都から五分の距離まで来たが、そこから先はシーズルに背負われての移動。城門で、私に王都内の混乱を話してくれた門番が待っていてくれたため、ノーチェックですんなり中へ入れてくれた。

「いいか、エミリア。ここで大人しく待ってろ」
「ちゃんと結界の腕輪はつけているな?」
「うん。ちゃんと起動してる」
「よし。檻を置いていくからな。危なくなったら中に入ってろ」
「うん。わかった」

王都内で暴れている魔物は三体、ということだ。ほとんどの人が王都の外に逃げ出し、王族や貴族たちは王城に逃げ込んでいる。誰もいなくなったゴーストタウン状態の王都は、家々も壊れて廃墟のようだった。
大きな広場に公開檻を三つと移動檻を一つ置いたダイバは、シーズルと共に魔物の気配を探し、一番近くにいる魔物に向かっていった。しばらくすると大きな音がいくつも響き、それに合わせて地響きも繰り返し、その振動で壊れかけていた建物がトドメをさされて崩れていった……


「エミリア、大丈夫か?」

気付くとダイバとシーズルが心配そうに顔をのぞいていた。檻に凭れかかっていたから、静かになってウトウトしてしまっただけ。

「大丈夫。それより、衝撃が強すぎて……周囲の建物が崩れたよ」
「…………これは魔物のせいだ」

私が凭れて寝ていた檻から一番遠い檻に、気を失った状態の魔物が入れられている。

「神獣ベヒモスだ。……なんだって、聖魔士が神獣を使役できるんだ」
「……ダイバ」
「心配するな。あと二体……。たぶん、レヴィアタンとジズだ」
「……三位一体の神獣だね」
「現れてもエミリアは絶対に手を出すな。神罰がくだされるなら俺たちが受ければいい」

シーズルが言い聞かせるように頭を撫でてくれる。

「そのときは、みんな一緒に罰を受けよう? でもね、きっと三頭とも苦しんでいるよ。だから『助けてくれてありがとう』ってお礼を言ってくれるよ」

私がそういうと二人は苦笑する。

「そうだな。ここは結界が強化されているから、王都から出ることもできなかっただろう」
「隷属のシルシがつけられているから、逃げるに逃げられなかったよな。……苦しかったろう。もうすぐ苦しみから救ってやるから、今はゆっくり眠れ」

二人はまるで自分たちのことのように苦しそうにしている。『竜の生き血』は高価だ。竜はそれを目的とした密猟の対象とされている。竜人が人に似た姿なのは、人の世界に紛れるためだ。竜人のように人と姿が似ていれば罪悪感も生まれる。しかし、竜のように見た目が違えばその罪悪感は薄くなる。
……人間ほど愚かな生き物はいない。


バサリッと羽音が上部から聞こえ、地面に大きな影を生み出した。

「あ……。やっぱりきた」
「エミリア、下がれ」
「……大丈夫、だよ。敵意はないから。ベヒモスを心配してるだけ」

立ち上がるとダイバが身体を支えてくれる。

「おいで。ベヒモスは眠っているだけだよ」

両手を空に向けて伸ばすとジズが静かに降りてきた。ジズは『鳥の王』と呼ばれる不死鳥フェニックスだ。『天の歌い手』とも言われるくらい綺麗で透き通った鳴き声を持つと言い伝えられている。迦陵頻伽がうっとりするほど綺麗な歌声だったという。……うっとりしすぎて、そのまま昇天してしまうという伝説もあるが。

「シーズル」
「ああ。レヴィアタンもきたな」

ダイバが左側を向いてシーズルの名を呼ぶと、シーズルも頷いて左側を見る。

「レヴィアタンもおいで」

レヴィアタンに向けて左手を伸ばすと静かに近寄ってくる。恐竜の首長竜に近い姿だ。身体の下には乾いた地面ではなく水が広がり、その上をスーイスイとヒレを使って泳いで近付いてくる。その後ろにも水は残らず、乾いた地面があるだけだ。
どちらの神獣も、近付くと同時に身体を小さくしてくれる。自分たちに敵意がないと教えてくれているのだろう。
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