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第七章
第234話
しおりを挟む「悪い、遅くなった」
そう言いながら庁舎の都長室に入ってきたのはシーズル。ルレインがこの部屋に集合をかけてからすでに十分。緊急事態でこのタイムラグは痛手だ。
「遅い」
「遅すぎ」
「遅刻」
「ノロマ」
「だから「悪い」と言っただろうが」
ボカンッとゲンコツで後頭部を殴られたシーズルが、頭を抱えて蹲った。
「そういう時は「遅れてすみません」というんだ」
ミュレイから頭頂部にもう一発ゲンコツを落とされてシーズルが床に突っ伏す。
「すでに話は済んだ。シーズル、お前はダイバと一緒にエミリアと共にいけ」
「おい、説明は」
「王都行って魔物をすべて生け捕りにしてこい」
「……それだけか?」
「それだけで十分だ」
ミュレイの説明にシーズルが脱力した。魔物の討伐ではなく魔物の捕獲。それも言外に『傷つけるなよ』という脅しつきだ。
「ミュレイ、足りないよ。ついでに国王たち『お偉い連中』も回収。それから、私が王都にトドメをさしてから帰る」
「最後のトドメはするな」
私が補足するとダイバがツッコミを入れてきた。
「大丈夫です。どうせ責任は他の者が引き受けてくれます」
「誰がだよ」
「ダイバ」
「おい……」
「とシーズル」
「ちょっと待て!」
「ついでに国王」
「なんでだよ」
「元凶の聖魔士くずれ」
「……おい、ダイバ。どういうことか説明しろ。いったい何が起きているんだ?」
話し合いが一方的に終わり、口を挟むことなく決定事項となった『魔物の生け捕り』の説明をダイバはできない。ただわかることといえば……
「俺たち二人で、王都内で暴れている魔物を力ずくで公開檻に入れて連れ帰る」
「はあ? ……王都内だって?」
「だそうだ」
普通の人では難しいが、竜人の二人なら魔物の生け捕りも可能だろう。ということを、本人たち以外が勝手に決めた。
「入城制限されていて、話を聞いただけだから、王都がどうなってるかも見てないし魔物の数も種類も知らない」
シーズルの視線が私に向いたから素直に話すと「行けばわかるだろ」とダイバが息を吐き出すように言葉を吐き出した。
シーズルが遅くなったのは、公開檻の強度確認をしていたからだった。
「残り四つのうち一つの強度が落ちていた。そのため、持っていけるのは三つだけだ」
「足りなければ、眠らせてから連れてこよう」
「移動檻も使えばいいだろ」
「国王たちは縛ってこればいいわ」
「国王の拉致前提かよ……」
「違うよ。国王たちの連行と王都破壊が目的だもん。魔物の保護は追加」
「さらに悪いわ!」
「シーズルの頭が」
私のツッコミにウンウンと頷く周囲の人々。ここは公開檻と水槽の前。出かけた私が慌てて帰ってきたことと空の檻がいくつも用意されたため、商人や冒険者たちが集まっていたのだ。
「お前なあ……」
「だって。いい加減、現実を見せたほうがいいよ。自分たちが何をしようとしているのか。そして、大概にしないと『妖精なしで私が好き勝手に暴れまわる』よ? キマイラは神獣でしょ。それに空魚にまで手を出しただけでなく使役したんだ。ダンジョン都市は使役状態から救い出してくれたから守ってくれるけど、この国もコルスターナも。滅ぼされても文句言えない状態なんだよ?」
だから、直接ここへ連れてくることにした。もちろんルレインたちも気がついている。
「それと、コルスターナから使者一行がここへ向かっている。ミスリアという女性が使者だと思う。あと七日ぐらいで到着するよ」
「なんで知ってる?」
「魔物に襲われていたところを緊急クエスト経由で関わった。礼儀作法はできてるから、ちゃんと話せば通じると思う。ただ……ちょっと考え方があわない男が同行している。そいつなんだけど、緊急クエストの報酬が未払い。それはルレインが対応してくれる」
「コルスターナの使者が持ってきた檻の補強はもうすぐ終わる。引き取りを希望するならそれに入れるし、望めば冒険者ギルドで母国への護衛を依頼できるように配慮する」
「護衛はいる。それでバカなんだけど、私に自分たちの護衛を強要しようとしてミスリアに止められた。許可をくれるなら、キマイラの生き餌にしたいんだけど」
「許可はしません」
ルレインに却下されてしまった。
「まずは、エミリアに対しての慰謝料に緊急クエストの報酬の支払い。滞納金の支払いもありますね。ちゃんとすべての支払いを済ますまでは生かしておく必要があります」
「その男の名前は?」
「メクジャ。ミスリアもそうだけど、こいつも貴族だよ。指輪が反応して私に近付けなかったから」
「エミリア。さっきアゴールたちが言った通り、都長たちに任せてお前は出てくるな」
「はーい」
ダイバのいう通り、国王たちの件もそうだけどコルスターナの方も都長が主体で対応することが決まっている。私が面倒ごとに巻き込まれないようにするためだ。
ダイバが檻を収納したのを確認して、私たちは私の風魔法で王都へと向かった。
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