209 / 789
第七章
第222話
しおりを挟むアカンバナの鎮静剤は作ったことがある。ダンジョン都市で孤児が冒険者となった初期に、実際に魔物と対峙した時にパニックを起こす子がいる。親家族を殺した魔物と対峙した場合は特に、だ。彼らは無料のダンジョンで大人やベテラン冒険者に見守られて魔物と対峙する。魔物と最初に接触したパーティに討伐の優先権がある。それを別のパーティが横取りすれば罰を受ける。さらに、魔物から逃げて別のパーティに『押し付ける』のも禁止されている。だからこそ、戦闘が始まれば頼まれない限り手も口も出さずに見守る。そしてパニックを起こした子を落ち着かせるのも、見守る側の役目なのだ。
その時に使う鎮静剤は薬師たちが作ったもので冒険者ギルドに卸されている。ただ副作用があり、トラウマが酷ければ効き目が弱いと勘違いしてしまい、多めに摂取してしまう。そうなれば、副作用が強くなってしまう。
「鎮静剤を作って冒険者ギルドに安価で卸してくれ」
私が錬金師だけでなく薬師の肩書きを持っていることを知った職人ギルドから、そう言われたことがある。もちろんサクッとお断り。そして研究から二年して完成した鎮静剤はポンタくんに送った。元々この鎮静剤の副作用は眠気。一日しっかり眠って精神を回復させるものだ。それが強いと……永遠の眠りを迎えてしまう。特に子供に使用するのは問題だ。この世界には小児用というものがないのだ。
『子供なら大人用の薬を半分でいいだろう』
『この子は身体が大人と変わらないから、大人の薬を飲ませてもいい』
元の世界でも、そんなバカげたことをいう大人が多かったが、子供は大人とつくりが違う。内臓は大人の年齢になるまで成長する。そのため、『子供用』がつくられているのだ。そして『兄弟の年齢が離れていないから、片方がもらった薬を飲ませてもいい』というのも間違い。
それを知っているからこそ、この世界の『薬事情』を知って驚いた。大人も子供も同じ薬を飲んでいるのだ。それも同じ液体の小瓶を同じ量で。
……これで副作用が出ないはずがない。
そして、子供のうちに死ぬ確率が高い理由もわかった。病気で免疫力が落ちているのに、身体にあわない薬を過剰に投与されれば生命を奪われて当然だ。
『薬師の神に祝福を受けし者』
この称号があるため、難しい調剤が必要な小児用も作り出せた。苦い薬も、花の蜜で作ったシロップを混ぜたことで甘くなって飲みやすくなった。
『エミリア名義』で販売されたことで、ポンタくんの職人ギルドには注文が集中したらしい。即時却下。即時勧告。警告も忘れない。
「エミリアさんに直接注文しないでくださいね。もしエミリアさんに注文したことで妖精たちの不興を買い、国を滅ぼされたとしても責任は持てませんよ」
この言葉が効いたのか、私に直接言ってくることも手紙が届くこともなかった。
私服守備隊が軽い言い合いに巻き込まれたこともあったらしいが、お店のことか薬のことかは不明。ただ、妖精たちが出ていないから「お店はいつ開くんだー!」と絡まれた程度だろう。
45
お気に入りに追加
8,048
あなたにおすすめの小説
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。
この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。
レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。
【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。
そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】
死んだ王妃は二度目の人生を楽しみます お飾りの王妃は必要ないのでしょう?
なか
恋愛
「お飾りの王妃らしく、邪魔にならぬようにしておけ」
かつて、愛を誓い合ったこの国の王。アドルフ・グラナートから言われた言葉。
『お飾りの王妃』
彼に振り向いてもらうため、
政務の全てうけおっていた私––カーティアに付けられた烙印だ。
アドルフは側妃を寵愛しており、最早見向きもされなくなった私は使用人達にさえ冷遇された扱いを受けた。
そして二十五の歳。
病気を患ったが、医者にも診てもらえず看病もない。
苦しむ死の間際、私の死をアドルフが望んでいる事を知り、人生に絶望して孤独な死を迎えた。
しかし、私は二十二の歳に記憶を保ったまま戻った。
何故か手に入れた二度目の人生、もはやアドルフに尽くすつもりなどあるはずもない。
だから私は、後悔ない程に自由に生きていく。
もう二度と、誰かのために捧げる人生も……利用される人生もごめんだ。
自由に、好き勝手に……私は生きていきます。
戻ってこいと何度も言ってきますけど、戻る気はありませんから。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。
秋月一花
恋愛
「お前はいつものろまで、クズで、私の引き立て役なのよ、お姉様」
私を蔑む視線を向けて、双子の妹がそう言った。
「本当、お前と違ってジュリーは賢くて、裁縫も刺繍も天才的だよ」
愛しそうな表情を浮かべて、妹を抱きしめるお父様。
「――あなたは、この家に要らないのよ」
扇子で私の頬を叩くお母様。
……そんなに私のことが嫌いなら、消えることを選びます。
消えた先で、私は『愛』を知ることが出来た。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。