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第七章
第211話
しおりを挟む「こら! エミリア! お前、また何をやったんだ!」
食堂に入ると、今日は休みだったのか食堂にいたダイバからお小言をもらった。
「何にもしてないよ~」
「……じゃあ、昨日したことを言ってみろ」
「エミリア。今日は何にするの?」
「あ、ランチ。アイスコーヒーで、デザートにフィムの笑顔」
「じゃあ、おまけで抱っこもつけてあげるわ」
「ありがとう」
「エ~ミ~リ~ア~」
「や~ん。ダイバのお説教は注文してな~い」
「ランチサービスだ」
ニヤリと笑うダイバに頬を膨らませると頬を突っつかれた。
「で? 昨日は『何・を・し・た』のかな~?」
昨日はダイバにバレて叱られることはしていない……はず。
「屋台村を巡って、見せ物を見に行って……」
「そん時に、檻の仕切り板を外さなかったか?」
「……外してないよ」
「じゃあ、何をしたんだ?」
「隣のアレが出ていくことを知ったのか、「自分たちも出せー! 一緒に連れてけー!」って煩かったから、仕切り板を透明にしてご対面させたった」
面白かったよ~、と言ったらダイバは大きくため息を吐いた。
「エミリア。都長たちはどんな反応を見せたの?」
ランチのトレーを持ってきたフーリさんに聞かれたが、興味を持っているのは食堂の客全員のようだ。
「えーっと。普通の反応だったと思うよ? 仕切り板が透明になったでしょ? それで隣にいるのが魔物だと思って悲鳴をあげて、檻の中を逃げ回ったの。都長たちが見えるということは、反対側からも見えるということで……」
「連中をエサだと思ったアレが仕切り板に体当たりして暴れたんだ。それで都長たちが半狂乱になったんだ」
やり過ぎだ。そう言われて頭をコツンと叩かれた。
「ちゃんと不可視に戻したよ」
「今でも都長たちは半狂乱状態だぞ」
「自分たちがエサになるって思っているからでしょ」
塩漬け牛肉の蒸し煮のマヨネーズ和えを挟んだバゲットを頬張る。このコンビーフのレシピは、ミノタウロス軍団の肉を手に入れた時につくった。塩漬けにした牛肉を蒸し煮にしてほぐしたものだ。魔物の肉でも代用可能なのと塩漬けにしたことで長期保存も可能で、ポンタくんのところで瓶詰めにしたコンビーフが作られて、冒険者ギルドや商人ギルドで販売されている。
ちなみに、ここ『バラクル』では自家製コンビーフを使っている。塩分が少なめなのは保存を目的としている訳ではないからだ。
「お袋たちが作ったコンビーフ、美味いか?」
「うん! 美味しいよ」
「あら。ありがとう」
「エミリアはお袋たちの料理が好きだよな」
食べ物が口に入っているためコクコクと頷くと「詰まらせるなよ」と言いながらアイスコーヒーを差し出してくれた。
「エミリア。三日後に出立するらしい。その前に檻を移し替えたいらしい」
どうする? と聞かれて、ンーッと悩む。出立する前に檻を移し替えるのはいい。ただ、その檻の強度が問題だ。
「檻の強度を見直すように言ってもらえる? いくら檻が頑丈でも、扉や錠が軟弱では意味がない。あれは一部人間の人間もどきだから、城門の『魔物よけ』は効かない可能性が高いよ」
「そうか。すぐに連絡しておく。……移し替えはそれからだな」
「一日に必要な魔物の肉とか準備いいの? 国にたどり着くまで、どう考えても最低十トンは必要でしょ」
「そう言えば、冒険者ギルドに依頼がでてたな。ただ、ほかの依頼は納品されているが連中の依頼は集まらないって聞いたぞ」
「あれでしょ。一度に何トンも魔物の肉を依頼しているとか、相場より安く見積もられたりしてる……とか」
「ハハハ……。当たりだ」
ダイバが苦笑する。そんな量、何度ダンジョンに入って来ないといけないか知らないのだろう。
帰る道中で魔物を討伐すればいいと思っているかもしれないが、あんな凶暴なモノを連れて帰るんだから、魔物も寄ってこないだろう。
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