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第六章

第176話

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犯罪ギルドが完全に壊滅したのは先月に入ってから。エリーさんたちと「はじめまして」をしてから六ヶ月後のことだった。
そんなに簡単に壊滅できたことに驚いたが、なんてことはない。ムルコルスタ大陸で罪を暴かれた貴族が芋づる式に自滅していたために、貴族の子飼い……犯罪ギルドの者たちは貴族の邸に踏み込んだ守備隊に捕まった。運良く逃げのびた連中は、行くところをなくして彷徨った。そのうち、彼らは増えていき、行商人たちを襲うようになった。しかし、冒険者ギルドと共に守備隊が行商人たちを護衛する依頼を受けるようになっていた。行商人の方もキャラバン隊を組むようになっていたのだ。冒険者と守備隊が含まれているため、暗殺を生業にしていた連中でも太刀打ち出来ず、多数が捕縛された。その数六百は下らない。
そんなことがあったため、他国も他の大陸でも対策が立てられていった。
その後ひと月はずっと混乱続きだった。
一斉に取り締まりが行われ、各国で数多くの子供たちが保護され、数多の犯罪者未満の者たちが保護され、大多数の犯罪者が捕縛された。
それにあわせて、大小の罪を問われた貴族たちが罰を受け、その内の半数が爵位に領地の没収でお家断絶の処分を受けた。奴隷制度があるため、奴隷を保持している貴族は多い。それ自体に問題はない。……違法な手段で奴隷を買い、その奴隷を犯罪者に仕立て上げさせたことに問題があった。貴族たちでも、奴隷を買えるのは当主のみだ。そして家名ファミリーネームと契約する。それは当主個人と契約した奴隷は当主が死んだら解放されるからだ。そんな理由から、ほとんどの貴族は奴隷の売買をした当主に罪が問われ罰が科せられた。重い罰を課せられたのは、日常的に暗殺を命じていた者たちだった。
……そして、罪と没落を免れた若者バカモノが当主になった。

ここ最近起きている騒動から避難のにげるためダンジョンに入ることにした私は、いつものように五時前に関所ゲートに到着した。そこには警備隊の面々と管理部の職員がすでに集まっていた。許可証も持たずにダンジョンへ入ろうとする他国籍の冒険者たちが増えていると情報部のニュースが届いていた。そのために警備が強化されており、冒険者の皆さんには迷惑をかけることになるが協力をお願いしたい、とあった。隊員と職員たちはそんな連中を取り締まるためにいるのだろう。

「お、エミリア。そろそろ来るんじゃないかと思ってたが、やっぱり来たか」
「そりゃあね。バカばっかりで迷惑なんだもん」
「まあな……。『エミリアを手に入れれば妖精たちも手に入る』と思ってること自体が間違いなんだよな」
「連中は私じゃなく聖魔師テイマーを手に入れて見せびらかしたいんだよ。それも激レア物というか珍獣としてね。そのために、隷属の首輪と檻を用意して来たヤツもいるんだ。鎖を付けた首輪まで準備して、ね」

私の言葉にみんなは眉を顰める。

「完全に扱いだな」
「異常だろ」
「ホント、貴族って常識がないよなー」

犯罪ギルドがほぼ壊滅し、バカな貴族たちが自分で動くようになったのだ。バカだからこそ、私とは『貴族排除の指輪』で接触できないことをダンジョン都市シティに来てから知った。そこで諦めるならまだいい。自分の思い通りにいかないことに不満な連中は、足りない頭とさらに足りない常識とそれを補う非常識で行動に出る。
……それが貴族の権限を使った実力行使という名の交渉だ。別名を『バカのひとつ覚え』という。
まず、商人を使って私と接触をしようとしたが、私はいつものようにダンジョンに潜りに行っていたり、テントの中でものづくりに励んでいた。それでも、食堂やミリィさんたちのところに出かけた時に、貴族の息がかかった商人たちに絡まれたけど。

「『貴族のキの字はキチガイのキ』って小さい頃歌ってたけど。マジでその通りだよな」
「悪い貴族の方が目立つから仕方がないが……。マトモな貴族もいるといえばいるんだよなー」
「はあ? お前、貴族贔屓びいきか?」
「いや、違うって。妖精の罰騒動のあと、貴族の女性が「同じ貴族として恥ずかしい」って言ってくれたんだ」
「なんだ。好みだったって?」
「違うって! 「ご迷惑をお掛けしますが」って。さっきも貴族たちがどうしてるか心配しててさ。俺は詳しく知らないって言ったら「あとで皆さんでお食事にでも」って言いながら金を出してくれたんだぜ」

思わず、全員が無言になったのに当の本人は気付かず「な? 優しいだろ?」と笑っている。

「これって『買収された』っていうんだよね」

私の言葉に、ピンク色のお花畑に埋もれた一人以外の全員がピッキーンッと固まった。
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