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第六章
第145話
しおりを挟む私の家の前の通りは、城門から関所まで一直線ですが、完全な『貴族排除通り』です。どの店も家も『貴族お断り』になってます。それはこの道が過去の騒動で貴族の被害が大きかったためです。ちなみに『貴族接触不可』の機能をつけたアクセサリーは大人気で、他の町からも購入希望者が職人ギルドや商人ギルド経由で制作依頼が届いているそうです。遠回しに「作って欲しい」と言われて「分かりました」と言ったら嬉しそうにされましたが「商人ギルドも職人ギルドもやめます」と言ったら固まりました。
必死になって引き止めようとしても私が「お帰り下さい」と言って話を聞かなかったら、「こんなことすれば、どうなるか分かっているんだろうな」と強迫してきました。
「ええ。この会話が記録されている以上、十分な証拠になることは存じ上げております」
「・・・殺されたいようだな」
「お前みたいな女ひとり、簡単に消せるんだぞ!」
「謝罪してその身体を差し出すなら許してやってもいいがどうする?」
「・・・聖魔師相手に何を言ってるか分かってるのですか?『帰る場所』が残っているといいねえ」
やっと目の前にいるのが『大陸法』で手出しを禁止されている聖魔師だと思い出したようです。
「出て行きなさい。『本気で怒り出す前』に」
その言葉で慌てて出て行きました。最後に「ただで済むと思うなよ!」と捨て台詞を吐いて。
記録は情報部に送りつけました。その1時間後にはニュースになって、ダンジョン都市内で『情報共有』されました。
その時点で、すでに職人ギルドと商人ギルドの建物が砂と化し、個人宅も砂と化していました。その原因として記録が使われたのです。
さすがにこの問題は『権力の私物化』として、何方のギルドマスターも警備隊で厳しく取り締まられた。さらにこの話を聞いたダンジョン都市のトップである都長が両ギルドの調査を命令したところ、依頼の手紙とともに金銭や物品の享受が判明。賄賂を受け取っていたことで両者ともに免職。ダンジョン都市からの追放。依頼をしてきた町の町長に依頼書や物品も金銭も送り返して抗議をしてくれました。
どの町も賄賂がバレてギルドマスターが免職されて追放されたり厳罰を科せられたことで「ヤバい相手に手を出して怒らせた」と気付いたギルド側が慌てて謝罪してきた。その時になって、やっと『ギルドマスターたちが聖魔師に礼を欠き、暴言を吐き、手を出して怒らせた』こと。そして私が『ギルドを脱退した』ことを知った。妖精たちが動かなかったのは、ギルドマスターたちが手を出さなかったからだ。
ギルドに所属しないということは自由販売が可能ということ。価格を自由に決められる。価値の暴落など思いのまま。 高くも安くも売ることが出来る。ギルドに所属していても、実は価格を自由に決められる。だけど「価格を均一にして」と言われる。
そして、ギルドに所属しなければ価格に口を挟まれることはない。店を出すのは自由で、ギルドに入る必要はない。ただし、どんなトラブルが起きても助けてもらえない。
「別に嫌な思いをしてまでギルドに所属する必要ないよね。トラブル起こした相手と取り引きするのが面倒なら、極刑にして貰えばいいし・・・。妖精たちに任せればいいんだから」
私の言葉に各地のギルドから話し合いに来たギルドマスターたちが青褪めてしまいました。私が謝罪を受け付けなかったこともあり、職人ギルドも商人ギルドも大騒ぎになったようです。
ギルドマスターたちからの一方的な訴えを聞いた都長が私から話を聞くために直接来たらしいが、すでにダンジョンへ逃げ込んだ後だった。でも私服守備隊に「伝言あるなら預かるぞ」と言われていた。その預けた言葉を聞いたそうだ。
「これ以上しつこくつけ回すなら、それ相応の『お礼』をさせてもらう」
それは連日押しかける他の町のギルドマスターたちに宛てたものだったが、私の怒りがそろそろ限界で、妖精たちも暴走しそうなためダンジョンに入った事を知った。そして、私服守備隊から連日襲撃を受けて迷惑をかけられていることなどを聞かされた。ただし、迷惑しているのは近所だけで、結界を張っている家や中の私には影響はない。つまり、壁相手に騒いでいるようなものだ。
「妖精たちが本気で怒り出せば・・・。エミリアが此処を好きでいてくれるから今は我慢しているが『エミリアに気付かれなければいい』と考えが行き着いたら」
「その町そのものが滅ぶと考えた方がいい」
「それと連中の言葉を信じない方がいい。連中はエミリアをギルドに取り込んで『道具』として扱き使うつもりだ」
都長は初めて状況を知り、訴えを出したギルドマスターたちを呼び出してもう一度証言させた。
彼らは自分たちの『嘘の訴え』が認められると喜んで、一方的に私の悪事などを並べ立てていた。その場には鑑定士もいて、証言がすべて嘘だと判明した。
厳しい拷問の末、ひとりが自白をした。
私をギルドに戻し、自分たちの依頼通りに商品を作らせて納入させる。そして仲介料などで売り上げの8割を巻き上げる。そんな馬鹿げた腹芸を知った都長が許すはずもない。
隠し持っていた計画を暴かれたギルドマスターたちは全員に重罪を問われ厳罰を科せられた。
情報部からのニュースで顛末を知った私たちはダンジョンから出た。ダンジョンを5ヶ所渡り歩いたため、素材も大量に採取・採掘出来た。
「おう。おかえり。どうする?騒動も落ち着いたようだし、いったん帰るか?」
「ただいま。そうだね。疲れたからしばらく家で過ごすよ。肉や魚を引き取ってもらえるか?」
「ああ。・・・相変わらず桁外れな量だな。ん?コイツとこれはギルドから依頼が出てるな。じゃあ依頼達成ということで。よし、金額はこれだ。納得出来たら端末に手を乗せな」
手を乗せるとお金が身分証に振り込まれ、冒険者ランクが上がった。この都市の端末は冒険者専用に特化している。手を登録していれば、身分証代わりに使えるのだ。
《 エミリアー。あれ伝えなきゃ 》
「あ、そうそう。忘れてたよ」
光の妖精が涙石から飛び出して、カウンターに腰掛ける。ポニーテールの頭を撫でると、嬉しそうに笑った。
「どうした?何かあったか?」
「最後に入った71番ダンジョンの灯りが切れかかってる」
「71番?・・・まだ交換時期じゃないな」
《 あと一週間で切れるよ 》
「一週間で切れるって」
「そうか。すぐに魔力の補充をさせる手配をしよう」
《 魔石が寿命だから補充してもダメだよ 》
「スワット。魔石が寿命らしいよ。だから予定より早いんじゃないか?」
「ああ。そういうことか。ありがとな」
スワットは私が妖精の頭に手を乗せているのに気付いて目線を向けて礼を告げる。
《 どういたしましてー 》
「どういたしまして。だって。さ、帰ろっか」
《 はーい 》
光の妖精は返事をして涙石の中へ戻った。
「悪かったな」
「私なら大丈夫。妖精たちがいるからね。一週間って言ったけど、光の妖精が妖力を貸してくれたから」
「元々は?」
「半分以上が切れてた。多分、前回魔力を補充した時に寿命が近かった魔石は半分も補充が出来ていなかったと思う」
「そうか。別のダンジョンも調べた方がいいな。いや。年に一回でも魔石自体を交換するように提案した方がいいだろう」
「まあ、あまり入られないダンジョンでも灯りは点いているから。一定量以下しか補充出来なければ寿命か故障を疑った方がいいわね」
「そうだな。その点も提案しておこう」
ダンジョン管理部では、ダンジョンで獲た食材や素材を引き取ってくれる。採取に失敗して価値が下がり二束三文の素材でも買い取ってもらえるのだ。だから、孤児が「ちょうだい」と言っても渡すものはない。それを知るのは、孤児が冒険者になってからだ。
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