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第五章
第104話
しおりを挟む私は部屋に戻らず、施設内の休憩室にテントを置いて調合や錬金を続けていました。キッカさんやエリーさんが食事を送ってくれるからです。
実はあの日以降、廊下や食堂で会っても皆さんが『私から目を逸らす』ようになってしまいました。理由は分かっています。ですが、露骨に目を逸らされたり避けられたら、誰だって不快になりますよね。
だから一度研究施設から出て食堂に行き、食堂の様子を記録してエリーさんとキッカさんに送りました。『私目線』での記録です。そのつもりがなくても、『私から皆さんがどう見えているか』を知ってもらいたかったからです。
その上で、研究施設から出たくない旨を伝えました。
私が送った記録を見て、私が今どのような立場なのかを知ったエリーさんとキッカさんは、すぐに研究施設に来てくれました。ちょうどテントに戻っていたところだったので休憩室に出ると、真っ先に二人から謝罪されました。
「お二人が謝罪することではないですし、皆さんの気持ちも分かります。・・・でも、あんな風に露骨な態度を取られるのは辛いです」
俯いてそう言ったら、エリーさんに抱きしめられました。
「エアちゃん。食事は私かキッカが送るわ。だから、ちゃんと食べて。ね?」
「エアさんの食事はオルガやソレス、ボンドが責任持って作ります」
「オルガさんやベルドさんたち。・・・あの日の料理班だった皆さんは大丈夫ですか?」
「はい。誰にも罪はないことをエアさんが認めて下さったので」
あれはゼクトたち三人の犯行です。オルガさんたち料理班は、彼らの行動がおかしくても気にしないように操られていたのです。
「エアちゃん。時々でいいからミリィたちと一緒に食事しましょう?」
「此処で?」
「食堂で」
「連中が鍛錬している時間に食堂を『貸し切り』にしましょう」
「どうしましょう。お鍋にしましょうか。おでんにしましょうか。それともチーズタッカルビやチーズフォンデュ。おやつならチョコレートフォンデュでもたこ焼きでもいいですね」
「それ全部」
「それは食べ過ぎですよ」
私に遠回しに『ダメ』と言われたエリーさんは「じゃあお鍋にチーズフォンデュにたこ焼きに・・・」と呟いています。
「エリー。『1回1種類』にすれば、何度も楽しめるだろ」
「それでは物足りん」
「エアさん。隊長たちが休みの日に食事会をしましょう。日程が決まったら連絡します」
「はい。分かりました」
まだ諦め切れないのでしょうか。エリーさんはメニューをいくつも口にしながらキッカさんに連れ出されて行きました。
最初の食事会は六日後。『たこ焼きパーティー』になりました。
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