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第四章

第88話

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『エアさん。休憩のために村に入りますよ。身元確認のために出て来てください』

『はい。今準備して出ます』

王都を出て今日で四日目。私は荷台の奥、御者台の後ろにテントを張っています。キッカさんたちは5人が見張りで荷台に残り、残りの人たちは荷台の中央にテントを張って、中で特訓や鍛錬をしているそうです。行きで飛ばした町や村は、帰りに寄ってくれるそうです。
最初の町で皆さんと話したことが思い出されます。

「全部寄ってもらえるのですか?」

「はい。ひとつでも行かなければ、王都に帰った後に魔法で『飛んで行く』でしょう?だったら時間をかけてでも寄って行けば満足して貰えるはずです」

「・・・ホンネは?」

「『アンタたちが寄ってあげなかったから、ひとりで行っちゃったじゃない!』って確実に責められます」

「そして間違いなく『追加訓練』が待ち受けています」

「・・・楽しそう」

「やめてくださいね。最近、エリーが『ボール』の魔法を使えるようになったため、使いたくてウズウズしているんです」

「ああ。だからエリーさんが『私の自由にしていい』って言ってくれたんですね」

王都を出発する時に「この旅はエアちゃんが楽しむ旅だから。気になったら遠慮しなくていいからね。キッカたちを振り回しておいで」と言われたのです。

「エリー。なんてことを・・・」

「エアさん。一応、トラブル回避のためオレたちが付き添います。日時の指定や約束はしていませんから、屋台や露店を楽しんで構いませんよ」


そのため、町や村では必ずと言っていいほど休憩をしてくれます。

「馬車を引いてくれる馬を休憩させる、いい口実になっていますよ」

いくら馬車に魔法が掛かっていて重さがほとんどないと言っても、休みなく何時間も歩かせ続けるのは可哀想ですよね。
ちなみに休憩の時は、何処の町や村の入り口にもある『馬車まり』で預かって貰えます。ただ預けるだけなら無料です。持参した飼い葉や水を与えるのも無料です。ですが、馬車留まりの飼い葉や水を与えるなら有料です。
キッカさんたちは、持参した飼い葉や魔法で出した水を飲ませています。守備隊の頃から、水や飼い葉に毒を含めた有害物が混入するのを防ぐために持参しているそうです。

「特に寒村で多いのですが、馬を病気にさせて少しでも長く村にとどめようとするんですよ」

「そんなことしたら、村の信用をなくすだけですよね。・・・女性がてがわれたしとねを用意されていませんでしたか?」

・・・全員の目が泳いでいます。皆さんの目の前には、どんな幻のサカナが泳いでいるんでしょうね~?

「一応エアさんの誤解を解いておきますが。我々は用意されたことはあっても、テントを持っているためお断りしました。そして、馬を含めて結界を張り、荷台の中にテントを張ったりして寝ていましたよ」

「だいたい、そんな色仕掛けに引っ掛かって、あとで隊長たちにバレたら怖いじゃないですか」

「『誘惑に負けるような弱い精神を叩き直してやる』と言われて特訓が待っていたのですか?あ、でもそう言いそうなのはエリーさんですが、エリーさんは守備隊ではないから違いますね」

「いえ。言ったのはエリーです。エリーは守備隊の鍛錬で各守備隊に顔を出していましたから」

「ああ。それで『水の迷宮』の二階で魔物に襲われていた人がエリーさんを知っていたんですね。『北部守備隊の出身者』と言っていたのに名前を呼んでたから」

「ああ。アルニスのことですね。アイツもエリーの特訓を受けたひとりですよ」

「アイツらはエアさんが助けた少年を見殺しにしたのと女性に対して『不適切な行動』をしたとして、永久奴隷として鉱山に送られました。現在は冒険者であっても『元・守備隊』でしたから、倫理から外れた行動を責められ、北部守備隊からも厳しい罰を望まれました」

「北部守備隊は激しいバッシングを受けました。責任を問われましたが、流石に『除隊後の行動まで隊に責任を問うのはどうか』となり、本人たちに責任を取らせることとなりました」

北部守備隊はせめを負わなかったが、信用と信頼は地の底に埋もれたそうです。

南部守備隊はかたや、元・隊員たちと共に『水の迷宮』の悪事をすべて暴いた英雄ヒーロー北部守備隊はかたや、元・隊員たちは『水の迷宮』で初級ランクの冒険者を故意に見捨てた上に婦女暴行までして捕まった犯罪者。もちろん責任は問われなかったとはいえ、北部の住人から恨まれたでしょうね」

「ええ。あのあと起きた暴動で一番激しかったのは北部です」

「対象が同じだから、誰でも比べてしまいますよね。北部守備隊の隊員でさえ。・・・そのこと自体が間違いなのに」

私の最後の呟きに皆さんから驚かれました。

「え?!」

「それはどういうことですか?」

「どうって・・・。南部守備隊では皆さん『一糸乱れぬ行動』をされていましたか?」

「いえ。そのようなことは・・・」

「では、王都守備隊全体ではどうです?『王都を守る』という点では一緒だと思いますが」

マスゲームのように、一糸乱れぬ行動をするのでしょうか?

「・・・エアさんのいう通り、俺たちは隊長によって違っています。ただ南部のみ違っています。フィシス隊長たち四人の意思は同じですし、他の六隊は『良いところは見習う』というスタンスです」

「根本的に違うのに比べるなんて、おかしいと思いませんか?」

「確かにそうですね。私たちは競い合っていた訳でもいがみ合っていた訳でもないです。逆に助け合っていました」

「暴動が起きた時に、南部の隊は手助けに行っていましたね」

「はい。・・・何時も協力しあっていたのに、何故あの時は助けなかったのだろう」

あら、皆さん後悔しているようですね。

「仕方がないですね。私の代わりに色々な証言をしていたり、王都治療院や審神者の取り調べに立ち会っていたんでしょう?」

「・・・しかし」

「もう!何時までもこんな所でグダグダ言うなら、『ボール』に入れて王都まで強制的に走らせますよ!もちろん休憩もなしです!」

「「「 すみませんでしたー!!! 」」」

簡単にイメージ出来たのでしょう。全員が一斉に頭を下げました。
ただ・・・気付いたのは何人いたでしょうか。王都から私がいる所まで戻るのに、エリーさんが取得したボール魔法が使われるという事実ことに。そして、私が『此処で大人しく待っていない』ということに。

・・・さっさとセイマール国に入っちゃいますよ。
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