64 / 789
第四章
第77話
しおりを挟むエリーさんが馬車に戻ってきたのは、出かけてから五時間後でした。ですが、すでに夕方のため、このまま『ジャローム』に泊まるようです。
「テントに?」
「そうね。アンジーとシシィは宿に泊まるけど、さすがに全員は泊まれないわね」
「馬車で寝てたら、そのまま王都に向かってもらえますか?」
「そうね。ちゃんとテントに入って結界も張るって約束するならね」
「でもエアちゃん。夕食は一緒に食べるからね」
「回収隊の人たちは?」
「連中は別の宿よ」
「子供じゃないんだから、そこまで面倒は見ないわ」
「でもエアちゃんは『私たちの妹』だから、いくらでも面倒見るわよ」
そう言いながら、シシィさんが抱きついてきました。
「そうね。エアちゃんは私たちの『末っ子』だから」
「じゃあ、『お父さん』は精霊王さまですか?」
「うーん・・・。精霊王は父親というより『近所のオヤジ』じゃない?」
「あ、確かに。もしくは『ダメ親父』よね」
皆さん。『精霊王さま』という高位な立場より、『シェリアさんとフィシスさんの父親』という身近な立場のようです。
「あ。そうそう。エアちゃんに悪いけど、フィシスに『バカに攻撃魔法を受けた』って教えちゃったから」
「・・・ミリィさんは?」
「泣いて怒った。フィシスと一緒に。さすがにキッカでも止められなかったみたいよ」
「それでどうしたんですか?」
「心配しなくても大丈夫よ。以前精霊王に『エアちゃん用のアミュレットを作る』って言ったでしょう?それを作っているみたい」
「ポンタくんに作ってもらったんですか?」
「いいえ。アミュレット自体は普通のものよ。違うのは『何を付加したか』ってことね。多分『悪意ある攻撃魔法を無効化する』って効果は付けているわ」
「悪意ある攻撃魔法・・・ですか?」
「ええ。今回エアちゃんが無事だったのは『交渉人の保護』が効いたからなのよ。それだって何時までも続く訳ではないのよ。交渉決裂後に逆恨みで攻撃されたら防げないわ」
ああ・・・良かった。私に攻撃魔法が効かなかったのは『最後の聖女だから』じゃなかったようです。これなら、交渉人一行に責められても逃れられそうです。
「エアちゃん。その効果は『魔物相手』に効かないわ。間違っても『無敵状態』にならないから、『ボールに入って魔物に体当たり』なんて・・・考えてたのね」
えーっと・・・。赤と緑の兄弟で有名な某ゲームで『星を取ったら一定期間無敵になった時』に流れるテンポの速い曲が頭を過ぎりました。それと同時に、全身がピカピカ光って『敵に体当たり』している笑顔のアクアとマリンを思い浮かべてました。
「いい?フィシスたちが作ったアミュレットだって『いつでも安全』じゃないからね?」
「そうそう。作ってるのは『真面に見えてしっかり抜け作姉妹』のシェリアとフィシスなのよ。絶対「こんなつもりじゃなかったのー」って言いそうだわ」
「『言いそう』じゃなくて『絶対言う』。そう断言できるわよ」
皆さん、評価が辛口ですね。・・・今まで、酷評されるだけの『何か』を仕出かしているのでしょうか?
何方にせよ、アミュレットに依存し過ぎないように注意しましょう。
シシィさんとアンジーさんが泊まる宿に食堂はなく、私たちは居酒屋に近い『食事処』で夕食を食べることになりました。
町へ入ったらそのまま宿の馬車置き場に馬車を置くことが出来ました。部屋が足りないため、部屋に泊まるのはテントを持っていないアンジーさんとシシィさんになりました。で、残りは馬車で寝ると伝えたところ、宿の人から申し訳なさそうにされました。この町はハイエル国に近いため、両国の商品を輸出入する行商人が多いそうです。そして、彼らはテントを持っていないため、宿に泊まるそうです。
「冒険者はどうしているのですか?」
「テントを持っている冒険者は城門前の広場にテントを張っています。テントを持たない冒険者は、バーなどで飲み明かすようです。中にはテントを持つ冒険者に『一晩の宿』を借りる人もいるようですが・・・。それが原因でトラブルになることもあります」
「そりゃあそうよね。『他人のテントに泊まるのは、どんなに親しい間柄でもルール違反でマナー違反』だもの。この町の冒険者ギルドは取り締まりもしてないの?」
「『冒険者は他の冒険者に迷惑をかけてはいけない』ってルールも破ってますよね?」
「そうね。・・・変だわ。この町からそんな報告書が届いたことがないんだけど」
「不名誉だから揉み消しているのでしょうか?」
「それは十分あり得るわ。・・・エアちゃんが此処に来る前に調べさせた方が良さそうね」
「エリー。これは徹底的に『この国のすべて』を調べた方がいいみたいね」
「まったく・・・。守備隊は東西南北に分かれているからいいけど、冒険者ギルドはこれからが大変だよ」
「私も手伝う」
「エアちゃんは手伝わなくていいわ」
「ダンジョンの調査は?」
「其方は『城の連中』が動くわ。でもダンジョンの調査を依頼された時はエアちゃんも連れて行くから安心して。どうせなら踏破したいでしょ?私たちは手を出さないから『エアちゃんらしく』進んでくれればいいからね」
私も今は『初心者用ダンジョン』を専門にクリアしています。ですが、何時までもソロでダンジョンを攻略出来ないでしょう。そのためにも、『少しでも気心の知れた人たち』とパーティの疑似体験を経験していこうと思っています。
まだ夕食には早いため、二時間ほど露店街を歩き、フルーツや食材を購入して回りました。此処で見つけたのは輸入品のチョコレートでした。ビターで甘さがなかったのですが、それは十分加工できます。と言うかします。
そして、その店で見つけました、この世界では『カリー』と呼ばれる香辛料。舐めさせてもらって確信しました。『カレー粉』です。正確には『外観がヤシの実で中身がカレールゥ』です。炒め物の調味料に使うそうですが、あまり売れ行きも良くなく、興味を持った私に「半値以下で全部売りたい」と言ってきました。
もちろん購入しました。『ハイエル国からの輸入品』だそうです。『ハイエル国から欲しいものリスト』に加えておきましょう。
「エアさん。そろそろ戻りましょう」
「ちょっと待ってね。あと一軒」
私の護衛としてついて来てくれたツミアさんが苦笑しながら「あと一軒だけですよ」と言ってくれたため、気になっている屋台に向かいました。そこに並んでいたのは植物の種や苗木でした。ジッと見ると、アミュレットの鑑定機能が植物の名前と詳細を表示していきました。名前は違いますが日本でも聞いたり見たりして馴染みのあるハーブや、バラに似た観賞植物です。そういえば『虫よけ』はカミツレに似た植物から作られています。他に似た植物があってもおかしくないでしょう。
苗木は全種類を一束20本。種は全種類を一袋50から80粒。小分けで販売されていないので大人買い状態です。
「薬師か何かかね?」
「はい。これらは何処かの特産品ですか?」
「ああ。『アルケミア』の特産品だ。気温と湿度が高い場所じゃないと育たないらしくてな。残念ながらこの国では育てられんから、こんな形で持って来るしかないんだよ」
「他の人たちはどう使っているのでしょう?」
「種なら土魔法で数枚の葉を出したり、木は枝や葉を出しているな。そうそう。この冊子をあげよう。買って貰った木や種のことが書いてある」
「わあ。ありがとうございます」
「良かったですね」
はい。
「その本を読むのは帰ってからにして下さい」
「はい。じゃあ、ありがとうございました」
「フレンドの『取引店』から購入出来るからな。『シュツル』という名だ」
「はい。分かりました」
夕飯時になり、人の増えた通りをツミアさんから離れないようにくっついて『食事処』へと向かいました。
鑑定の詳細に、ラベンダーやバラに似たものがありました。そのため香水でも作れたらいいな~と思いました。それをお風呂に一滴垂らしたり、料理に、というかスイーツにも使えないかと考えています。
合流したアンジーさんたちと食事をしてる時にそう話したら、「エアちゃんらしい」と笑われてしまいました。
64
お気に入りに追加
8,048
あなたにおすすめの小説
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。
この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。
レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。
【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。
そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】
死んだ王妃は二度目の人生を楽しみます お飾りの王妃は必要ないのでしょう?
なか
恋愛
「お飾りの王妃らしく、邪魔にならぬようにしておけ」
かつて、愛を誓い合ったこの国の王。アドルフ・グラナートから言われた言葉。
『お飾りの王妃』
彼に振り向いてもらうため、
政務の全てうけおっていた私––カーティアに付けられた烙印だ。
アドルフは側妃を寵愛しており、最早見向きもされなくなった私は使用人達にさえ冷遇された扱いを受けた。
そして二十五の歳。
病気を患ったが、医者にも診てもらえず看病もない。
苦しむ死の間際、私の死をアドルフが望んでいる事を知り、人生に絶望して孤独な死を迎えた。
しかし、私は二十二の歳に記憶を保ったまま戻った。
何故か手に入れた二度目の人生、もはやアドルフに尽くすつもりなどあるはずもない。
だから私は、後悔ない程に自由に生きていく。
もう二度と、誰かのために捧げる人生も……利用される人生もごめんだ。
自由に、好き勝手に……私は生きていきます。
戻ってこいと何度も言ってきますけど、戻る気はありませんから。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。
秋月一花
恋愛
「お前はいつものろまで、クズで、私の引き立て役なのよ、お姉様」
私を蔑む視線を向けて、双子の妹がそう言った。
「本当、お前と違ってジュリーは賢くて、裁縫も刺繍も天才的だよ」
愛しそうな表情を浮かべて、妹を抱きしめるお父様。
「――あなたは、この家に要らないのよ」
扇子で私の頬を叩くお母様。
……そんなに私のことが嫌いなら、消えることを選びます。
消えた先で、私は『愛』を知ることが出来た。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。