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第三章
第35話
しおりを挟む学校で授業を終えて、生徒たちは各々の『午後の予定』に分かれて移動する。
午前は学校で『読み書き計算』という基礎を習い、昼食は食堂で食べる者と持って帰る者とに分かれる。午後から家の手伝いをする者は持ち帰っているのだ。手伝いがなければ、そのまま午後からの『聖なるちから』のコントロールの授業に出たり、技術科の授業を受ける。
技術科も、木を伐る基礎から籠を編んだり、機を織ったり。多種多様な技術を教えていく。講師は現役を引退したシュリの両親たちだ。
「パパ。ナシード」
食堂に入ると、ちょうど食事を終えて出ようとしたらしいミリアーナとユーリカに会った。
「午後は何の授業だ?」
「私は帰るよ。ママがそろそろ動きにくいみたいだから、ママの仕事を手伝うんだ」
「もうそろそろか?」
「リュシーナの話だと、お腹の子は「大丈夫」らしいんだけど・・・。あと5日だけどママが心配だから」
ユーリカは眉間にシワを寄せる。幼いため『そばにいる』ことしか出来ないが、何かあればミリィに連絡が取れる。・・・それだけでも、そばにいてくれるだけでも十分役に立っている。
「ミリィは?」
「私は機織り。本当はお祖母ちゃんの『縫製』に入りたかったけど、ジャンケンに負けちゃったの。お祖母ちゃんの授業って女子に人気なの」
「まあ。それは仕方がないな。だが、機織りが出来て縫製も出来るようになれば着るものに困らないな」
「しかし、レリみたいに編み物や刺繍が出来るのもいいだろう?」
「・・・そっちはダメ。私には向いてない。ユーリカのほうが上手なのよ」
「私はママから教わったの。出産後はベッドから出られないから、何度も繰り返していたら上手に出来るようになったんだって」
「・・・ああ。あれは酷かった」
シュリの呟きにナシードも黙って頷いた。
冬はそれなりに雪が降るものの地熱のお陰か積もらない。しかし、雪が降るくらいには気温が下がり寒くなる。そして、レリーナから編み物を習い始めたばかりのシンシアは夫のオルガにマフラーを編んだ。目が不揃いとかそんなことは問題ではなかった。
「何故普通にまっすぐ編んでいたのがカーブしてるんだ?」
編み上がった波打つマフラーを見て、編んでいたシンシア本人がそう感想を漏らしたくらいの出来だった。・・・それを見たレリーナが言い当てた『原因』は単純なものだったが。
それからはレリーナから『特殊な編み方』を習い、それをフルに活用してマフラーや帽子を編めるようになった。ただしレース編みはその編み方が出来ないため『出来ないもの』と諦めている。
その点、刺繍は『図案』が下描きされている上に糸でステッチしていくだけだ。絵が下手でも転写紙でなぞるだけなのでほとんど失敗はしない。そして『誤魔化しもきく』のだ。
「まあ、『村一番上手なレリーナ』と比べる方が間違いだな」
「だが、レリは「心を込めて作ることが大事だ」といつも言っている」
「・・・それも一理あるな」
シンシアは編んで編んで編み続けて。今では『趣味』と言える範疇にまで腕を上げた。
しかし、オルガはどんなものが出来上がっても文句も言わずに身につける。
「心がこもっている」
必ずそう言うのだ。
オルガの『事情』は聞いていない。ただ「子供の頃に家族と死に別れた」と聞いただけだ。
だからこそ『今の家族』を大切にしている。『心をこめたもの』を大事にしている。
『家族』とは人それぞれ。
本人たちがそれでいいのなら、外部が口を出すことではない。シュリもナシードもそう結論を出していた。
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