上 下
32 / 43
第二章

第32話

しおりを挟む

双子が王城から姿を消したのは、魔物の襲撃が起きて城内が混乱している最中さなかだった。8歳。しかし、大人顔負けの賢い王子と王女だ。

「ろくに剣も振れぬ私たちは、足手纏いにしかなれません。部屋におりましょう」

「父上。母上。兄上の皆さん。『お国の大事だいじ』にお役に立てず、申し訳ございません」

誰も『邪魔』だとは思っていない。
しかし、オーラル王子はまだ剣の腕前は未熟の域を脱しておらず、自身と妹の身を守るだけの器量しかない。読書好きのエブリスタ王女は多種多様な知識を有しているが、このような時に使える知識は持ち合わせていなかった。
だからこそ、邪魔にならぬよう、二人一緒の部屋にいることにしたのだ。二人が同じ部屋で過ごし、部屋から出なければ、警護する兵士の数が減らせる。
国王以下、その場にいた者たちにも、二人の思いを理解出来ていた。
それに今回は国と国、人と人の争い事ではなく、敵は魔物なのだ。敵の侵入は今はまだ防いでいる。ただ・・・もしものために、王都の住民を南の門から逃している。ほとんどが最低限の荷物しか持っていないらしい。
・・・信じているのだ。必ず王都へ戻れることを。

その中で、神官服を着用した者たちが「別の神殿に運ぶ」として、王城から大きめの荷物を二つ運び出した。西の塔で魔物の様子を監視していた兵士たちが、その神官たちが向かった先が魔物の溢れた北だったのを確認した。それらは王城で作戦会議に出ていた神官長へ報告が上がった。
もちろん、神官長のあずかり知らぬこと。王城にあるものは国王のもので、神殿は関知していないのだ。それを、国王ではなく神官長の指示で動かすはずがない。
真っ先に確認されたのが、王子と王女のいる部屋だった。二人の姿は無くなっていた。王子の折れた剣と神官とおぼしき二人の遺体。血を流した護衛騎士たち。
王子と王女が神官たちにさらわれた。彼らは「双子を人身御供ひとみごくうに」と言っていた。神官の一人は王子が倒したが、多勢に無勢。

「目的が自分たちなら連れて行きなさい。その代わり、他の者に手を出すな」

凛とした王女の姿を見て、押しった賊もその取り引きをのんだ。
薬を嗅がされて眠りについた王子と王女は、用意されていた黒塗りの箱に分かれて入れられて部屋から運び出された。最後に部屋を出ようとした悪漢あっかんは、扉を閉める時に『丸い何か』を投げ込んで行った。・・・そこから何も覚えていない。

騎士はそう言い残して意識をなくした。神官長の話では、その『丸い何か』とは神殿内の治療院で使われる麻薬の一種らしい。吸い込めば三日は目を覚さないそうだ。

「父上。騎士たちの数が足りません」

第二王子の話では、倒れている女官たちの数はあっているが騎士の人数が足りない、というのだ。彼らは一瞬で己の身を守り、追いかけたというのだろうか。

その報告は西の塔から来た第二報で判明した。

「騎士たちが北へ向かった」

すぐ、彼らに向けて信号弾を打ち上げるように伝えた。

『救出後すみやかに離脱し南下せよ』

この場合、王都ではなく更に南へ。安全な場所へ向かえということだ。
不埒ふらちな者たちが王城内にまだひそんでいるかも知れないのだ。ならば、王城に戻るのは得策ではない。

『無事救出。これより南下を開始する』

この信号弾を打ち上げた後、彼らは姿を消した。





「連れ去られた?前に聞いた時は『隠し通路を通って逃げた』と言っていなかったか?」

「シュリ。それは『神殿が事実をじ曲げた』からだ。エブリスタ王女をスターリン王子に差し替えた以上、『双子』や『生贄』の事実もないことにされた。そうなれば『拐われた』という事実も消される」

「人知れず王城を離れられた方法を『隠し通路を使った』としたのか」

シュリは少し考えた後、神官に視線を向けた。

「前に見せてくれたのとは別の・・・『正しい史実』を書いたものが残されているのか?」

「ええ。『真実に辿り着いた者にのみ見る権利がある』というものです」

「・・・それを見せてもらえるだろうか」

「申し訳ございません。いくら皇帝陛下であっても、それは出来ません」

神官の言葉に、誰もが驚いていた。隠された『真実』がまだ残っているというのだ。

「なあ、親父。お袋。ついでにゲイツさん」

呼び掛けられたジュードとニーナ、そして前村長のゲイツはシュリに顔を向ける。シュリの目は神官に向いたままだ。

「俺が子供の時から変わらない姿の神官様は、いつからこの村の神殿にいるんだ?」


シュリの言葉に周囲は驚くが、神官は優しい笑顔を見せていた。



「違ったら言ってくれ。・・・神官様の名前は『モーラス』、もしくは『モーリス』なのか?」

シュリの言葉に神官は「懐かしい名前ですね」と微笑む。

「私は『モーラス』であり『モーリス』でもあります。・・・私はエブリスタ姫と同じく『光る石』を体内に取り込んだ者です。姫と違ったのは、その時から歳を取らなくなったのです。その時に、私は『モーラス』ではなく『モーリス』と名乗るようにしました。『護衛騎士のモーラス』はその時に死んで、私は『神官のモーリス』と名乗ることにしました。私は元々、神官でしたから騙った訳ではありません」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

今さら帰ってこいなんて言われても。~森に移住した追放聖女は快適で優雅に暮らす~

ケンノジ
ファンタジー
「もうお前は要らない女だ!」 聖女として国に奉仕し続けてきたシルヴィは、第一王子ヴィンセントに婚約破棄と国外追放を言い渡される。 その理由は、シルヴィより強い力を持つ公爵家のご令嬢が現れたからだという。 ヴィンセントは態度を一変させシルヴィを蔑んだ。 王子で婚約者だから、と態度も物言いも目に余るすべてに耐えてきたが、シルヴィは我慢の限界に達した。 「では、そう仰るならそう致しましょう」 だが、真の聖女不在の国に一大事が起きるとは誰も知るよしもなかった……。 言われた通り国外に追放されたシルヴィは、聖女の力を駆使し、 森の奥で出会った魔物や動物たちと静かで快適な移住生活を送りはじめる。 これは虐げられた聖女が移住先の森の奥で楽しく幸せな生活を送る物語。

処理中です...