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第二章
第30話
しおりを挟むナシードはオルスタ村に行く回数が減っていた。周囲は『王としての自覚が出たのだろう』と思っていたが、実際はシュリと連絡が取れるようになったからだった。
さらに、レリーナが出産後から体力を回復出来ずに寝ついているとシュリに聞いていた。そのため、レリーナが無理をしないよう、オルスタ村へは冬が来る前に向かったのだった。
「それで?『聖なるちから』のことで調べたいことって何だ?」
「ああ。まだ仮説でしかないのだが・・・」
ナシードの仮定を聞いたオルガたち主要のメンバーは、頭を抱えることとなった。
「突拍子のない話だろう?」
事前にナシードの仮説を聞いていたシュリは彼らの様子に苦笑するしかない。
「シュリ。貴方はどう思っているの?」
「・・・ナシードから話を聞いて、オルガと記録を調べた。その上で、ナシードの仮説の裏付けが取れた」
「それって・・・『事実』ということなのね」
「ああ。信じられないが」
この村の記録で、二人の王子こと『初代村長』がこの村を作ったのは500年前になっている。しかし、ナシードの国を含めて『村の外』では千年以上も昔の話だ。
『時間の流れが違っている』
予測している周期が正しいなら・・・
「来年、の・・・今の時期」
冬になり、この村に通じる道が封鎖されてから。
「『オルスタの聖女』が現れるまで、この村のことは誰も覚えていなかった。村人が『外と関わる気がなければ封鎖されたまま』だろう。今は私が出入りしているため存在が知られたままだ」
「なあ。神官様。聞いてもいいか?」
「・・・ええ。何でしょう?」
ナシードの話に驚いていた神官だったが、シュリの言葉に何時ものように微笑みを浮かべた。
「この村の成り立ちの話を「モーリスさんから聞いた村の話を一冊の本にしたもの」と言っていたな」
「ええ。そうですよ」
「『モーリス』って誰だ?」
シュリの言葉にオルガは「村の誰かじゃないのか?」と聞くが、「この村に『モーリス』という者はいない」と返されて「じゃあ、誰なんだ?」と神官に目を向ける。
「初代村長の従者に『モーラス』という名の者がいた。彼は王城へ王子たちの無事を伝えたあと、この村に戻ったひとりだ」
ナシードの言葉に、神官は感心したように頷いた。
「さすが皇帝陛下です。・・・そうです。あまりにも有名だった彼は、この村では『モーリス』と名を変えました」
神官は『古き友』を懐かしむような表情で微笑んだ。
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