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第二章

第24話

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「・・・同じじゃないか」

シュリの呟きに誰もがナシードに目を向ける。みんなの視線を集めているナシード本人は、水晶を吸い込んだ右の手のひらをジッと見つめていた。

「それで?此奴コイツに何か問題はあるのか?」

「いえ。この二人の話にはまだ続きがあります」

やはり、当時も大騒ぎだった。
しかし、王子には目立った変化はない。不調を訴えることもない。そのため、しばらく様子を見ることになった。以前より注意して見守っていてあることに気付いた。王子は毎朝早く起きると、泉まで行き、必死に祈りを捧げていた。
自分たちをこの地に受け入れてくれた感謝を。
魔物から守って欲しいこと。
そして、国の人たちの無事を。

それを辿り着いた翌朝からずっと続けていたのだ。

そして祈りを捧げる王子の身体がキラキラと輝く。それも初めは木漏れ日が原因だと思われていた。

異変に最初に気付いたのは入り口を守っていた騎士たちだった。魔物たちの唸り声が聞こえなくなったのだ。
静かになってから三日後。意を決して様子を見に行った騎士は三時間後に戻ってきて全員に報告した。「何もない」と。魔物の姿はないと。
騎士たちは二手に分かれることにした。ひと組はこのまま残り、もうひと組は王都へと向かう。国内の被害を確認後、出来れば荷馬車でも乗って戻ることになった。


どこもかしこも、魔物に襲われたのか。崩れたり焼け落ちた建物は通り過ぎていく村で見られるものの、魔物に食い殺されたような遺体は村にも街道にも見つからなかった。
あまりにも静かすぎる世界に、自分たちしかいないのではないかと心配になる。いや。自分たち一行は魔物に襲われて、すでに死んでいるのではないか・・・。そして此処は神殿の教えにある『死後の楽園』ではないか。

誰もが口にせず、出来ず。『口にしたら現実を思い知らされる』とまで思い、仲間の表情をうかがっていた。
・・・そんな考えに至るのも仕方がない。
街道には常時、群れからはぐれた魔物が徘徊しており、一日に一回は遭遇する。・・・それが、みんなを残してきた里から出て、一度も遭遇していない。それ以前に、魔物の姿すら見ていなかった。



早朝に里を出て王都に向かい進むこと12時間。
戦闘もなく、幾つもある無人の村を越えて行った彼らは、2つ目の村で拝借した馬五頭のおかげで、すでに王都まで半分のところまで来ていた。
早駆けでなく、ちゃんと休みを取りながら走らせてきたが、馬を夜通し走らせる訳にはいかなかった。上に乗っている騎士たちも、魔物に対して警戒する以上に不安などの精神的な負荷が大きく、疲労が溜まっていた。

城壁に囲まれた町に近付いて・・・一行は驚いた。人々で溢れ返っていたのだ。下馬げばで神殿へと向かった騎士たちは、一夜の宿を借りることが許された。そしてここ十数日の様子を説明してもらえた。

魔物の襲撃を知った彼らは、近隣の村から人々を避難させた。そして城門を閉ざした。
魔物たちが襲ってきたが、それは城門上から弓矢で討伐することが出来た。襲撃といっても『少し増えた』程度だったが、違うところといえば普段の魔物より凶暴になっていたくらいで問題はなかった。
倒した魔物は、食材になる魔物は解体し、素材になる魔物は店で買い取ってもらった。
それが変わったのは四日前からだった。

『四日前』

それは『光る石』が下の王子の手に吸い込まれた日と合致していた。
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