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第二章
第22話
しおりを挟む「ああ。そういえば、レリの『聖なるちから』は相変わらずだぞ」
レリーナは『聖なるちから』で『何処に何の果実がたわわに実っている』などを夢で見るそうだ。そして目が覚めると、カゴを片手に獲りに行くらしい。
「最近では?」
「腹の中の子は『男の子と女の子』だそうだ。名前はリュオンとリュシーナ」
「・・・その名は何処からきたのか聞いてもいいか?」
「お腹の中の子たちと相談して決めたらしい」
「・・・何処かで聞いたような名だ」
ナシードの言葉にシュリが「お前がミリィに持ってきた絵本だ」と言われて思い出した。小さな兄妹が母親のために色々なお手伝いをしていく話だ。
「レリの話では、ミリィがいつもお腹の子たちに絵本を読んで聞かせているらしい。それで自分たちの名前だと認識したようだ」
「・・・なんかスマン」
「イヤ。『ナシード』と付けられなくて良かったと思うことにした」
「おい。シュリ」
「そうだろう?叱られるんだぜ『ナシード』が」
「無駄に叱られそうだな」
「それはかわいそうだろ?」
「『かわいそう』の原因を作ってるのは誰だ」
「ナシードだ」
「そうか。私か。・・・って、何故そうなる」
「ナシードの評価がオルスタ村では悪いからだ」
それはたぶん、シュリを揶揄うためにレリーナを口説いているからだろう。
「おかしい。私はいつも本気なんだが・・・」
「それがダメなんだろうが!レリは『人妻』なんだから」
「『人妻を口説くのが悪い』というなら・・・今すぐ離縁してくれ」
「アホかー!」
うん。シュリは本当に揶揄い甲斐のある奴だ。
・・・今の私にとって、シュリの存在は心の許せる唯一の『親友』だ。
私の周りには同じ歳の者はもちろん、歳の近い者もいない。私の側近はすべて、八つ違いの長兄のために誂えられた人材だからだ。『スペア』だった次兄でも使える人材。二人は年子で共通する友人は多い。しかし、王領地の何処かを下賜されて領主になる予定だった第三王子の私とは、新年などの祝宴に型通りの挨拶をするだけで一切交流はなかった。
聖女の件でシュリの案を伝えてたところ、行き詰まっていた神殿から大変感謝された。それが功を奏して、各地の安全が守られるようになった。
『実績を残した』ことと各国から感謝を受けたことで周りから認められた。それまでは、私は『お飾りの皇帝』でしかなかった。前皇帝の側近且つ重鎮たちと、私の・・・というか長兄の側近たちとの争いに、新皇帝の存在は邪魔だった。
「皇帝の教育も受けていない役立たずは、ただ黙って国璽を捺していろ。国の政治は自分たちが決めるから口出しするな」
あからさまにそう決められて、疑問を口にすれば睨み付けるという『臣下としてどうか』と思われる言動を繰り返されていた。
そんな私が各国から信頼され、私を『新皇帝』として認めた。流石に、私に跪き感謝を口にする大使たちの前で、私を邪険に扱えなかったのだろう。
各国の大使が滞在している間に、私は側近たちを『一新』することにした。シュリに言われたのだ。「上の連中が腐っていても、周りが腐っていても『腐らないヤツ』はいるだろ?そんな、本当に仕事の出来る者は埋もれているだろうから見つけ出せ」と。
見下されて邪険に扱われている間に、時間をかけて探し出した。彼らは、『腐っていない者同士』で腐海を生き延びていた。
そんな彼らを『私の側近』に選んだのだ。
『平民に務まるはずがない!』と見下して反対されたが、「貴族で仕事が出来ない者より十分役に立つ」と退けた。さらに『悪事を働き私腹を肥やしてきた』事実と証拠を突きつけると分が悪いと思ったのか非を認めた。
長兄の側近も、短期間で私腹を肥やしていたのには驚いたが・・・。
事実を知った前皇帝は、ショックで一気に老け込んだ。
「全額を国庫に返し、職を辞するがいい。その上で後継者に爵位を譲り領地で隠居せよ。今までご苦労だった」
従来なら処刑される行為だ。それと引き換えにするのだ。誰一人として異議を唱える者はいなかった。
そんな私に『親友』と呼べる者など出来なかった。だからこそ、シュリの存在は大きかった。
そして、レリーナもそのことに気付いている。そして、訪問を許してくれている。
いつか帝位を退いたら、この村で過ごしたい。そのために、この村を生命をかけて守ると誓った。
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