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第二章
第17話
しおりを挟む『オルスタの聖女』と呼ばれたレリーナの祖母は、アストリア帝国国内すべてから妖魔や魔獣を退けていた。その上で、『聖なるちから』を使った治療もしていた。
そんなある日、王都である致死性の高い病が流行した。
神殿でその病を治療していた『オルスタの聖女』の元へ、王城から急使が来た。
「皇帝陛下がお倒れになりました!」
この流行り病は罹患した翌日には息を引き取る。倒れられたということは、罹患してからすでに半日を過ぎているということ。皇帝陛下は重篤で急がないと助からないということは、何日も何十日も休みなく働いて、あまり動かなくなった頭の神官やシスターたちでも理解出来た。
『オルスタの聖女』か王城に駆けつけて、すでに生命の灯火が消えかけていた皇帝陛下の生命を救うことが出来た。
しかし、その後も流行り病が落ち着くことはなかった。治療にあたっていた神官やシスターたちも疲労から次々に倒れていった。
『聖なるちから』は精神の疲弊をもたらす。
そんな中でも残っていたのは、精力的に『聖なるちから』を使い続けていた『オルスタの聖女』だけだった。
三ヶ月して沈静化し始めた流行り病だったが、最後に『爆弾』を隠していた。『聖なるちから』以外で治療を受けた人たちが、次々に倒れていったのだ。
流行り病の初期段階で王城の研究院では研究が始まっていた。しかし、特効薬も何も見つからない。何とか『症状の軽減と緩和』。そして『症状を遅らせる』ことが出来た。
それが何故か、市井には『特効薬』として高額で出回っていた。倒れたのは、初期症状でその『特効薬』を飲み回復したと思いこんでいた人たちだった。
家族を救ってもらおうと神殿に人々が集まり、さらに一部が暴徒化した。シスターたちを攫おうとしたのだ。ただ、彼女たちは『聖なるちから』を持たない、神殿所属の女性騎士団たちだったため、逆に『誘拐罪』で捕らえられた。
『聖なるちから』を使い続けて、すでに神官やシスターだけでなく聖女も精神を擦り減らしていた。
それなのに、神殿に救いを求める人たちのために、残っている『聖なるちから』をすべて開放しようとしていた。しかし、『それ』をすればどうなるか分からない。
だからこそ、誰もが止めようとした。しかし『オルスタの聖女』は微笑んで言った。
「そんな『言い訳』、いま失われようとしているたくさんの生命を前に言えますか?」
『一人でも多く、少しでも早く助けたい』
誰もがそう願っていただけに、聖女様を止められる人はいなかった。
『聖なるちから』は国内外、流行り病に苦しんでいたこの大陸すべてに広がった。
「聖女様。お具合は如何でしょうか?」
『オルスタの聖女』が目を覚ましたのは、すべての『聖なるちから』を使い切って倒れてから15日後だった。
「・・・もう私は『聖女』では御座いません」
『聖女』の称号は、聖女候補の中で一番『聖なるちから』を持つ女性が選ばれる。
しかし、『オルスタの聖女』はすべての『聖なるちから』を使い切ってしまった。そのため、『聖女』と呼ばれる女性は別の人に移っているはず。
「いえ。レイオン様の二つ名『オルスタの聖女』はこれからも変わりません。我々の、いえ。この大陸に住まうたくさんの人たちの生命をお救いくださった聖女さまなのですから」
長く寝ていたにもかかわらず、身体に不調は見られない。
眠っている間に『聖なるちから』で身体の回復をしてくれていたのだろう。
それでも心配する人々によって、部屋から出ることは許されなかった。
三日目。
変わらず、部屋から出られない私は、『来客』を迎えることになった。
「こ、皇帝陛下・・・!」
訪室に慌てて立ち上がり、陛下の姿を確認すると両膝をついて頭を垂れた。
身についた、神殿で神に仕える者の敬礼で陛下に敬意を示す。
「オルスタの聖女よ。お立ちください」
言われるまま頭をあげて立ち上がった。
すると今度は陛下が跪いた。
「陛下!お立ち下さい!」
「私だけでなく、我が民の生命をお救いくださり、ありがとうございました」
陛下に頭を下げられてお礼を言われるなど、平民の自分には『あってはならない』ことだった。
陛下から、「此度の礼をしたい」ということで、いくつかの項目が掲げられた目録を渡された。
故郷に残している家族を王都に呼び寄せ、一緒に暮らす。その場合、新たな邸と当座の資金を無償で与える。夫には爵位を与える。
故郷に戻る場合、故郷の村は帝国が続く限り永遠に納税を免除する。『治外法権』とする。
そこで私はいくつかのお願いをした。
・私は故郷に戻りたい。
・娘や子孫が『聖女に選ばれた』場合、本人が望めば拒否が出来るようにしてほしい。
娘は私と同じく『聖なるちから』を持って生まれています。だから、孫や曾孫、子孫たちもその血を継いでいけば、また聖女が誕生してしまうでしょう。その時に、私のように有無を言わさず、人攫いのように王都に連れ去られるようなことになって欲しくありません。それも、連れていた乳飲み子と引き離し、『邪魔だ』『いらない』と地面に投げ捨てるような・・・。そんなことをした神官たちを私は許していません。私の娘を『邪魔』と言ったのですから。
・何代か後の村長からでも申請があれば、村を封鎖し『治外法権を認める』。たとえ王族や貴族であっても、村に干渉出来ないものとする。
・私の子孫が住む土地は納税の免除とする。
村への許可なき移住は認めない、
など『私の子孫やオルスタ村に有利になる』条件を並べてみました。そして、そのすべては皇帝陛下が許可を出して下さいました。
その許可を書面にしたものは、私が故郷に帰った時に村長に預けました。
それが使われることなく、大切な人たちがいつまでも幸せに暮らせるように、との願いを込めて・・・
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