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第一章

第4話

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50年以上も前に、帝国全土を救った『聖女さま』のお話しを子どもの頃に聞いて、俺は『聖女さまにつかえる神官』に憧れた。
何とか『神官見習い』となった最初の仕事が『聖女さま探し』だった。
それだけなら、この任務はつまらないものだっただろう。
しかし、俺の向かうのは『伝説の聖女さま』の村がある領地だ。
すでに『伝説の聖女さま』は亡くなられているが、彼女の子孫が住んでいるらしい。
聖女さまの血を継いだ娘や孫娘なら、聖女になる可能性が高くなる。
俺は期待を胸に、先輩や護衛騎士たちと馬車でその地に向かった。

まず最初に、領主へ挨拶に向かった。
何だ。この領主の娘は。
「自分は『聖女』に相応しい」と、まるで俺たちがこの娘を迎えに来たように思い込んでいる。
領主も『我が娘が『聖女』だ』と信じて疑わない。
先輩が「一人でも多く『聖女さま候補』を王都へお連れするため、村々で『鑑定』することをお許し下さい」と話した。
その際「一人でも多く『お迎え』出来れば・・・」と含みを持たせるような言い方をしていた。
だがこの先の言葉は『我々の口からは』と言葉を濁した。
領主は勝手に『沢山の報奨金が貰える』など自分に都合の良い内容を思い浮かべたようで、ニヤニヤし出した。
そして館に無理矢理泊まることになった。
俺たちの部屋を別々にしようとしたが、「すみません。此方こちらはまだ『見習い』のため、翌日の手順など教えることがあるため『相部屋』でお願いします」と断って相部屋にしてもらった。
神官と神官見習いというペアになっているのは、こういう時に『相部屋』にしてもらうためらしい。
別々の部屋にして、その家の令嬢や奥方が『夜這い』してくるのを避けるためだ。
此処へ来る前にそれを聞かされて『まさか』と思ったが、あの執拗に別々の部屋にしようとしてきたのを考えると『真実』としか思えなくなった。

翌朝から領内の神殿を巡り、『聖女さま探し』を開始した。
何故か領主と娘もついてきた。
それも同じ馬車に乗り込もうとした。
それは丁重にお断りしたが、今度は「自分たちの馬車に」と言い出した。
「私たちは車内でも『大切な話』をしますから」と説明しても、「私たちは気にしません」と引かない。
護衛騎士から「『神官さまの機密』を盗み聞きするということは、王都での処罰を望まれるのですね」と言われて諦めた。
領主には妻と息子がいると聞いたが、息子を王都の学校に通わせるという理由から、2人は王都に住んでいるらしい。
先輩の話だと、10年前に『婚姻破棄』して他人になっているそうだ。
さらに元奥方は、幼馴染みの男性と再婚して子どももいる。
そして息子は中流の学院に入学している。
義父が商会を経営しているため、彼の手助けが出来るよう考えてのことらしい。
義父を実父として慕っており、生まれた妹を可愛がっている。
義父も彼のことを『我が子』と周囲に紹介している。
生まれがどうであれ、『今の親』との関係が最優先される以上、この領主が『跡継ぎ』として取り戻そうとしても出来ない。
実際に貴族の立場を利用して強引に連れ戻そうとした。
しかし司法省より却下され、元妻子に、そして彼女らの『今の家庭』に関わることを禁じられている。

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