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第七章
第108話
しおりを挟む神殿で祈りを捧げていた神官長は『神の声』を聞いた。
「我らが『愛し子』のために『祈り』を捧げてくれたことに感謝する」
「やはり『神子様』で御座いましたか」
「否。あれはただの『人の子』だ。名を『さくら』という」
「え!あのお方が!」
神官長は驚いて顔を上げる。
『さくら』という名に心当たりがある。
『女神に愛されし娘』としてこの世界に招かれた『救いの御子の御名』だ。
その後『神々に愛されし娘』となり『創造神様に愛されし娘』となられた。
「そなたなら『さくら』の姿を見せても構わないだろう」
その声と共に、神官長の脳裏に『黒髪の少女』が現れた。
屈託のない笑顔がヒナルクの『それ』と重なる。
神官長は無意識に『旅の無事』を祈り、『しあわせ』を願う『祝詞』を口にしていた。
「おーおー。相変わらずこの店はヒマそうだな」
ザーニが武器屋に顔を出す。
「そういうお前こそ、店を放ったらかしにしてて良いのか?」
「ウチには優秀な店員が沢山いるからな」
ザーニの『自慢』にグラハムは呆れる。
しかしすぐに気を取り直し、「確かにヒナルクが来店した時に慇懃無礼な態度を取った『優秀な店員』がいたらしいな」と揶揄う。
「な、何だとー!」
「お?知らなかったのか?」
「ヒナルクの旅装を見て見下した口調で、追い出すために身分証を出させた店員がいたらしいぞ」
「銀板を出されて『態度を変えた』って有名な話だぜ」
「良かったな。あの『ヒナルク』が相手で」
グラハムの言うとおりだ。
相手が『ヒナルク』だから笑って許されたのだ。
そうでなければ『監督不行届』で『期間奴隷の危機ふたたび』だ。
それにザーニの店では銅板でも『支払える』なら客なのだ。
「誰じゃ!誰が・・・」
「そりゃあ、お前。『銀板』だと気付いたら態度を変えたんだ。『食いついて離れない』だろ?」
つまり『あの時ヒナルクの接客』をしていた紫髪の店員・・・
「ア・イ・ツ・かー!」
「そう。この界隈イチの『出しゃばり女』」
一時期大人しいと思ったら、『訴えられたらヤバい』から大人しくしていた訳か。
保身のためにも、後でしっかり『対応』しておこう。
それにしても・・・
「いまはどこら辺にいるのかねー」
「今朝露店を開いた奴の話だと『北の寒村』に来たらしいぞ」
「何でも『美味かった果実のお礼に来た』と言ってたらしい」
「・・・犯罪組織の果実商がヒナルクに『証拠』を押し付けて逃げた時のヤツか」
「ああ。あの果実を使った『ジャム』なら『銀馬亭』で食えるぞ」
「おい。そいつはウソだろう?」
「あれからどれだけ経ったと思ってるんだ」
「どう考えても今頃『傷んで』いるだろ」
「だから『ジャム』なんだろ」
「なんだ?その『ジャム』っていうのは」
この世界には『ジャム』がなかった。
そのため『果実』の消費期限が短かいのだ。
ジーニはそれを知ったヒナルクから果実を分けてもらい、『ジャム』にする技術を教わったのだ。
そして『スコーン』などの『お菓子レシピ』も教わり、今ではジャムと共に『銀馬亭の名物』となっている。
そして、それらは『肉体労働者』に一番好まれている。
『疲れた身体』に『甘いもの』は、体力の回復に一番良いのだ。
そして『ヒナルクの紹介』で宿に来た果実商の手紙から、直接『卸し』てもらえる話がついていることを知った。
その際、『『銀馬亭』に卸す果実は、多少の出来や見栄えが悪くても良い』と言われたものの果実商は半信半疑だった。
そのため『良い物』と『出来の悪い物』や『熟れすぎた物』を持って来たが、ジーニは迷うことなく「此方を買います」と『出来の悪い物』と『熟れすぎた物』を選んだ。
『熟れすぎた物』の方が『甘味』も強く、ジャムを作るときに使う砂糖の量が少なくて良いのだ。
果実商は、露店を開いてジーニが買わなかった『良い物』を販売した。
もちろん『『銀馬亭』で使っている果実』として知られると、あっという間に果実は売り切れた。
『北の寒村』も、実がなっても売れず棄てるしかなかった果実に『定期購入者』が出来たことで喜んだ。
もちろん『ヘタな物』を出せば関係は打ち切られる。
そのため『誠心誠意』を持って対応するのだった。
それに定期的に『定価より安く』購入出来る事で、『銀馬亭』も得をするのだ。
日本の『産地直送便』がこの世界でも『通用する』ことが証明された瞬間だった。
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