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第七章
第101話
しおりを挟むこの町の住人たちの大半がヒナルクに感謝している。
あのバカげた『ジョルトの悪行』を止めてくれたことを。
欲を出していたのは『ごく一部』でしかない。
彼らは『同業者』から袋叩きにされた。
露天商は管理事務所から『出店停止及び禁止命令』を言い渡された。
『客に迷惑を掛ける』という『絶対やってはいけない行為』を破ったのだ。
今のままではこの町はおろか、他の町でも出店が許されない。
そのため、出店停止期間中に露店街だけでなく、この町の『美化』に無償で努めなくてはならない。
少しでも怠ければ、その時点で『露店出店許可証』は没収される。
そうなれば『下働き』からやり直しだ。
『露店管理事務所』はヒナルクに多大な『借り』がある。
果実商の『ぼったくり』を知った警備隊隊長が管理事務所を『監督不行届』で訴えるためにヒナルクに会いに来た。
しかし「自分には一切被害はない」「本人相手なら訴えても良いが、管理事務所を訴える気はない」と言い切った。
後に果実商が『犯罪組織の1人』と分かったが、『果実商の事で管理事務所に一切罪を問わない』と宣言したヒナルクのおかげで罪は問われなかった。
逆に『事件を表面化』するきっかけを作ったとして褒賞も出たのだ。
確かにヒナルクの一件で『果実商の確保』を手配していなければ、組織的犯罪が暴かれることはなかっただろう。
『窃盗罪』だけでは門番に取り押さえられることはなかったのだ。
そうなれば、さらなる『被害者』が出ていた可能性が高い。
管理事務所所長が何か礼をしようとしたのをヒナルクは「自分は何もしていない」と固辞した。
逆に『自分が貰った果実は何処のものか、果実商から聞き出して教えてほしい』と頼んでいた。
はじめは訝しんでいた所長だったが、それは仕方がないだろう。
礼に来たのに逆に『頼みごと』をされたのだ。
「美味しい果実を貰ったんだから。生産者に『お礼』をしなきゃ失礼だろ?」と言われて喜んで帰って行った。
所長は元々『生産者』であり『露天商』だったのだ。
『生産者が丹精込めて作ったもので購入者から直接お礼を言われる』ことは誰もが喜ぶことだ。
自分自身も、ヒナルクから「美味かった」と言われる度に嬉しくなっている。
それが分かるからだろう。
所長はアチコチに手を回し果実商を投獄している町に依頼して、たった2日で書類を纏め上げてヒナルクへ届けた。
ヒナルクはその書類を「コレがオレへの『礼』な」と笑って受け取ったのだ。
それ以降は「オレならもう『礼』は受け取ったぞ」と言って取り合わず。
そのやり取りを知ってる自分たちも、警備隊から聞かれて「管理事務所からの『礼』は受け取っていた」と証言したことで所長も諦めた。
警備隊は管理事務所から『どうにか『礼』を受け取ってもらいたいから説得してほしい』と依頼されたのだ。
町の『いざこざ』を収めるのも警備隊の仕事だ。
最早ヒナルクへの『執着』になりつつある管理事務所側へ「相手が『銀板』だということを忘れていないか?」と投げかけると沈静化した。
そう。普通の『銀板』なら警備隊へひと言「迷惑だ」と告げるだけで『片付く』のだ。
・・・『管理事務所全員の人生』が。
そのことに気付いた所長以下管理事務所職員一同は、さらにヒナルクが警備隊と『付き合い』が深いことも知った。
それにも関わらず、『それ』をせずに最低限でも応対をし続けてくれていたヒナルクに感謝すると共に、自分たちの言動が『王都』にまで迷惑を掛ける所だったことに青くなった。
もしヒナルクが「王都が褒賞を与えたせいだ」と訴えていたら、下手したら各地の『露店街』はなくなり、『露天商』は以前のように魔獣や魔物の出る街道沿いに店を出すしかなくなっていた。
露天商仲間が集まって長年に渡り王都に掛け合い、やっと『保護』の概念から『露店街』が認められたのは十数年前。
それまで、どれだけの仲間が魔獣や魔物に襲われ、時には賊に襲われて、荷物だけでなく生命まで奪われてきたか。
『管理事務所』はその被害を知っているからこそ、氷山の一角とはいえ『組織のひとつ』を潰すきっかけになったヒナルクに『お礼』をしたかったのだ。
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