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第六章

第79話

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図書室はけっこう広く、メゾネットタイプになっており1階と繋がっていた。
ちなみにこの上がさくらが住む『貴賓室』だ。
そして図書室は北側に棚、1階南側にテーブル席がもうけられており、テーブル席側は吹き抜けになっていた。

図書室に着いたさくらは『棚の中』を探索中だ。

実は此処には『この世界の書物』以上に、『日本の本』が所狭しと並べられているのだ。
さくらがダンボールにつめて物置に入れていたものから、ハンドくんたちがネットショップで購入した本まで様々ある。
そして何故かDVDやビデオ、CDまで並んでいる棚も発見した。
さくらは室内を埋め尽くす棚を興味津々で見て回っている。

さくらが躓いてから、ヒナリはさくらのそばから離れない。
今もさくらと一緒になって、興味深い様子で本のタイトルを確認していた。

男性4人組は、テーブル席からそんな2人の様子を眺めて見ていた。




「ハンドくん。先程の『さくらの様子』の理由を教えて貰えるかな?」

ドリトスがテーブルの上にいるハンドくんに質問する。
図書室内ここでは飲食が禁止されているため、ハンドくんは軽食を出さない。
『温室に移ってから昼食をお出しします』とのことだった。
それでも『この場にいる』という事は『話がある』ということだ。

・・・『国璽』の件だろう。



『さくらは急に『孤独感』に襲われたようです』
『この世界に『取り残された気分』になったのでしょう』

「それは・・・」

ジタンが言葉を詰まらせて俯く。

「ハンドくん。その気持ちを『雪が降って寒い』という別の感情に『すり替えた』のだね?」

ドリトスの言葉にハンドくんは『そうです』と返事をする。

『『身体が震えたのは寒さのせい』と思わせることで『孤独』と『恐怖』を忘れてもらいました』
『実際に『削除』するのは夜寝てる時に行います』

「それは・・・熱を出す可能性があるのかね?」

『いいえ。熱を出すとしたら『風邪をひいて』でしょう』
『それも寝る前にクスリを飲めば大丈夫です』

それはさくらが一番嫌いなクスリだ。
またハンドくんとさくらの『攻防戦』が始まるのだろう。
今のところ、さくらの『全戦全敗』だ。
もちろん、クスリをのんだ後の『ごほうび』は用意されている。

・・・それでも『嫌いなモノは嫌い』なのだ。

ヨルクは試しにひと口舐めてみたことがある。
さくらが泣いて嫌がるのが良くわかった・・・



『では次に『建設的な話し合い』を致しましょう』

そう言ったハンドくんは、テーブルの上にゴトリと2つの国璽を置いて『本題』に入ったのだった。



『さあ。さくら。そろそろ次へ行きますよ』

「まだ見てちゃダメ?」

『暗くなったら『外』へは出しませんよ』

「そと?・・・あ!『ゆき』!」

「ほら。陽が落ちたら一気に寒くなるからな。外に出てたら風邪をひくぞ」

『そうなったら『風邪薬』の出番ですね』

ハンドくんの言葉にさくらは慌てて両手で口を押さえてプルプルと首を左右に振る。
その姿が可愛くて、誰もが笑みを浮かべる。

「さくら様。此処へは何時いつでも来られるようになりますから」

「いつでも~?」

「はい」

「さくらは『雪遊び』をハンドくんたちに『おあずけ』されても良いのかね?」

「だめ!」

「じゃあ行こうかね」

さくらの頭を撫でていたドリトスに抱き上げられる。
さくらが読んでいた本は、ハンドくんが預かって棚へ戻された。

図書室に入った時同様、二階から出ると今度は西側へ向かって進む。
図書室と中央階段の間にある部屋の扉を指差すさくら。
此処へは何度も来たことがある。

「ここはジタンの執務室へや~」

「いえ。ここはドリトス様の執務室ですよ」

ジタンの答えに首を傾げるさくら。

「ジタン。『お引越し』したの?」

「はい。ちなみにこの隣はセルヴァン様の執務室です」

ジタンは中央階段から西にある部屋を指し示す。

「ジタン・・・『おうち』から追い出されちゃったの?」

心配そうに自分を見てくるさくらに苦笑する。

「いいえ。ここの奥に移っただけですよ」

「さくら。此処から『追い出された』のは『召喚部屋』だ」

ヨルクが笑いながらさくらの頭を撫でる。
『召喚部屋』は歴代の『聖なる乙女』がこの世界に送られた時に『現れる』場所だ。

「召喚部屋なくなっちゃったの?今度から『聖なる乙女』はどこに現れるの?」

「神殿じゃよ」

「神殿でしたら神官がいますから『聖なる乙女』がお越しになられてもお迎え出来るようになります」

そう。『聖なる乙女』はいつ召喚されるか分からなかった。
そのため『先代』が亡くなると召喚部屋に人を配置していたのだ。
しかし、さくらの時は『先代が亡くなって1年以上』経っていた。
その頃には出迎えの兵士や神官の配置が解除されていたのだ。
そして誰もが『お迎えする』ために人を配置することを忘れていた。


ドリトスとセルヴァンは2人ともさくらの召喚された日に此処にいた。
もし『召喚部屋に人が配置されていない』ことに気付いていれば・・・
あの時の国王レイソルたちを見ていれば『配置されていない』ことはすぐに気付けたハズだ。

その事を何度も後悔していたのだ。

ジタンも父王たちが瘴気にあてられて『変わっている』ことに気付いていた。
しかし『自ら動く』ことを怠った。
召喚部屋に人が配置されないのなら、自分が召喚部屋で『女神に愛されし娘さくら様』を待てばよかったのだ。

そんな簡単なことすら気付かなかった自分も、父たちと同じように『瘴気にあてられていた』のだろう。


今も思う。
『父の罪は自らの罪』なのだと。
そして先日の『ボルゴ事件』でドリトス様がセルヴァン様に仰った言葉。

「『罰』を受けないのもまた『罰』じゃ」

その言葉はジタンにも深く突き刺さった。
そしてジタンはヨルクと共にさくらの世界の本を読み、『光合成』という言葉に気付いた。
そして『教科書』で詳しく勉強をした。
さらに先代の聖なる乙女が生きていた『沖縄戦』の本や写真集をはじめ、『当時の本』をハンドくんに贈られて次々と読み続けた。
執務補佐官も数冊読んで目を充血させていた。

先代の乙女に対しておこなっていた無礼を後悔したが、謝罪はもう届かない。

『後悔先に立たず』

さくらの本で知った『ことわざ』だ。
それを『身を持って知った』のだ。
そして二度と『同じ過ち』を繰り返さないと、歴代の『聖なる乙女』たちの墓前で誓った。


そして『計画を実行』させたのだった。

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