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第五章

第46話

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ヒナリが部屋に戻ると、ドリトスに『膝だっこ』されているさくらが姿を現している神々相手に怒っていた。

「何があったの?」

ヨルクに清浄クリーン魔法を掛けてもらいながら小声で尋ねる。

「さくらが『何か』をしたいと言っているらしいんだけど・・・。『この世界』の物じゃないから此処では使えないって止められてて」

さくらは神々と『思念で会話』をしてるため、ヨルクたちは神々の言葉でしか判断出来ない。




『この世界で何してもいい』って言ったクセにー!

テレビ観た~い!
ドラマ観た~い!
アニメ観た~い!
映画を観た~い!
ゲームした~い!

「ですから。テレビもゲームも此処では出来ないと言ってるでしょ」

やーだー!
やーだー!

「ワガママ言ってもダメだって」

「『出来ないのは出来ない』って言ってるだろ?」

・・・ハンドくん。ジタンは何してる?

『執務室にひとりでいますよ』

「何をするつもりだ?」

創造神の言葉にさくらはニッコリ。

ハンドくん。『ジタンにハリセン』!

「コラコラ。『八つ当たり』は止めなさい」

八つ当たりじゃないもーん。

『まだ『さくらの魔石』を交換していない『バツ』です』

「まだ『換金』していないのか・・・」

そっぽを向いたさくらの代わりに説明をするハンドくんに、苦笑するしかない創造神たちだった。

・・・さて。ジタンは何発のハリセンを受けたのだろうか。
何故ハリセン攻撃を受けるのか気付いていないジタンは、『さくらの魔石』を買い取るまでハンドくんたちから攻撃を受け続けるのだろうか。



ねぇハンドくん。此処でもタブレットが使えるんだよね~?

『使えますよ』

「さくら。ダメって言ってるでしょ。『部屋マンション』に戻らないと・・・」

「さくら?何処へ『戻る』と言うの?」

女神の言葉にヒナリが慌ててさくらの前に出る。
ヒナリに気付いたさくらはふくれっ面から笑顔になる。


『あ!ヒナリ。おかえり~』

「『おかえり』じゃなくて・・・」

『・・・じゃあ『行ってらっしゃい』?』

小首を傾げたさくらは、脱力しているヒナリを不思議そうに見ている。
そんなさくらの頭にドリトスがポンッと手を乗せた。

「話がよく分からないから説明してくれるかね?」

「私がお話します」

女神の一人がさくらに代わって説明をしてくれた。

身体をほとんど動かせないさくらが『ヒマだから遊びたい』と神々に訴えているが、それには『さくらの世界の道具』が必要。
そして、それを使うには『マンション』以外ではダメらしい。

「それは此処では使えないってことですか?」

さくらの手を握りしめているヒナリの言葉に創造神が首を横に振る。

「そうではない。『この世界の物ではない』からだ。さくらの世界では『当たり前』の物でも、この世界では『存在しない』。悪用・転用されても困る」

・・・そんな『技術』もノウハウもないクセに~。

さくらの言葉ツッコミに苦笑する創造神たち。

「ねぇ、さくら。『テレビ』や『ゲーム機』の存在を『乙女たち』に知られたら此処に居座られる事になるのよ」

女神に「それでもいいの?」と言われたさくらは涙を浮かべて『イヤイヤ』と首を横に振る。
さくらにとって、今いる乙女たちの存在は『むべき相手』でしかない。

「だったら『この部屋の中だけ』で使えばイイだろ。持ち出さなければ良いんだし」

「ハンドくんたちが結界を張っておるから、乙女たちはこの部屋へは入られぬ」

ヨルクやドリトスの言葉にさくらの目が輝いて何度も頷く。

『もし誰かが持ち出そうとしてもハンドくんが気付いて止めてくれるよ~。ね?ハンドくん♪』

さくらの言葉にハンドくんたちはハリセンを出して左右に揺らしたり素振りをし出す。

「・・・・・・分かった。『部屋のひとつ』とこの部屋を繋ごう」

ため息を吐いた創造神が折れると同時にハンドくんから『繋ぐ部屋の準備は出来ています』と連絡がきた。
「いつの間に・・・」と呆れる神々を他所よそに『やった~!さっすがハンドくん!』と喜んでいるさくら。
さくらに誉められたハンドくんたちは一斉に『グッドサイン』を見せていた。





さくらはドリトスに膝だっこされた状態で、神々が部屋同士を繋ぎ終わるのを待っていた。
マンションの部屋はさくらの世界と繋がっている。
それは『空気』も同様だ。
さくらには問題がなくても。
ハンドくんたちに問題がなくても。
神々にも問題がなくても。
ドリトスたちには『毒素を含んだ空気』となるらしい。
ちょうど、この世界アリステイドの空気が『さくらにとって害があった』ように・・・


それを神々がドリトスたちも一緒に過ごせるようにしてくれるそうだ。
そうしたらその部屋マンションで私を回復させたい時も、皆と一緒にいられるようになるんだって説明してくれた。


それを聞いて一番喜んでいたのはヨルクだった。
ヨルクは『閉鎖された空間』にさくらを連れ去られて二度と会えなくなるのを怖がっていたからだ。
ヨルクの気持ちを知っているドリトスは、ヒナリから「本当ほんっとーに『さくらバカ』なんだから」と呆れられるヨルクに苦笑するしかなかった。



『さくらは『おバカ』なの?』


『さくらバカ』という言葉に、さくらは『自分がみんなからバカと思われている』と思ってしまったようだ。
不安そうな目でドリトスを見る。
そんなさくらを抱きしめて頭を撫でながら「ヒナリはさくらをバカにした訳じゃない」と話す。
それに気付いたヒナリとヨルクも慌てて『さくらが大切だから誰より何より優先するんだ』と必死に説明する。
でもさくらには『言い逃れ』のようにしか聞こえず・・・
ドリトスの腕の中で目を閉じた。

ドリトスがさくらの背を軽く叩きだして、眠ったことに気付いたヒナリとヨルク。
ハンドくんたちから『さくらを悲しませた罰』として『結界の中』に閉じ込められてハリセンを受けた。
2人は後ほど『さくらはおバカなの?』と聞かれたセルヴァンから、更に『ゲンコツ』を落とされるのだった。




『・・・・・・ヒナリ』

「なあに?」

『・・・・・・・・・セルヴァンは?』

帰ってくる?とさくらに聞かれてセルヴァンの『言伝ことづて』を思い出した。

「さくら。セルヴァン様は『怒気が落ち着くまで自室にいる』って仰ってたわ」

『セルヴァン。大丈夫?』

「ええ。大丈夫よ。怒気も弱くなったわ」

『もう怒らない?』

「部屋にいるからもう怒らないわ」

『良かった~』

さくらは安心したように笑顔を見せる。
そんなさくらの頭をドリトスが撫でる。

「セルヴァンなら心配せんでも大丈夫じゃ」

『うん・・・でも『アッチの部屋』にいるの分かるかなぁ?』

「ハンドくんたちがいるから大丈夫よ」

ヒナリの言葉にハンドくんたちが『OKサイン』で『任せろ』と意思表示をし、さくらは楽しそうに笑う。
しかし、すぐに表情が暗くなった。

『ヒナリー。ヨルクが『また』いないよー』

「まったく・・・何処行ったのよ!」

『ジタンの部屋へやにいる』

「待ってて。すぐに連れてくるから」

必要ひつようない』

ハンドくんがハリセンを取り出した。
叩きに行くのかもう行ったのか。
誰も怖くて聞けなかった・・・のだが、怖くない人物が1人。

『もう叩いた?』

2人ふたりとも。何度なんどでも』

『そんなに『何度でも』叩いてるの?』

『『いつも何度でも』。まるで『おわらい』のように』

ハンドくんの言葉にさくらは笑い出す。
ハンドくんが言った『何度でも』『いつも何度でも』が『曲のタイトル』だと気付いたからだ。

『元気になったら歌ってい~い?』

『もちろん『元気になったら』ですよ』

『ウン!』

笑顔でハンドくんと会話するさくらの頭を撫でながらヒナリは思う。
ハンドくんはさくらを笑顔にするのが上手い、と。


『さくら。ヨルクにはなしいたジタンが『おかね用意よういしたいがいくつ換金かんきんしてもらえるか』いています』

『無理のない範囲で』

『それではまず10りましょう。様子ようすくにつぶれなかったら、また追加ついかりつけていきましょう』

『はーい』


ハンドくんが多少物騒なことを言っていたが、さくらは気付いていないのかハンドくんに丸投げしているのかハンドくんを全面的に信用しているのか・・・

ヒナリは普段とは違うハンドくんに少し怖くなった。
しかしさくらの性格を知っているドリトスには、『元気な頃のさくらが2人』いるようで見ていて面白かった。




さくらは思念でメニュー画面を起動して『さくらの魔石』を『貴重品』から座卓に10個取り出した。
それをハンドくんがジタンから預かって来たという麻袋にポンポンと無造作に入れていく。

貴重品で高価なはずの『さくらの魔石』を、さくらとハンドくんはまるで『河原の石』のように扱う。
2人の雑な扱い方に魔石の価値を知るドリトスは苦笑するしかなかった。
たぶんジタンは理由を聞かされずに麻袋を渡したのだろう。
まさかその中に『さくらの魔石』を入れてくるとも知らずに。

『ハンドくん。お願いね~』

さくらに見送られてハンドくんはポンッと姿を消した。
それと入れ違うようにアリスティアラが姿を現した。
ドリトスとヒナリの表情から何かあったことに気付いたようだ。

「・・・またなんの『ワルさ』をしていたんですか?」

『ハンドくんと一緒に『魔石の押し売り』ごっこ』

さくらの言葉にアリスティアラは顔を引きつらせる。

『大丈夫だよ。ハンドくんが『まずは10個』って言ったから10個だけ渡したよ』

「『まずは』ですか?」

『うん。『国が潰れなかったらまた追加で売りつけましょう』って・・・どうかしたの?』

「いえ。何でもありません」と言うアリスティアラの表情は強ばっていた。


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