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第5話
しおりを挟むカトレイヤが帰ってきたのは半年後でした。
忌まわしき屋敷を壊し、慰謝料として与えられた土地に以前とは趣を一新した屋敷を建てたのです。
見知った使用人たちの存在に安心したのでしょう。
ゆっくりと精神を癒やしたカトレイヤは、私の妹として家から巣立って、愛する人の腕の中へと羽ばたいて行きました。
カトレイヤに誂えた真っ白なドレスは、とても似合っていました。
カトレイヤと結婚するため、婚約者はすべてを捨てました。
貴族である以上、カトレイヤは衆人環視に晒されます。
心ない言葉も浴びせられるでしょう。
そんな世界からカトレイヤを守るため、すべてのしがらみを捨て去り、国外へと向かいました。
デイジー商会は国外に本店があります。
この国に本店を置いたら貴族の餌になりかねないからです。
そのため、各国の情報は会頭の私の耳にも届きます。
異国の移住者が生活に耐えられなくなり、死を選ぶこともよくあります。
家族と疎遠になり、今までと違う生活環境で身体を壊し、帰る家をなくした絶望から……
そんな人の出身国に死亡報告を通達する。
それも各国で事業を展開するデイジー商会が担っているからです。
ある若い移住者夫妻が、過去に受けた心の傷に耐えられなくなった頃、その生命を散らしたという話も届きました。
内乱による混乱で暴漢に襲われた子どもを逃した報復で殺されたのです。
抱き合った姿で見つかったお二人は笑顔だったそうです。
小さな村の一角に、お二人は抱き合った状態で埋葬されました。
子には恵まれなかったけど、村の人々にとても愛された夫妻だったそうです。
難を逃れたのは小さな王子でした。
彼は即位の際にこう話している。
「私には実の両親以外に亡くなった両親がいる。彼らは暴漢に襲われた私を生命をかけて庇い、そして亡くなった。お二人がいなければ私はこうしてこの場に立ってはいない。お二人が身代わりに殺されたことで、私はお二人に恥じぬ王子になる誓いをたてた。カトレイヤ、ベルファスト。これからはお二人に恥じぬ国づくりをするとここに宣言する」
のちに知られたカトレイヤたち二人の存在はその国で悲劇として伝わっている。
もちろん生々しい話ではないが。
『お二人の恋路を疎ましく思った者たちの手でカトレイヤ様は捨てられた。
そのショックで記憶を無くされたカトレイヤ様を、何もかもを捨てたベルファスト様が見つけ出した。
記憶が戻らないカトレイヤ様はふたたびベルファスト様を愛するようになり、それを知ったカトレイヤ様のお姉様がお二人を国外に逃した。
それから二人仲睦まじい生活をしていたある日、暴漢に襲われている少年に出会った。
二人はその少年を逃す代わりに殺されてしまう。
少年の証言した場所には、互いを固く抱き合った状態で死んでいる二人のすがたが残されていた。
その二人の死に顔は笑顔だったという』
カトレイヤたちは幸せになれたのだ、きっと。
私の脳裏には2人の結婚式でみた笑顔が刻み込まれている。
「幸せになるわ、お姉様」
最期の笑顔はきっと……そのときと同じ。
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