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前編

背中はまっすぐで、目線は前の床!

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私は父の命令が嫌いだった。
父が連れてくる『父の大切なお客様』と二人っきりにされてをさせられるのだ。

透明の膜から外に出られない私は、膜の中に手を伸ばして私の手を撫でられる。
前は身体に触ろうとして手を弾かれていた。
足や膝に手を伸ばしてきても……なぜか弾かれた。
唯一私の右手だけ触れられる。
お客様だという人は肘までしか入れない。
この膜が、私を……守っているというのだろうか。
手を取られて、脳裏に浮かんだことを相手に伝える。

そしてその大切なお客様から父はお金を受け取る。
私は5歳からずっとこうされていた。
「いやだ」と泣いた。
しかし父は私を鞭で脅して言った。
「これが我が男爵家の家業なのだ」と。
「お前はなのだ」と。

母は笑った「お前はあの二人と共に死んだのよ」と。
私が5歳の時に当主だった祖父母が亡くなった。
そのときに私は死んだのだ、と。

言うことを聞かないと鞭で叩かれる。
私には直接あたらない。
全部私の横の床に大きな音をたてて私を脅す。
私にあてないのは私が商売道具だから。
そういう両親のそのときの顔は絵本に出てくる鬼だ。
……怖い、怖くてたまらない。


そんなある日、知らない人たちがたくさんはいってきた。
そして父が恐ろしい形相で私に叫んだ。
「命令だ、いますぐ死ね」と。

「やめなさい!」
「命令だ! 黙れ! 黙ったまま今すぐ死ね!」

両親の言葉に従おうとしたが、目の前の身綺麗な男性が首を左右に振る。

「もういいんですよ。あんな命令に従わなくていい。きみはもう自由なんです」
「じゆう……?」
「そうだよ、アリア。きみはここから出ていいんだ」
「────── 鞭で叩かない?」
「叩かない。約束するよ。ん? 誰かきたね」

振り向いた私の目に映ったのは……

「アリア」
「迎えが遅れて悪かった。アリア、一緒にいこう」
「おじい様、おばあ様……」

私は座っていた床から飛び上がり、二人に駆け寄った。
ポフンッという音と共におばあ様のドレスに顔をうずめる。

「よく顔を見せて」

膝をついたおばあ様に顔をあげると、おばあ様は笑顔で泣いていた。
おばあ様は何も言わずに私を強く抱きしめてくれた。
おじい様は私とおばあ様を一緒に抱きしめてくれた。
二人の暖かさが伝わって、私は声をあげて泣いた。


*:..。♡*゚¨゚゚・*:..。♡*゚¨゚゚・*:..。♡*゚¨゚・*:..。♡*゚¨゚゚・*:.


「アリア、一緒にいこうか」
「いいの?」
「ええ、もちろんよ」
「新しいお家は綺麗なお花が咲いている野の中にある。きっとアリアも喜ぶぞ」
「アリアの好きな小鳥もチョウチョもいるわ」
「まずは王様に挨拶にいこう。ちゃんとご挨拶できるね?」
「左足を右ななめ後ろへ少し下げてヒザをまげてまっすぐ下におりるの。背中はまっすぐで、目線は前の床!」

歩き始めた少女は祖父母と手を繋いだまま立ち止まり、軽く左足を後ろに引いてヒザを曲げる。
かわいいカーテシーに祖父母は微笑む。

「ああ、そうだ。上手になったな」
「アリアは良い子ね」

今回の事件の被害者が、祖父母に両手を引かれて楽しそうに話しながら光の中へと去っていく。

『彼らのことは任せました』
『死ぬほどの苦しみを与えてくれ』
「はい、お任せを」

届いた声に返事をすると光は集束して消えていった。
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