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前編:3
しおりを挟む私は二人の神に優しく抱きしめられたところで記憶が途切れている。
目が覚めたのは自分の部屋。
あの日と変わらない……懐かしい我が家。
普通にパジャマを着て、いつものようにベッドで寝ていた。
夢うつつの状態で、私は部屋をでる。
階段を下りたら、いつものようにリビングではテレビがついていた。
『おはようございます。本日は七月二十日の月曜日です』
「あら、おはよう。今日は夏休みなのに早いわね。もしかして平日だと勘違いして起きちゃったのかしら?」
キッチンから聞こえた懐かしい母の声。
私は顔を確認する前にカウンターを回り、母に抱きついていた。
「ママ……」
「あらあら。怖い夢でもみたのかしら?」
「うん……怖かった」
あの世界の神は返してくれると約束した。
だから頑張ってこられたのだ。
それなのに、最後の最後で帰れなくなりそうだった。
……怖かった、本当に怖かった。
震える私を母は抱き返してくれた。
この優しい腕は、誰も代わりなど出来やしない。
『母の温もり』を誰が代わりに与えてくれるのか。
「大丈夫、天照大御神様が私たち家族を守ってくださるわ」
母がそう言いながらリビングの神棚に目を向ける。
そこには伊勢神宮から毎年お迎えするお札が飾られている。
「私ね、天照大御神様に助けてもらったんだよ」
「あら、だったら着替えてらっしゃい。それから一緒にお礼しましょう。お父さんも起こすわ」
「はーい」
階段を駆け上がり、部屋へと飛び込むとパジャマを脱いでベッドに投げる。
『脱いだ服はちゃんとたたみなさい』
ふと、誰かの声がした。
誰だろう? 一瞬だけそう思ったが、誰に言われたのか覚えていない。
それでもパジャマを畳んで私服に腕を通す。
ズボンを履くのに違和感があったが、その違和感が何なのか思い出せない。
「ま、いっか」
そう結論を出して、私は部屋を飛び出した。
〈忘れなさい。この愚かな世界の人々を〉
〈忘れなさい。でも、私たち神があなたとともにあったことは忘れないで〉
夢の中で聞いた声は、ときどき何かを思い出そうとする私の心の中で繰り返す。
我が家は神道ではない。
まあ、今の日本はそんなこと気にしていない。
我が家だって仏教徒なのに神棚があるし。
どんなに混在してたって『自分が信じる神』がいればいい。
そして私はまたいつもの毎日を繰り返す。
「いってきまーす」
「いってらっしゃい、車や変な人には気をつけるのよ」
「はーい」
どんなに遠くても、どんなに離れていても。
あったかい家庭が待っているから、私はそこに帰る。
「ただいま~」
「お帰り」
「あれ、パパ。今日は早かったんだね」
「ああ、今日は定時であがれたからな」
「……明日は雪だね」
「会社が潰れないといいよな」
「そんなことになったら、私の高校進学はー?」
「心配しなくてもパパが稼ぐわ。あなたは受験のことだけ考えていればいいのよ」
「大丈夫、大丈夫。私たちには……」
「「「神様がついている」」」
そう、この日常は、私のかけがえのない宝物だ。
この世界には八百万の神がついている。
一柱くらいは私たち家族を見守ってくれているだろう。
「貧乏神じゃないといいなあ」
「でも、貧乏だったら家族のありがたみがわかるわね」
「貧乏神様には早急にお帰りいただけるよう、パパ頑張るよ」
大丈夫。
貧乏でも家族三人一緒なら私は平気だよ。
あ、ママのお腹に双子の赤ちゃんがいるから家族五人だね。
パパ、みんなで幸せになるために頑張ってね。
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