2 / 15
第一章
「それでは学園裁判を始めます」
しおりを挟む「1学年Aクラス所属マーメリア嬢。中央のイスへ」
「はい」
名前を呼ばれたマーメリアは壇上のイスへと歩み寄る。
制服を華麗に着こなし、背筋を伸ばして歩く彼女は今この場に加害者として呼ばれている。
イスの横まで来るとスッと学生裁判官たちに頭を下げてから、学生たちに向けて置かれた椅子に腰掛ける。
「それでは学園裁判を始めます」
宣言と共に、それまで小さく言いあっていた学生たちは口を噤む。
会場のあちこちに設置された記録用魔導具が起動している。
ここからは許可がなければ発言は一切許されないのだ。
「マーメリア嬢に階段から突き落とされたという訴えが、1学年Cクラス所属フルール嬢より提出された。それに相違はありませんか?」
裁判官の言葉にマーメリアが肘を折り曲げて軽く右手をあげる。
発言の許可を求めたのだ。
「マーメリア嬢、発言をどうぞ」
「はい、私はフルール嬢を突き落としてなどしておりませんわ」
マーメリアはそれだけ言うと右手を下ろす。
それは発言の終了を意味する。
「ウソよ!」
会場内に女生徒の声が響く。
「フルール嬢、あなたに発言の許可を出していません」
「この女のいうことを信じないでください!」
「黙りなさい。フルール嬢、あなたに発言を許していません」
「そっちこそ黙りなさいよ! 私は『王妃になるヒロイン』なのよ!」
「フルール、ここでは許可なく喋ってはいけない」
「でも……」
立ち上がって発言をするフルールの傍らに立ち発言を止める男子学生が一人。
たとえ公的な立場では王子であっても、学園内では一学生でしかない。
「オルスコット君、キミも黙りなさい。二人に発言の許可は出していない。私語も許されてはいません。それが守られぬと言うなら退場してもらう。『被害者がいない裁判』は過去にいくらでもあります。─── 被害者が亡くなった場合などでね」
「はい……。すみませんでした」
「謝罪発言を許した覚えもありません」
裁判官の男性の言葉に静かに頭を下げてイスに座るオルスコット。
彼は王子であるが王太子ではない。
学園を卒業するまでは王太子にはなれないのだ。
フルールも黙ってイスに座りなおす。
自身の発言でオルスコットにまで迷惑をかけたのだ。
会場から退場させられたら、今まで自分がどれだけ酷い目に遭わされたかを主張できなくなる。
彼女はこれまで『蝶よ花よ』と育てられた。
彼女が望めば物でも人でも簡単に与えられた。
理由は簡単だ、見かけだけは人形のように可愛いからだ。
その見かけだけで近寄った男たちの中には知性の低さから離れようとした。
しかし、彼女の張った糸に手足を絡めとられて逃げられなくなった。
それが許されるのは、彼女が公爵令嬢だからだ。
そんな彼女の今のターゲットが、隣に座るオルスコットだった。
しかし、彼には公表されていないが婚約者がいる。
正式な婚約発表は15歳、学園を卒業してからだ。
有力候補は、いま壇上にいるマーメリアだ。
週一で王城に出向いている。
王城で働いているフルールの父の話では、彼女の行き先は後宮。
王妃教育を受けている可能性が高かった。
フルールが意識を飛ばしている間に、事件の概要の説明が終わっていた。
簡単にいえば、『フルールが階段から落ちた。突き落とされたと言っている。突き落とした相手がマーメリアだとフルールは証言し、その場にいた者たちも証言している』というもの。
「この証言に異議はございますか? マーメリア嬢、発言を認めます」
「事実とは違っております。お許しくださるのであれば、その証言をされた方々と当時の状況を一つ一つ確認させていただきたいと存じます」
「認めよう。では証言者の十七名は壇上にあがられよ」
裁判官の言葉に、その当時階段にいた十七名が壇上にあがる。
そして、下手に用意されたイスに順番に腰掛けていく。
「これより、壇上の者にのみ発言を許す」
こうして証言の切り崩しが始まった。
10
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
私は聖女になる気はありません。
アーエル
ファンタジー
祖母は国を救った『元・聖女』。
そんな家に生まれたレリーナだったが、『救国の聖女の末裔』には特権が許されている。
『聖女候補を辞退出来る』という特権だ。
「今の生活に満足してる」
そんなレリーナと村の人たちのほのぼのスローライフ・・・になるはずです
小説家になろう さん
カクヨム さん
でも公開しています
ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します
たぬきち25番
ファンタジー
*『第16回ファンタジー小説大賞【大賞】・【読者賞】W受賞』
*書籍化2024年9月下旬発売
※書籍化の関係で1章が近日中にレンタルに切り替わりますことをご報告いたします。
彼氏にフラれた直後に異世界転生。気が付くと、ラノベの中の悪役令嬢クローディアになっていた。すでに周りからの評判は最悪なのに、王太子の婚約者。しかも政略結婚なので婚約解消不可?!
王太子は主人公と熱愛中。私は結婚前からお飾りの王太子妃決定。さらに、私は王太子妃として鬼の公爵子息がお目付け役に……。
しかも、私……ざまぁ対象!!
ざまぁ回避のために、なんやかんや大忙しです!!
※【感想欄について】感想ありがとうございます。皆様にお知らせとお願いです。
感想欄は多くの方が読まれますので、過激または攻撃的な発言、乱暴な言葉遣い、ポジティブ・ネガティブに関わらず他の方のお名前を出した感想、またこの作品は成人指定ではありませんので卑猥だと思われる発言など、読んだ方がお心を痛めたり、不快だと感じるような内容は承認を控えさせて頂きたいと思います。トラブルに発展してしまうと、感想欄を閉じることも検討しなければならなくなりますので、どうかご理解いただければと思います。
《 番外編 》私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。
アーエル
ファンタジー
【 私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。】の番外編置き場です。
時系列はバラバラです。
✻小説家になろう・カクヨムにて同時公開しています
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します
【完結】不協和音を奏で続ける二人の関係
つくも茄子
ファンタジー
留学から戻られた王太子からの突然の婚約破棄宣言をされた公爵令嬢。王太子は婚約者の悪事を告発する始末。賄賂?不正?一体何のことなのか周囲も理解できずに途方にくれる。冤罪だと静かに諭す公爵令嬢と激昂する王太子。相反する二人の仲は実は出会った当初からのものだった。王弟を父に帝国皇女を母に持つ血統書付きの公爵令嬢と成り上がりの側妃を母に持つ王太子。貴族然とした計算高く浪費家の婚約者と嫌悪する王太子は公爵令嬢の価値を理解できなかった。それは八年前も今も同じ。二人は互いに理解できない。何故そうなってしまったのか。婚約が白紙となった時、どのような結末がまっているのかは誰にも分からない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる