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第3話
しおりを挟む「メイシャン嬢、王太子に何をしたんだ」
「アダマン伯、あなたこそ失礼ではありませんか?」
「……なんだと」
「私は侯爵家、あなたは伯爵ですわよね。外交官であろうと貴族のマナーは遵守すべきこと。そのような知識も弁えておらぬとは嘆かわしい。皇国に戦争を仕向けるために無礼を承知でこんな策略をしたのですか」
私の言葉に目を見開いたあと「小娘が」と呟き、憎しみの目を向けてきた。
「さて、あなたは招待状をお持ちですの?」
「侮辱する気か」
「ブゥ・ジョォ・クゥゥゥ? あなたのその口からそんな単語が飛び出すなんて。まあ、驚きですわ。伯爵風情が、立場を弁えなさい」
「きっさま……」
アダマンの様子にいち早く気付き、天秤によりどちらについた方が良いかを判断して動いたのはアムゼイ派の筆頭グモウル侯爵。
「アダマン伯爵、あなたは二年前の歓迎パーティーでメイシャン嬢と挨拶している」
「いや、知らぬ。だいたい貴族の令嬢などピンからキリまでおるからな」
「…………私は先日までルービン王子の婚約者です。あなたはそのとき私と挨拶を交わし、その後も友好国として書状を交わしております。先ほどもちゃんと名乗らせていただきましたものを。そのようなことも覚えておらぬとは、何とも嘆かわしい」
アダマンは顔を青ざめて身体を震わす。
「貴様はそんなだから、いや、そんな人を見下す態度だから王子に捨てられたのだ!」
「いいえ、私は捨てられたのではありませんわ」
「ふざけんな! 貴様みたいな」
「それは自ら頭を下げて婚約の白紙を願い出られ、慰謝料も私財より払われたルービン元王子に対しての侮辱ですか? なんと愚か、皇国にはこのような者でも重用しなくてはならぬほど人材がおらぬのですか。ああ、何とも嘆かわしい」
私の言葉に反論の言もつげないアダマン。
私を侮辱しようにも、『王子が自ら頭を下げて願い出た』事実がある以上、私よりルービンに非があるのは明らか。
友好国の元王子に罪を着せる、それもパーティー会場のど真ん中で。
それは皇国の外交官とはいえ許されないこと。
外交官とはいえ駐在の伯爵位。
それにこの男には許されぬ罪があるのだ。
そのような者に招待状など送られるはずがない。
「愚かな男。手配書が届いていないなど思っていたのかしら?」
ザッと警備兵が取り囲むと、アダマン伯爵は後ろ手に縛られる。
「なにを……! 私は外交官として」
「皇太子御夫妻暗殺の主犯として手配書が届いておりますわよ、元外交官さん」
周囲のアムゼイ派だった貴族も一斉に後ろ手に縛られる。
当然だ、アムゼイと共に手配犯に加担したのだから。
下手なことは言えない。
匿っていたと見做されれば、一族がどんな罪を背負わされるか分からない。
皇太子御夫妻の暗殺に加担したとなりかねない状況は誰もがさけたい。
「客室の手配が整いました。南の第二貴賓室でございます。女医は貴妃様方が呼びに行かれました」
アムゼイが早く戻ってきたと思ったら、途中で貴妃様に会われた様子。
すぐに衛兵たちも駆け寄ってきた。
「担架、準備整っております」
「第二貴賓室へ揺らさずにお連れしてください」
近くに国王陛下をはじめとした皆様がいる。
だったら後をお任せしても良いだろう。
パーティーはこのままお開きだろう。
そして私たち卒業生の大半はこのような形で最後のパーティーを終えたのだった。
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