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第1章
第13話
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医務室で惰眠を貪り夕方まで寝ていたバグマンはヴェラドから叩き出された。
「授業は明日から始まる。早く寮に入って準備するんだな」
「寮ってどこだよ!」
不貞腐れて床に座り喚くバグマンに向けられたのは、慈しみの笑顔でも優しい手でもなく、冷ややかな視線だった。
「お前には探しにいく足はないのか? 探す目はないのか? 誰かに場所を聞く口を持っていないのか? そして……どうすれば失礼にならない尋ね方ができるかを考える頭はないのか」
「…………ある」
「じゃあ、自分でなんとかしろ。ひとつだけ教えてやる。問題行動を起こせば問答無用で退学だ。生徒だからとの理由で許されることはない。昨日のことはまだ入学式前ということで許されただけだ。……入学式前とはいえ学園に足を踏み入れた以上罰則が必要だとの声も多かった、それこそ最短で退学を望むくらいにな」
「俺は【勇者の子】だ!」
「その傲慢も退学の理由になるぞ。この学園の中では誰もが平等だ。努力と実力がこの学園では認められる。魔法だけで上に立てるわけでも敬われるわけでもない」
パタンと閉ざされた扉を睨むバグマン。
しかし半地下にあたるこの医務室の前に座っているだけでは何も始まらないし誰も助けてくれない。
何より空腹を訴えるお腹を抱えて座っていても腹は膨れない。
仕方なく立ち上がったバグマンだったが、空腹より睡眠を優先したことで魔力は7割ほど回復しフラつくことはなかった。
バグマンはスロープになった廊下を上へと歩いていく。
トランクは先に寮の大部屋に運び込まれているため身軽だが……
最後の食事が昨日の魔導列車内で同じコンパートメントになった、自分と同じ新入生だという男女2人から奪い取った菓子だけ。
ご馳走が出ると聞いて、腹一杯に食べたいのを我慢した結果だった。
そして思う、誰一人として自分に食事を持ってきたり心配して来てくれなかったことを。
当然だ、誰が自分に魔法をぶち込もうとした相手を心配するのか。
そして思い至る、自分に対して厳しくも注意をしてくれた人は両親以外ではヴェラドしかいなかったことを。
「……いや、いた。あの生意気な女」
『勇者はあなたではなくてご両親よ。あなた自身は勇者でもなんでもないわ』
あの言葉がバグマンの脳裏を過ぎる。
正論だ。
正論だったからこそ…………我慢ができなかった。
バグマンはいま初めて自分の心と行動を反省して向き合うことを知った。
ただバグマンにとって初めての感情は、ただ戸惑いと違和感だけ残して消えていった。
すでにこのアナキントス学園の敷地に入って25時間が経っていた。
これまでに新入生の殆どが覚えた場所といえば寮と入学式をした食堂ホールのみ。
明日の1限目も授業が行われる教室はどこかを下調べした生徒は少数。
ほかの生徒たちはそんなことを調べず、「明日になれば誰かが連れて行ってくれるだろう」と考えている。
その誰かに自分がなろうとも思わない時点で減点対象だ。
彼ら彼女らはどこで集まって誰が連れて行ってくれると考えたのか。
一部の女子たちはアリシアが新入生の旗振り役だと思い込んでいる。
しかし、そんなことをする理由がアリシアにあるというのだろうか。
それもアリシアは個室寮、それが意味することを彼女たちはまだ……知らない。
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