魔法学園の生徒たち

アーエル

文字の大きさ
上 下
6 / 26
第1章

第6話

しおりを挟む

彼女も魔術師たちの中では有名人だ。
帰らぬ両親を思い、それでも人前では泣かず。
学園の教師2人を師と仰ぎ、今では父親の店で仮店主としてトップクラスの薬を販売している。
【災厄の一年】の後、あまりにも両極端なこの2人の生き様。
生徒たちがどちらを支持するか、火を見るよりも明らかだった。
バグマンの周りから生徒は離れ、アリシアの周りに生徒たちが集まる。
そして生徒たちの目はバグマンに対して明らかな拒否反応を見せている。

その目にバグマンの全身が震える。
バグマンの叔父一家が、数回遠目から見ただけの祖父母や伯母や叔母たちが自分に浴びせる冷たい目。
自分を育てたメイドたちの、自分に向ける冷たい態度。
外を出歩いたときには人々に露骨に避けられ、店に入ると店主が突き刺さるような視線を送る。
バグマンが店に入ると、それまで楽しそうに買い物をしていた客がカゴをその場に置いて慌てて店内から逃げ出すからだ。

「俺は【勇者の子】だ! 偉そうに俺に指図するなああああ!!! 這いつくばって俺様に許しをええええええ!!!」
「キャアアアアアアアア!!!」
「うわああああああああ!!!」

バグマンが感情と共に魔法を放とうとする。
標的とされたアリシアの周りに集まった生徒たちは悲鳴をあげてしゃがみ込む。
しかし、魔法それが放たれることはなかった。
アリシアの契約獣となった黒豹が生徒たちの前に現れると、咆哮だけでバグマンの魔法を霧散させた。
生徒たちと黒豹の前には透明な膜が現れて生徒たちを守っている。
こちらはヴェロニカが伸ばした杖から現れた防御魔法だ。

「アリシア、黒豹。ありがとうございます」

ヴェロニカの言葉に、隣に戻って擦り寄る黒豹の頭を撫でているアリシアが「みんなを助けてくれてありがとう、お疲れ様」と声をかけて笑顔で首に抱きつく。
黒豹はアリシアにスリスリと甘えた後、青白い粒子を少し残して姿を隠す。
バグマンは自身の魔力を一気に使ったことで魔力酔いを引き起こしたのか、目を回して泡を吹いて倒れている。

「そのまま動かさないで、近付かないでください。彼は魔力酔いを起こしています。あとはヴェラドに任せます」

ヴェロニカの言葉にざわりとする。
それはバグマンのことではない。
ある有名な一族の名が出たからだ。

「ヴェラドって有名な吸血鬼一族のことだろ?」
「ああ、血液や魔力に関する知識が高くて各国の王城で働いているって聞いたけど。すっげーな、アナキントス学園って王城と同じ待遇なんだぜ」

ヴェラドと呼ばれる一族は確かに吸血鬼ではある。
しかしそれは種族であって忌避されることはない。
なにより血液や魔力に関する知識がどの種族よりも高く、魔力酔いの治療では第一人者でもある。

「さあ、皆さん入場です。男女1列に並んで」

さささっと男女が分かれて1列に並んでいく。
パアンッパンッパアンッと観音開きの扉が開くと同時に鳴り響くクラッカー。
天井近くでは様々な花火が花開き、新入生の入学を歓迎している。
中央に開かれた通路を、ヴェロニカを先頭に歩いていく新入生に生徒たちが拍手で祝う。

「アリシア!」
「アリシア、入学おめでとう!」

先輩たちがアリシアの姿に気付いて祝福の言葉を贈る。
【くすりやさん】で見知っている彼ら彼女らは、特に傷薬のお得意さんだ。
アリシアが入学すると知って慌てて傷薬を求め、アリシアが前日に大慌てする理由になった。

「レイオン、こっちだ!」
「メイリン、あなたはここよ」

兄弟姉妹、たとえ顔を知らなくても席に置かれた名入りのプレートを掲げて新入生の名を呼ぶ。
片側3列に並んだ祝宴の席は、呼ばれた新入生が近寄ると長卓が浮かび上がって通れるようになっている。
10人で1卓の長卓に、新入生は向かい合って1人から2人。
8学年制の生徒が1学年に1人ないし2人が席についているのだ。

席に着いた新入生たちから、扉の前で起きた騒動を聞いた生徒たちが其処此処そこここざわつく。
新入生が全員席に着いたのか、最後まで浮かんでいた長卓が定位置に降りた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

処理中です...