魔法学園の生徒たち

アーエル

文字の大きさ
上 下
3 / 26
第1章

第3話

しおりを挟む

アナキントス魔法学園。
そこはこの国だけでなくこの世界において最重要な学園である。
少なくともこの学園を卒業したとなれば箔が付く。
しかし進級はお目溢めこぼしはあるものの、生半可な成績では卒業は認められない。
10歳で入学して18歳で卒業を迎えるが留年は2回まで許される。
進級で留年を繰り返していれば3度目はない。
退学処分になれば『魔術師や錬金術師に不向きな者』というレッテルを貼られてしまう。
そのため、早々に進級や卒業を諦めてランクを下げた学園もしくは学校に転校する生徒も多い。
学園とは寮の備わった寄宿学校で基本は全寮制である。
その中でもアナキントス魔法学園は世界一の授業が受けられることで有名である。
歴史は古く『はじめてのイケニエのために作られた学園』であり、彼の名を冠した学園は以降も数多くの勇者を輩出している。
その点から今では魔王と戦う魔術師を育成するための学園として最高位にあり、卒業生は魔法省への入省が許される。
魔術師を目指す者にとって、可能性を求めて手を伸ばして挑戦権をもぎ取りたいのだ。
森の中に海と見紛みまがうほど広大な湖の中央に浮かんだ島にその学園はある。
ここは童話の舞台であり、城は学園に改築されたが当時の面影を残し、島の東部に唯一残された村は週末の生徒たちが集う場として発展している。

そんな学園に入るにはルートはひとつである。
各国各地から集まった生徒たちはたった1本しかない魔導列車に乗って行くしかない。
湖を取り囲むような森はその木1本1本が結界であり不審者よけでもある。
その光景は高台から見下ろせば歓声が上がり、湖水に月が反射して浮かび上がる魔法学園は神秘的で心を奪われる。
しかし、森の中を走る魔導列車に乗っている生徒には「ただ木々が早い速度で通り過ぎていくだけ」にしか見えない。
少し上を見上げて葉に目を向ければ、揺れる木々が織りなす結界が重なりあって美しい虹色に輝いていることに気付けただろう。
これもまた、魔導師として『何気ない風景であろうと周囲を注意深く観察する』という基本の教えの一環である。
この揺れを見ているのは学園のいくつもある塔の最上階にいる人物2人のみ。
ひとりは濃い緑色のマントを纏った青年、この学園の教師である。

「アリス。そろそろ準備してきなさい」
「まだ大丈夫だよ?」
「……その格好で入学式に出るのかね?」
「そうだよ、リーヴァスパパ。どっかおかしい?」
「学園の中ではリーヴァス先生と呼びなさい。明日からならその姿でもおかしくはないが……今日は正装だったはずだぞ」
「…………あっ!」

アリスと呼ばれた少女は手にした双眼鏡から顔を離して下を向く。
彼女が身につけているのは私服、その上から学生用のマントを羽織っている。
このマントも魔法の暴走から身を守るための特別製だ。

「入学式まであと40分」
「きゃああっ! すぐ着替えてくるー!」

懐中時計を出して確認するリーヴァスの隣で慌ててマントを脱ぎ捨てる少女。
淡いピンク色のモコモコなセーターまで脱ぎ出すのは、リーヴァスとは生まれたときからの付き合いで親代わりでもあるからだ。

「シルキー、今日は正装だ。手伝ってあげなさい」
〈はい。アリシア、行きますよ〉
「うん! リーヴァスパパ、教えてくれてありがとう!」
「先生だと教えているだろう」

シルキーの魔法でたぶん女子寮の部屋へと転移したとんだであろう少女に苦笑する。
杖でマントとセーターを浮かべるとその後ろに銀色の渦が現れた。
そこから細く白い腕が伸ばされて、魔法で畳まれたマントとセーターを受け取る。

「忘れ物だ」
「ありがとう、リーヴァスパパ」
〈先生でしょう?〉
「ありがとう、リーヴァスパパ先生」
「学園内ではパパもママも禁止だ。いいね?」
「はい、リーヴァスパパ」

これはリーヴァスを揶揄っているのではなく『言えなくなるなら、いまのうちにいっぱい言っちゃおう』という10歳らしい幼い考えからである。
それが手に取るくらいわかりやすく、思わず笑ってしまうリーヴァスだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

処理中です...