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第一章
❷⓪
しおりを挟む濃いめのドリップコーヒーに浸していたサンドウィッチ用の食パンを使ったティラミス。
保存容器のひとつとサイズがピッタリなため、詰めて挟んで乗せて積んで重ねて振りかけて~を繰り返す。
底に敷く食パンには、井桁の隠し包丁を入れたものを。
切り込みの入っていない面を底に。
挟む食パンはフォークで穴を開けたもの。
最後はマスカルポーネクリームの上にココアを振って冷蔵庫へ。
私のティラミスは食パンで、マスカルポーネクリームは生クリームではなくヨーグルト。
だから、おやつだけでなく朝食代わりにもなる。
以前、河川の増水が原因で閉じ込められたキャンプ場。
そこで、ヨーグルトでつくったティラミスを販売したことがある。
その日に帰る予定だったキャンパーたちが食材を使い切っていたため、善意による販売が許されたんだけどね。
それを食べたことがあるのだ、ショップで会ったおじさんは。
別に食材を切らしていたのではなく、甘いものが食べたいのではなく。
コーヒーの香りにつられて寄ってきただけだけど。
「思ったより甘くはないな」
「そりゃあ、腹にたまらないクセに贅肉はたまるデザートではなく、ちゃんと食事としてつくったんだから」
冷蔵庫完備のコテージやキャビンなら、デザートタイプのとろけるティラミス(プリン容器)をつくるよ?
AC電源サイトであっても冷蔵保存が出来ない場所ではつくりませんって。
ただ、おじさんたちの感想を聞いて女性たちが集まったけど……
「はあ? 『こんなモン、いらん』と言ったのはどこのどいつだよ」
その言葉に謝罪もせずにダンマリ。
彼女らがそう言ったのには理由がある。
保存容器ごと欲しがったのだ。
「欲しけりゃ、皿を持参しろ」
そう言った私に、「そんな不味そうなモン、金を積まれてもいらん!」と言い返してきたのだ。
中には値引き交渉までしてきて、断ったら暴言を吐いた女性たちもいる。
1人前200円だよ?
それを4人前(保存容器1個分)で200円にしろ、だもん。
さらに「買ってやるんだから」とまできた。
…………根に持つのも当然ではないかい?
女性たちが慌てて寄ってきたときには、酒呑みなおじさんたちが12人前を買っていったため完売済み。
その後に、使いきったマスカルポーネ代わりに水切り豆腐でつくったティラミスも、おじさんたちに好評でした。
女性たち?
近寄らせませんでした。
というのも、ティラミスもどきは販売したのではないから。
「つくってみたんだけどさ~」
「「「クレクレー」」」
…………言ってるそばからスプーン握ってるし(笑)。
『回し喰い』されるそれに、遠巻きで見てた子どもたちが食べたそうにしていたけど。
流石に女性たちは「私たちにも」とは言えなかった様子。
「甘さがない分、こいつはうまいな」
「こっちの容器はココアを砂糖なしにしたから。こっちは甘めで、こっちはインスタントコーヒーを思いっきり砕いたのをかけてみた」
「この『コーヒー三昧』もいけるな」
「この白いのは豆腐なんだろ?」
試食をしてくれたおじさんたちは、ナッツなどのおつまみをお返しにくれました。
女性や子どもたち?
私のサイト周辺を彷徨いていたため、キャンプ場の職員に追い払われていましたよ。
ちなみにホタテの乾物ももらったため、たこ焼きならぬホタテ焼きをつくって、これまたおじさんたちに試食してもらいました。
「柔らかいな、明石焼きか?」
「そっちはね、戻し汁が良い味出してたから。こっちがたこ焼きで、こっちがタコの代わりに貝柱入れてみた」
「コレはネギ焼きか」
「うん、丸めてみた」
「今度はお好み焼きで丸めてくれ」
リクエストのお好み焼きバージョンも作りましたよ。
紅しょうがを刻んだ方が人気でした。
あっ、お好み焼きは『お好み焼き粉』ではなく小麦粉でつくっています。
とろろは「あったら使う」けど、キャンプでは道の駅で大和芋や自然薯が売ってたら買うかな。
足がはやいから、時期をみないとね。
真夏だとお酢が必須!
ちなみにホットケーキで焼いたのは、私のおやつになりました。
冷めたものを保存袋に入れて、お腹が空いたらパクッと。
中にひとくちチョコを入れて丸めたから、パクッと口に放り込むととけたチョコが…………良いお味。
ひと口チョコもホワイトチョコからビター、イチゴや抹茶などバラエティーがある。
ただし口にしなければ、何味のチョコが入ってるのか分からない。
だから、パクパク、パクパクって食べていたらカロリーがちょっと…………オホホ。
さて、おじさんにはブランデー入りのティラミスを差し入れしました。
差し入れというよりは……毒見?
何度も会ってるから、テントは知っている。
私が来るのを知ってたのか、テントの入り口に酒の瓶。
この中に虫よけが入ってるんだよねー。
「パンに、あまってた製菓用のブランデーを垂らしたコーヒーを染み込ませてみた」
「そのブランデーは?」
そう言いつつ、クイッと呑むジェスチャーをするおじさん。
「いつまでいる?」
「開通した翌日にでも帰るかな」
早期リタイア組だから、慌てて帰る必要はないらしい。
「いま、ドライフルーツをブランデーにつけてるんだけど?」
「よし、それを食うまでいるぞ」
「パウンドケーキ……の予定」
カップケーキになったり、紅茶に入れたり。
「予定は未定で決定ではない」が私の口グセ。
気分で食べたい物もつくりたい物もかわる。
おじさんはそれを知っているから笑う。
もちろん、おじさんもただ貰うだけではない。
「コイツで何かつくれんか?」
そう言って出されたのは、様々な野菜や果物。
何種類か料理をつくって、1人前ずつおじさんに渡す。
そして、あまった食材は『料理をつくった手数料』として私がもらう。
これが、顔馴染みのおじさんたちとの取り決め。
いわゆる物々交換である。
キャンプ場の規則(販売禁止)の抜け穴を掻い潜って楽しんでいます。
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