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第一章
❶⑧
しおりを挟むキャンプ場周辺には温泉施設もあり、大きな道の駅もある。
前日は夜勤明けで地のものが買えなかった私は、道の駅で買い物中に驚く情報を受けた。
『隣町に通じる国道が、ゲリラ豪雨による土砂崩れの兆候が見られるため封鎖されている』
封鎖されてまだ1時間たっていない。
ただし、隣町から先の道では昨夕のゲリラ豪雨が原因と思しき倒木で前日から通行止めが発生しているとのこと。
復旧にはしばらく時間がかかるとのこと。
倒木の原因は緩んだ地面、水分を含んだ斜面。
その原因が乾かないと、倒木を撤去しても第二・第三の倒木が発生しかねない。
安全が確保できなければ通行止めは解除されない。
道の駅を含めて温泉施設などはキャンプ場のある地域にあるため、道路が封鎖されても不便には感じない。
とはいえ、葉物野菜は時間がたてばしなしなになって商品にならなくなる。
連泊するため食材を多めに購入していたものの、葉物野菜を中心に冷凍食品や1リットルの牛乳を10本とペットボトルの水をケースで追加購入してキャンプ場へと戻る。
キャンプ場では出かける前と変わらず平穏な時間が流れていた。
買ってきたものを運び込んでキッチンにしまうと管理棟へ。
家族用の大きな冷蔵庫のため、追加購入した冷凍食品も全部収納出来てしまう。
…………うちの冷蔵庫もやっぱり大きなやつに買い換えようかと本気で悩むわ。
管理棟に行ったのは、通行止めの情報をどこまで把握しているかを確認するためだ。
運良く三連休前の出勤が休みになったことで、急いで帰る必要はないけど……ここにいる人たちが大型連休をもぎ取って来ているわけではないだろう。
昨日は金曜日。
週末をつかってキャンプに来た人たちでいっぱい。
でも明日には日常へと戻る人たちだ。
彼らは帰るに帰れない可能性がある。
管理棟の職員に声をかけると、先に前日のトラブルについて謝罪された。
どうやら「入れてくれと頼んだけど断られた」という言葉を聞いて、「じゃあ、俺が」となったらしい。
それが2組目でウッドデッキに侵入して窓を叩いた男たちだ。
しかし、私が包丁片手で近寄るのがカーテンの隙間から見えたため逃げ帰った。
ちなみに、私はキッチンの中で料理中でした。
彼らの叩いていた窓はキッチンに一番近い場所。
はい、『作業台で包丁を持っているのは当然』ではないでしょうか?
そして「子供連れならいけるんじゃないか」とバーベキューに来ていた家族が突入。
あわよくば一晩泊まろうという魂胆もあった様子。
しかし、ゲリラ豪雨も落ち着いて晴れ間もみえていたこともあり。
周辺の被害確認に回っていた職員に見つかって管理棟へと強制連行。
テレビの音が聞こえていたため、せめて「子どもにアニメをみせたかった」とのこと。
これが私に怒鳴られた連中。
……シャワー浴後、サクッと追い出されました。
デイキャンプの人たちが退出する時間になったし。
その人たちのいうアニメの放送まで約2時間。
いまは放映時間がかわった、金曜の19時に放送されていた某人気アニメです。
それまで、キャビン内で過ごす気だったのでしょうか?
帰宅の車内でみせるなり、ポータブルテレビを持ち歩くなり。
方法はいくらでもあったでしょう。
急に静かになったのは、デイキャンパーがキャンプ場から離れたのが大きな理由だったようです。
そしてテントが壊れたキャンパーにロビーの一部を開放。
車中泊を選択した数組が管理棟を出て駐車場へ。
人数的に車中泊ができない人たちがロビーで泊まり、今朝キャンセルした人が帰っていったとのこと。
「それなんだけど……」
道の駅で聞いた情報を提供して情報確認。
管理棟では隣の町へ続く国道で封鎖されているのは報告受けていたらしい。
「安全のためで、実際に土砂崩れが起きているわけではない、と連絡が来ています」
「その向こうが倒木で通行止めになってるのは?」
「…………聞いてない」
朝出ていったキャンパーたちが引っかかってる可能性は高い。
それだけでなく、前日の夕方にキャンプ場を離れたデイキャンパーたちは、隣町へ向かったもののその先が通行止めのため、家に帰ることは出来なくなっているはずだ。
「隣町からここへ戻ってくる可能性を考えた方がいい」
宿泊施設もキャンプ場も複数箇所にある。
しかし、その数は有限であり、被災者として無償で貸し出されることはない。
キャンプ場だって数千円の出費が必要だ。
もちろん、食事などは別途必要となる。
そして……コンビニはそれほど多くはない。
あったとしても搬入が不可能だろう。
早急に対処が必要なため、各施設の代表が集まって緊急会議が行われることになった。
ちなみに、私は復旧が遅れるならそのままキャビンを継続で借りることを伝えた。
前日の詫びも兼ねて、仮予約という形で確保はできた。
災害による緊急措置のため、当日キャンセルでもキャンセル料は発生しない。
「そういえば、周辺の被害は?」
キャンプ場は周囲を囲む林道が散歩道となっている。
けっこう長距離だけど途中にある池のほとりではシートを広げて休憩も出来るし、小さな牧場というか動物園も備わっていて餌やりも可能だ。
地面は泥濘があり、木々の梢から雨垂れが落ちてくる。
イタズラ好きな小鳥たちが、散歩している人を濡らして遊んでいるようだ。
「今日は晴れて暑くなるようだし、散策は明日以降にした方がいいみたいね」
「ご迷惑をお掛けします」
食材も豊富にあるため、1日はキャビンで引きこもっていてもいいだろう。
お菓子づくりもしたかったし。
こうして私はキャンプ2日目にしてさっそく引きこもりが確定した。
とはいえ、買い物ついでに周辺を散策してきたため、万歩計は1万歩を超えていたけどね。
さっそく、前日にまとめ買いした果実をつかってジャムづくり。
大半がブルーベリーの中、イチゴや木苺もある。
イチゴジャムにブルーベリージャム、ミックスでベリージャム。
その合間にクッキーの生地づくりとアイスクリームづくり。
生地を寝かせたり、冷凍庫で冷やしたり、煮詰めたり。
これらは同時進行しても忙しくはない。
その合間に昼食づくり。
キャビンのウッドデッキにはバーベキュースペースがある。
別にバーベキュー専用ではなく、焚き火が可能なのだ。
とはいえ、前日のゲリラ豪雨で大気中の湿気が多く蒸し暑い状態。
日差しで濡れた大地が過剰な水分を手放しているからだ。
それはそのまま焚き火にむかない状況とも言える。
ここで取り出したるは、電気コンロ。
キャビン宿泊者が無償で借りられる設備のひとつ。
これをつかって……お昼は焼きそば。
せっっっかくのバーベキューグリルがもったいない?
いやいや、そうでもないんだなー、これが。
鉄板焼きが出来るということは、鉄板に流れたソースがジュウジュウ、煙がモクモク。
はねる油で全身が臭くなっても、これぞキャンプの醍醐味じゃないか。
余ること前提で、キャベツやタマネギにニンジンなどをふんだんに使う。
野菜はともかく鶏肉や豚肉も地産のもの。
余ったら冷凍保存。
そのために冷凍保存が可能な容器や袋を持ってきたのだ。
キッチンでつくったらニオイがこもるため、キャンプでは盛大につくる。
焦げたソースも香ばしいし。
キャンプ場で飯テロ(笑)。
楽しいよね~。
こうして、夕方まで周囲に悪意のある飯テロを続けていたら……キャンプ場はふたたびゲリラ豪雨に見舞われていました。
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