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第一章

❶③

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このキャンプ場をはじめて使った日、朝早くから移動を開始した私はお寺めぐりをしつつ、この近辺のスーパーや道の駅、無人販売所に立ち寄ってキャンプ場には12時前に着いていた。
タープだけを張って直射日光を避けて、少し手の込んだ料理を始めていた。
道の駅で購入した生餃子を焼き、白飯を炊き(炊飯器持参)、青菜炒めをつくり、かに玉を……

「おいおい。そんなに作って食えるのかよ」
「……絡むなら通報するぞ」

その言葉で誰もが退散していく。
誰もそれを一食で片付けるとは言っていない。
……十分に食べられる量だけど。

それでお昼は焼き餃子数個、天津飯ひと皿と青菜炒めを半分。
残りの焼き餃子と青菜炒め半分は夜用だ。
それを「余ったんだったらくれ」と言うアホが寄ってきた。
「グループで来たから食ってやる」という恩着せがましいセリフと共に。
さっき絡んできた奴だ。
そのときは巡回の時間と重なっていたらしく、連絡する前にサクッと職員に捕まった。
それが私の前で苦笑していた職員だ。

「余ったんじゃない。夕食に使う分も一緒に作ったんだ」

このときは罰金(1万円)と注意。
そして私およびサイトへの接近禁止。
キャンプ場を使用中は職員の監視下に置かれることでキャンプ続行が許された。
私と違いグループで来ていたから、その人たちが責任を持つと約束したことも追い出されなかった大きな理由だ。


15時。
その日、私が作っていたオヤツはホットケーキ。
道の駅で購入したイチゴを添えて。
このときは女性たちに遠くからチラチラ見られるだけで済んだ。
彼女たちは絡んできた人と同じパーティ。
流石に数時間前の出来事があったため、自重したのだろう。
っていうか、これぐらい自分たちでつくればいいだけだ。
グループで来たなら、楽しいティータイムになっただろう。

他人ひとのものを欲しがる人を「クレクレ」と呼んで嫌うが、キャンプ場やキャンパーの一部では「乞食」や「物乞い」とも言われている。
知らぬは本人ばかりなり、だ。
このときも、周囲から「乞食らを飼う集団」と呼ばれていた。
複数なのは女性たちの様子も加算されてのこと。
どこの世界でも情報共有は怖いものなのだ。
その対象となれば……周囲キャンパーの監視がキツくなるため、楽しくはないだろう。
大抵はキャンプを止めていなくなるが、この人たちはグループだったからか。
周囲の目を気にせずに残っていた。
神経が図太いのか、母親の胎内に忘れてきたのか。
普通の神経を持っているなら萎縮するよね~?


そして夕方。
ざく切りにしたキャベツをフライパンに敷いて、水を張り蓋をして蒸し煮。
くたくた~となったら麻婆豆腐の素(ひき肉なし)を1パウチ流し入れてよく混ぜる。
麻婆豆腐の素ではなく麻婆春雨を使うこともあるけど、このときの私は麻婆豆腐の気分。
パックからだした豆腐はそのまま麻婆のプールにダイブ。
豆腐は大きなパックなら1つ、小さなパックなら2個3個。
食べるときに、お玉で好みの大きさにするからこれでいい。
それに小さくすると煮崩れるんだ。
豆腐の周りに昼の焼き餃子を並べてまたフタをすると、クツクツとキャベツの合唱が聞こえてくる。

この日は焚き火台を使っていたから同時調理が可能だった。
そこで、お昼に残した青菜炒めを使った中華スープを。
とき卵も入ってサッパリ系。
コッテリさせたければ焼豚やベーコンを使うけどね。
スープをメインにするなら、春雨もいれて腹もちを良くする。
仕上げはラー油かごま油を入れれば、春雨ヌードルにもインパクトが加わる。

そして、また炊いた白飯。
これはAC電源付きのサイトを借りたキャンパーの特権だ。
電源付きサイトは、炊飯器などの電化製品を使えるから便利なのだ。
小型の冷凍庫や冷蔵庫を持ち込むキャンパーもいるし、ふた口のIHコンロを持ち込む強者つわものもいた。
夏に冷風機、秋冬はヒーターやコタツを使うキャンパーも。
私は車中泊だから、車内でも安全に使える電池式や充電式を使うけどね。
でも「充電したいから貸して」というアホや、勝手に延長コードを抜くバカもいる。

「はいはい。窃盗の現行犯。なに? 文句がある? じゃあ警察を呼ぼう」

キミたちは、自分の家に入ってきて「充電させろ」「電気を使わせろ」と言われても「はい、どうぞ」といえるのだろうか?
AC電源の使用料金を払っている以上、窃盗になるのは当然だと言っておこう。



「いた~だきます」

手をあわせて、まずはよそった麻婆鍋から。
キャベツを白飯の上に軽くキスをさせると、白飯がポッと赤く染まる。
そのままキャベツを口にダイブさせて咀嚼すると、今度は餃子とのキスが通り過ぎた白飯がさらに赤くなる。
餃子を焼いたのは、煮崩れを防止するため。
お玉で好きな大きさに掬った豆腐は、細かな白いカケラがスープの赤に混ざって輝く。
スープを飲まないのは、明日の朝までお楽しみが待っているからだ。
その代わりに、あっさり青菜のスープを作ったのだ。
キャベツが半分になったところで、うどん(生)を投入して焚き火台にかけて〆にする。

時短のために下茹でされたうどんを購入する人もいるけど、焚き火台を使った調理をする場合はそれが逆に失敗のもとになる。
焚き火台の火力は卓上コンロより強いため、あっという間に火が通るメリットがある。
温め直しなど、食事中は便利なのだ。
その代わり、下茹でされた麺類や野菜を使いながらレシピ通りの時間で調理したら煮崩れなど失敗料理の完成だ。
……だいたい火力が一定になるよう設定された卓上コンロと違い、焚き火の火力はそれぞれ違う。
『何分』などと表示すること自体が間違いなのだ。

食器を紙皿にするのにも理由がある。
ソロキャンパーがサイトを離れると、余った料理をイタズラしたり盗むバカがいる。
……どちらも犯罪だという自覚がないからタチが悪いし、反省しないし、開きなおっているため謝罪もしない。
よって警察に連行されることも。

そのため、鍋のスープを残したフライパンや中華鍋は洗いに行かない。
中華スープを作ったフライパンは、キッチンペーパーで内側を拭き、すすいだお湯はそのまま焚き火で水蒸気化させる。
少しお湯が残った状態で焚き火台から離すと、残った熱で乾燥する。
途中で焚き火台から離すのは空焚きを予防するためだ。
熱がとれたら、ペーパーで内外を拭いて終わり。
ペーパーは可燃性。
許可されたキャンプ場ならそのまま焚き火に投げ込むし、禁止されていればトイレに行ったときに炊事場でまとめて捨ててくる。
紙皿や紙コップを袋に入れておけば、そのときに一緒に捨てられる。

わざと余らせた麻婆鍋に乾燥の春雨を入れてフタをする。
翌朝、麻婆春雨スープにするためだ。
たくさん余らせたスープを春雨が吸ってくれるため、朝は温めなおすだけで済む。


あとで聞いた話だけど、私のところから漂ってくる、食欲をそそる麻婆鍋の香りをおかずに食べていた、というキャンパーが何人かいた。
「そんなに匂いが広がるか?」とも思ったけれど、ただの冗談だった可能性もある。
サイトの前を通ったときにでも嗅いだのかな?
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