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第一章

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私は予約していた場所から離れたサイトを借りた。
キャンプ場側とは2割返金で手打ちにした。
私が借りていたのはAC電源がついているサイト。
延長コードリールも含めての利用代金は少し割高。
何より、トイレに近い場所にしていた。
雨天時の傘をさしての往復は、土砂降りの中ならさらに大変で。
雨靴は持ってきているけど、行き来が不便なことに変わりはないのだから。

そんな私が代替地に借りたのは、管理棟にほど近い場所。
実はこの管理棟には綺麗なトイレがあり、有料のシャワー室(個室)もある。
ただ、ここは夜間でも人の出入りがある。
トイレやシャワーの利用者だけではない。
夜間になると増えるのが窃盗による被害。
タープやテーブルなどを盗んでいく人たちがいるのだ。
その被害を訴えにくるのだが……
免責条項に自己管理が促されているため、泣き寝入りするしかない。

日本人は兎角、性善説を唱えたがるものである。
しかし、キャンプなど『日常から離れた空間』では性悪説の方が多数派である。
はっちゃけるのだ。
所謂「魔が差した」という状態になる。
その結果が、窃盗であり…………婦女暴行だ。

女性のキャンパーは何人であろうと狙われやすい。
ただ、事前に馴れ馴れしく声をかけてくることが多い。

「どんな道具を使ってるの?」
「調味料忘れたから貸してくれない?」
「ひとりだとつまらないだろ? こっちで一緒に食べない?」

これらは盗むものを下見していたり、女性を物色していることがほとんど。
そのため、防犯ブザーは身につけておく。
断ってもしつこい相手にはこれが一番。
ただし、夜になると報復にくる。
……婦女暴行という、最低な行為をするために。

その前に、管理人たちにキャンプ場から追放されることもあるけど。
『ほかの利用者に迷惑をかけた場合』に抵触する。
それが書かれているのは『以下の行為を発見した場合、キャンプ場から出て行っていただきます』の看板と利用の説明書だ。
ここのキャンプ場もまた同様で、あの迷惑な家族たちも追放されることになった。
無断使用していたサイトの使用料と、芝生の修理代をクレジットカードで支払ったようだ。

「1日分払ったんだぞ!」
「使用料を支払うのは当然です」

本人たちの言い訳では、バーベキュー場の駐車場から入り込んだそうだ。
駐車場がいっぱいだったからキャンプ場スペースに迷い込んだと主張したのだ。
そして周囲がテントを設営して思い思いに過ごしていたり、キャンプ飯をつくっているのを見て「自分たちもここでバーベキューをしよう」となったらしい。
たしかに勘違いしてキャンプ場に入り込み、サイトを使う人もいる。
その時は自ら管理棟に出向いて使用許可を申請して、場合によっては許可が下りる。
予約がないサイトは先着順だからだ。
…………しかし、今回は運が悪かった。
私という正規の予約者がいるサイトを無断使用していたのだから。

サイトは隣同士くっついていない。
このキャンプ場では5メートルから10メートルずつ離れている。
それを2サイトに車を置いて占拠しただけでなく、さらにもうひとつ私が借りたサイトにテント二張りと子どもたちの遊び場にした。
そこは川沿いであるものの川岸の斜面まで2メートルほどあり、木々が対岸からの目隠しのように並んでいる。
その木々の下にはいつもなら枝葉が落ちているため、たきぎが拾い放題。
ハンモックが掛けられる木も多く、ゴールデンウィークから夏場にかけては夜にハンモックで寝る子どもたちもいる(そして寝冷えする)。

そんな理由から、結構人気なサイトだった。
私の場合はキャンプ時間を邪魔されたくないため、こういうを好む。
まあ、ここは区画整理された場所ではなく、車の通る通路もすべて芝が敷かれている。
乾燥している時期はとくに、キャンプ飯をつくっているときに車がそばを走って砂埃を上げる被害がない。
隣とは十分な距離が保たれて、向かいにサイトはなく(場所によってははす向かいになる)ことで視線を気にすることもない。

キャンプ場側でも今回のようなトラブルが起きた場合を考慮して、5ヶ所ほどサイトが空けられている。
私の代替地がそのひとつ。
少し高台にあるという理由から1サイトしかスペースが取れなかったらしく、通常より倍とまでいかないけど広いサイトで、車専用の通路から外れているため静か。
キャンプ場を利用する車はサイト横のなだらかな坂を下りていくため、立っていてもワゴン車ならギリギリ屋根が見える程度。
1メートルにも満たない低木が視界を遮ってくれるためだ。
ちなみにバーベキュー場の出入り口はここから下流に50メートル離れた場所。
両施設の間に共用の駐車場がある。
不便というなら、全方向から2分ほどで行ける中央広場に多目的施設があり、外には食器や鍋が洗える洗い場がある。
私が借りたサイトは、そこまで約4分。
途中、車が通過する坂を横切る必要がある点だ。
この洗い場の水は飲用禁止なので注意!

米や野菜などはどこで洗うか?
それは別に設置されている炊事場でおこなう。
ここで飲料水としてペットボトルに水をんでいくのはマナー違反である。
お腹を壊しても責任持てません、なのだ。
欲しければ、500ミリリットル90円ほどの値段で売ってるので購入すればいい。
キャンプ場にくる途中には湧き水が出ている場所もあって持ち帰り自由なため、タンクを持っていって汲んで帰る人もいる。
私はそこに寄って、1リットルのペットボトルで数本に分けて詰めてきた。
これもまた『地元名産』のひとつなのだ。

屋内型のマルシェでは毎日開催されているけど、そこまでいくのに約4分ほど。
ただドリンクスタンドがあって、フレッシュジュースが楽しみなのだ。
ということで、ポップアップテントとタープをしっかりペグで固定させて設置した私は、休憩ついでにマルシェへと向かった。
ドリンクスタンドでミックスジュースを注文してテーブルのひとつを占拠する。
すでに青果と惣菜パンを購入した私は、パンのひとつを頬張る。
到着した日のランチタイムは必ずここで。
ここの『きんぴらパン』が好きだけど、ミックスジュースにはあわない。
そのため米粉パンを好んで食べる。
今日の夜はフライパンでつくる餃子タンタン鍋。
途中の道の駅で購入した生餃子を使った、私のお得意キャンプ飯のひとつ。
フライパンなんていうものは、オートキャンプならひとつは持ち込んでも問題ない。
これさえあれば、普通に家と同じ料理がつくれるのだ。
下拵えしてきたパスタは明日の昼食にまわすことにした。
クーラーボックス内はブロック氷を追加させたため、冷蔵庫の強に近い冷たさだ。
それでもね、餃子は早めに消費したいんだ。
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