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前編

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「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」

とうとうブランは言ってはならない言葉を口にしました。
それに便乗して私を罵る、ブランが連れてきた再婚相手メディアとその連れ子のジョアン。

「この無能どもは何を勘違いしているのでしょうか?」
「何ですって!」
「生意気よ!」

スッと前に出ると平手でジョアンの左頬を殴って、怯んだメディアの胸部を靴の先で抉る。
腹部にしっかりと目立つ出っ張りがあるからねぇ。
妊婦の腹を殴るのは……別にブランの子でないから問題ないですが、それで流れては後味悪いですね。

「このバカどもにお教えしていないのですか?」

「いや」だの「それは、その」と、ブランの口から歯切れの悪い言葉が続く。

「じゃあ、私から事実を話しましょう。この公爵家の当主はお祖父様。母方の祖父ですね。つまりここにいるブランは婿養子。婿養子は再婚と同時に婚家の籍から抜ける規則があります。あなた方のようにを目論む愚か者が正統な血族を冷遇する犯罪が横行するのを防ぐためです」

ようやく気づいたのか、二人の視線がブランに向けられる。

「あなたと再婚したことで、ブランはシュテルン公爵家とは縁が切れました。さらにあなたのご実家であるルールドベルは……あ、元侯爵家と言った方がいいですか? 再婚して公爵家から出ていかなくてはならないにも関わらず居座っている不法占拠を咎めなかったとの理由から、慰謝料を支払って降爵のうえ転封処分となりました。ですが、追い出されても公爵家に乗り込むという暴挙。……伯爵家の処分が甘かったようですね。褫爵ちしゃくのうえ私財没収を追徴いたしましょう」
「んなっ! 実家は関係ないわ!」
「関係なくはないのですよ。公爵家はいわば王族の血筋。あなた方はもちろん、ご実家であるルールドベル家も王族に楯突いたのです。処刑されて当然の行為をしたあなた方を放置していて『関係ない』は通じませんよ」

「関係ない」と申し開きをしたいなら、メディアたちを無理矢理にでも連れ戻しにくるべきだった。
私という次期当主を見下していた、などという証言を取り調べでもしている。
実父の再婚相手を「母を亡くした子どもなら受け入れる」とでも思ったのだろう。

「まだ10歳とおにも満たない私なら恫喝でなんとでもなると思っているのでしょうか? ですが、現当主はお祖父様です。私への恫喝や悪意ある言葉を含めた言動すべてが私を通してお祖父様へ、そして公爵家への侮蔑。公爵家は王族であり、王族への侮蔑は国王陛下への叛逆」
「違うっ! そんなつもりは毛頭ない」
「それはが判断することであって、『どんな思惑が裏に隠されて行われたか』は関係ないのですよ」

たとえ棒切れ一本を手にしたとしても、それだけでは問題にならない。
まだ幼い子なら、もしくは犬と原っぱや自宅の庭で遊ぶためなら問題にならない。
それが、人が近くにいる状態で軽く一振りすれば『害意あり』と見做される。
それを事前に回避させるため、侍従侍女が注意する。
次期当主であろうと注意に従えなければ、危険回避能力がないと判断されて当然なのだ。

「さて、母を殺したのは誰か。これから厳しい取り調べが待ってますよ。すでに証拠も証言も揃ってます。あとは自供だけ……別に自供しなくても大丈夫ですよ。自供なしでも有罪に出来ますから」

処刑になるならひとりでも多く道連れに。
そう考えている使用人たちは多いようで、自分の犯した罪もほかの人と一緒に実行した、と証言している。
もちろん、それがすべて正しいと思っておらず。
ちゃんと裏どりした上で犯罪者であると判明した者ならその証言を加算して罪を重くしている。
娘を殺されたお祖父様はともかく、宰相の叔父様も姉を殺された憎しみをぶつけているのだ…………拷問に。

「クズとゴミとカスをまで棄てて来てください」
「はっ」

泣き喚き暴れる3人は抵抗むなしく連れ出されていく。
大丈夫、行き着く先にはすでに足を引っ張りあった仲間たちがたくさん待っています。
さらに微罪を重罪にされた使用人たちと、彼らの身元保証人として名を貸した貴族たちも投獄されています。
その貴族たちは逆賊として娯楽という名のとして大衆の前に引き出され、むくろを晒すこととなるでしょう。

別にどんな派閥に属していようと、彼らの派閥が正義か悪の巣窟かは関係なかった。
十人十色、人の数だけ意見があって当然だから。
それなのに、外で戦う当主や男たちが互いを攻撃し合うのなら、それもまた貴族社会だと言える。

しかし、家庭を守る女性や抵抗できない弱者に毒を盛り殺すなどあってはならない。
そんな卑怯な手をつかった彼らは、貴族の違反タブーを犯した罪を償わなくてはならない。
たとえ下っ端が暴走した結果の犯罪だったとしても。
それが『組織の上に立つ者の責任』なのだ。
責任を負いたくなければ使に成り下がればいいだけの話。
誇り高い貴族として死ぬか、涙や鼻水を撒き散らして吊られるか。
出来れば前者であってほしいものだ。
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