8 / 18
本章
面白いことを考えたんだ
しおりを挟む私は自分の稼いだお金を姉の持参金として直接リッツン家へ渡しに行った。
それによって、婚約者がポーリシアではなく私オーラシアだとデデに印象付けた。
持参金を私が払ったからといっても婚約者はポーリシアのままだったのに。
それに事件一ヶ月後に渡したのには理由がある。
すでに『第三王子と不愉快な子息たち』は次々と処分されて連絡が取れなくなっていた。
それを知らないデデだったが、仲間たちに連絡して大金が舞い込んだから一緒に使おうとはならなかった。
降って湧いた持参金を、デデはゼアと共に使いまくった。
二ヶ月で使い切るとは思っていませんでしたよ。
私も甘かったですねえ。
そしてあの日……彼らは私の前に姿を現した。
持参金の追加を求めて。
それを私たちは婚約破棄に切り替えた。
「オ持チ致シマシタ」
「ポーリシアに持ってって」
「ハイ、喜ンデ♪」
接客は私が管理している。
そう、この店は店員も人工生命体で、生きているのは私たち姉妹のみ。
ルーブンバッハ小国のウリである人工生命体の機能や対応を知るために実装された、最先端の店として有名になっている。
「ポーリシア様、コチラデ間違イゴザイマセンカ」
「ありがとう。そこの棚にしまって」
「ハイ、喜ンデ♪」
グレンは従順にポーリシアの命令に従う。
その姿を見て私はほくそ笑む。
「オーラシア義姉さん。ポーリシア義姉さんに手を出した連中、やっぱり長く使えなかったよ」
「そう、それはそれでムカつくわね」
「それで、面白いことを考えたんだ。僕の人工生命体にね……」
アインの研究は成功した。
それは『切り刻まれた肉体それぞれに本人の意識は残っている』ことを実証させた。
人工脳に主人を登録させて、命じられたことのみに従う。
この店にいる人工生命体の一部は、ポーリシアを襲った連中の『成れの果て』だ。
もちろん、それを知っているのはアインと私、女王となったユーレシアと父の四人だけだ。
……ああ、人工生命体に埋め込まれた連中の意識も知っている。
ガードロボとお掃除ロボット。
つまり人工生命体でも最下層の『仕われるだけの存在』に、彼らのほとんどの意識が埋め込まれている。
命じてきた連中はボディーが壊れるまで仕えるようになったいま、どう思っているのか。
壊れても新しいボディーに取り替えられるだけなので、このまま意識が残り続けるのならこれはこれで終身刑に相応しい。
意識だけになったため、ポーリシアへの罪悪感や命じられる不快感と屈辱があっても、機械のボディーは素直に従っている。
ときどき、私の踏み台にしている。
自動昇降台ならあるけど、呼ぶより近くにいるグレンに踏み台になってもらった方が早いこともあるからね。
あのグレンにはウリエラの意識が入っている。
彼はあのあと、仲間たちと同じ滅びの道をたどった。
王は退位して王太子に道を譲った。
そして新王は多大な功績を認めて、ルーブンバッハの独立を促した。
「ウリエラの件があったにもかかわらず、我が国に多大な貢献を与えてくださった。私たちにはその恩を労うことはできても報いることはできない。もう、この国を見捨てて自由になってください。本当に申し訳ありませんでした」
あの事件を後悔しているのは王家だけでなく貴族も同様。
公になっていなくても貴族社会では知られた事実。
被害者と加害者。
被害者のルーブンバッハ侯爵家は王族でもある。
そして被害者の一族に支えられている加害者一族。
辛酸を嘗めて十年を耐えてきた。
これ以上も耐えていくか、滅びを覚悟するか。
彼らは後者を選んだのだ。
25
お気に入りに追加
137
あなたにおすすめの小説
完結 勇者様、己の実力だといつから勘違いしてたんですか?
音爽(ネソウ)
恋愛
勇者だと持ち上げられた彼はこれまでの功績すべてが自分のものと思い込む。
たしかに前衛に立つ彼は目立つ存在だった、しかしペアを組んだ彼女がいてこそなのだが……。
皇太女の暇つぶし
Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。
「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」
*よくある婚約破棄ものです
*初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです
婚約破棄されたのでグルメ旅に出ます。後悔したって知りませんと言いましたよ、王子様。
みらいつりびと
恋愛
「汚らわしい魔女め! 即刻王宮から出て行け! おまえとの婚約は破棄する!」
月光と魔族の返り血を浴びているわたしに、ルカ王子が罵声を浴びせかけます。
王国の第二王子から婚約を破棄された伯爵令嬢の復讐の物語。
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します
生命(きみ)を手放す
基本二度寝
恋愛
多くの貴族の前で婚約破棄を宣言した。
平凡な容姿の伯爵令嬢。
妃教育もままならない程に不健康で病弱な令嬢。
なぜこれが王太子の婚約者なのか。
伯爵令嬢は、王太子の宣言に呆然としていた。
※現代の血清とお話の中の血清とは別物でござる。
にんにん。
さようなら、たった一人の妹。私、あなたが本当に大嫌いだったわ
青葉めいこ
恋愛
おいしい?
よかったわ。あなたがこの世で飲む最後のお茶になるからね。
※番(つがい)を否定する意図はありません。
小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる