アーリウムの大賢者

佐倉真稀

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ラーン王国編―終章―(メルトSIDE)

閑話ーミランの心配事2ー

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 帰ってきたメルトは青い顔をしていた。

「メルト!心配したんだよ?」
 思わずメルトの手を握る。少し震えていた。
「ごめんなさい。リンド先輩と一緒だったから…」
 やっぱりリンドか!!ピクリとこめかみが震えた。
「なんだか気持ち悪くて、二日酔いみたいなんだ。俺、寝てていい?」
 真っ青な顔をしていた。メルトとリンドの(先輩とつけたくない)魔力の相性が悪かったのか、二日酔いかはわからない。
 メルトが本当に望んだのならきっと恥ずかしそうに報告してくるはずなのだ。
 ごまかし笑いをしたということはそうじゃなかったということだ。

「もちろんだよ。寝て寝て。熱はないかな?」
 とりあえず寝かせてた。すぐ寝入ってうなされ始めた。
 僕はぎりっと奥歯を噛み締めた。
「リンドの野郎……」

 それから汗をぬぐったりして様子を見た。
 食事に行く時だけ部屋を留守にした。

 食堂に行ってリンドを探した。
 昼はいなかった。夕飯時に帰ってきたリンドに声をかけた。

「ちょっと面貸してくれる?」
 宿舎の裏手に呼び出した。
「あんた、なんでメルトに手を出した?」
 キョトンとした顔をしてそのあと照れた顔をした。
「いや、メルトが一度も経験したことないって噂になってたから、班を預かるリーダーとしては一度くらい経験させてあげたほうがいいかなって思ったんだよ。メルトが話したのか?いやーまいったな。」
 思わず拳を握り締めて体重乗せてぶん殴った。顔を。数メートル吹っ飛んで尻もちをついた。ざまあみろ。
「それを余計なお世話だっていうんだよ!ロステならいざ知らず、なんでリンドにそんなことされなきゃならないんだ!第一、メルトは魔力過敏症だぞ!?魔力の相性が良くないとセックスも気持ちよくないんだっつーの!今具合悪くなって寝てるんだよ!!あんた、セックスを何だと思ってるんだ!初めては好きな奴とするのがフィメルの常識なんだよ!あんた、メルトに恋してないんだろ!?そんな奴がメルトに手を出すなよ!僕の親友を傷つけるな!この大馬鹿野郎!メルトに必要以上近づいたら、殺すからな!!」
 リンドはぽかんとした表情をして、殴られたところに手を当てながら僕を見ていた。
 怒りが収まらず、その場を去って食堂で急いで食べた後、部屋に戻った。

 あとでスラフに恐る恐る聞かれたがメルトのプライバシーなので言わなかった。それよりも、メイルにメルトの初めてがって噂のほうが気になった。メルトが話題に上がるなら、他のフィメルにも噂があるに決まっている。
「経験してないフィメルの情報、メイルの間で噂になってるって聞いた。最低。僕初めてだって噂になってて、例えば誰かが経験しとくべきだって言ってきて一回でやり捨てられたらどんな気持ち?スラフはそれって許せるの?許せるなら僕別れるよ。そういう情報のせいで、よく恋愛とかわかってない子を誘ってやり捨てて。本気で恋をしたその子があとで後悔するような事させたくないんだけど。」
 後でスラフに後ろにドラゴンが火を噴いてるのが見えたと言われた。そりゃあ怒ってたもの。
 スラフを問い詰めて噂を消すようにした。どんな子がうわさされてるのか、驚くことに僕も入ってたし、ちょっと下の後輩も入ってた。僕はスラフがいるって公言したからちょっかいかけるやつはいないと思うって言われたけど、メルトや、その子には思い人がいるから手出し無用、と。
 さすがにそこを超えて手を出してくるような奴がいないとは思うけど、メイルは馬鹿だからわからない。後で本気にしたロステが落ち込んだのなんのと聞いたが告白もしないでうじうじしているメイルにメルトを任す気はない。
 部屋に戻ってメルトの様子を見る。汗をタオルで拭いた。

「……う…した……ゆる…」
 うなされている。タオルを濡らして汗をぬぐった。
 ふっとメルトが金色に光った。
 そうしてゆっくりと表情が和らいだ。
 僕はほっとして盥の水を替えに行った。
 大分よさそうだったので寝ようと思った。

「ヒュー……」
 はっきりと寝言が聞こえた。
 聞いたことのない、名前。もしかしたら夢の中でだけは思い出せるのかもしれない。
 ダンジョンはメルトに何をしたんだろう。

 このままメルトがつらい思いするのなら神だって許せない。

 翌朝、メルトと食堂に行ってリンドと会った。メルトの後ろから思いっきり睨んでやった。
 普通に挨拶して去っていった。結局やりたいだけだったのかとまたむかついた。
 そのリンドを見送るメルトは少し傷ついた顔をしていた。忘れちゃって、メルト。
 絶対、あんたにはもっともっと素敵なメイルが現れるから。

 そして僕とスラフの結婚式の日。まぶしそうに見るメルトは結婚に夢を持っていることが分かった。

「おめでとう。すっごく綺麗だよ。俺も結婚したくなる。」
 メルトがそういうから涙が出る。うれし涙だ。
「スラフ、泣かしたら、決闘を申し込むぞ?」
 メルトがおどけたように言うとスラフが両手を挙げた。
「勘弁してくれ。メルトと決闘したら殺される。」
「メルトが本気で怒ったら怖いもんね?」
「ねー?」
 ポリカとエメリも乗ってくれた。みんなで楽しく笑って、食事会を終わらせて、新居に帰った。
 職場に近いアパート。これが二人の小さな城。
 僕たち幸せになるから。

 その夜僕はスラフの伴侶になった。

 騎士の仕事は辞めないし、当分子供は作らないことにした。
 もう少し共働きをしてお金を貯めてからってことになった。

 メルトはまた剣の腕を上げて王都の公開試合で優勝するようになって、御前試合にも出られるようになった。
 そしてとうとう優勝をして、貴族の嫌がらせが始まった。わざわざ出向してきてまで。第四は酷く貴族主義的な部隊だと聞くが本当にそうなのだろうか。


 メルトが29になったその年の春、突然謹慎処分になった。
 メルトとは会えなかった。気が付いたら王都のどこにもいなかった。
 噂では貴族ともめたということだったが傷つけでもしたら死刑のはずだから大したことはなかったと思いたい。

 元気でいて、メルト。伴侶を紹介しに帰ってきて。
 お願いだから。


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