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ラーン王国編ー正騎士へー(メルトSIDE)
野盗討伐
しおりを挟む帝国が戦争の準備をしている、という噂が流れ始めたのは俺が20歳になった頃だと思う。帝国の方には行商人も行かないよう気をつけているのだそうだけど、ルーシ王国とアルデリア王国の境あたりで野盗に襲われる被害が多くなっているとの噂をよく聞いた。
そんな折、第一騎士団長からルーシ王国への査察任務について説明があった。メンバーは若い平民組を主体とするメンバーだった。そのメンバーは民兵を指揮する訓練と最近ルーシ王国とアルデリア王国の間に出没する野盗を討伐する任務を課せられた。この任務は多分人を殺すことを経験させるためなんだろう。
ルーシ王国へは王都から馬車で1週間かかる。今回の任務では馬は使わない。団長以下、士官だけが軍馬に乗って移動することとなった。馬は貴重だからだ。特に鎧をつけた騎士を乗せ、魔法や剣戟の飛び交う戦場に怯えることなく騎士の命令を聞いて動ける馬を育てるのは大変なことなのだ。
4月の初めごろルーシ王国へ出発した。第一騎士団長、部隊長、以下平の平民団員総勢、32名。貴族の団員は含まれていなかった。野営を何回かしながら予定通りルーシ王国のアルデリア王国との境の街マジルについた。一旦この街で体を休めて国境付近の街道に向かうとのことだった。
馬車はマジルの兵舎に預けた。団長と士官が騎馬に乗って通りを進む後をついて歩いて移動した。厩のある宿を確保しているらしい。
「メルトは背が高くなったよなあ…。誰よりも背が高くないか?」
「ん……」
隣を歩いてたロステが言い出した。任務中なのに話しかけるとは。しかも任務に関係ないことを。バカなのか。
『……メルト……』
誰かに呼ばれた気がしてその方を見たが、馬車が側を通って見えなかった。
「急げ!」
士官に急かされて俺達は足を早めた。呼ばれたような気がしたのは気のせいだと、思ってすぐに忘れてしまった。
宿は国境へ出る門の近くの宿だった。平の団員はフィメルとメイルが別れて4人部屋に泊まることとなった。一応武器の点検をしてから、マジックバッグに突っ込んだ。同じ部屋になったのはいつものメンバーだった。ミランとエメリとポリカだ。
ここを出たら野営になるようだ。その荷物は用意されていて運ぶのはリーダーとなった者だった。班分けは前衛2人後衛2人リーダー1名の5人だ。
今回俺とミラン、リスク、スラフ、リーダーはリンド先輩で、奇しくもダンジョンと野営訓練のメンバーだった。
「野盗とか、殺さないといけないってことだよね。覚悟してたけど、ちょっと不安だなあ。」
ミランが不安そうに呟く。俺も、魔物や獣は殺したことはあるが、人はない。王都での見回りの時も捕縛までだった。戦争になれば、相手の民兵や軍人を殺さないといけない。そうでなければ自分が死ぬ。
騎士となった時にその覚悟はしていたが、こんなに早いとは思わなかった。
「戦争が起こりそうだからじゃないか?戦争になって、人を殺したことのない奴がいたら、すぐ殺されそうじゃないか?」
俺がそういうと、エメリがため息をついた。
「だからあらかじめ経験しておけってことだよね。ああ、憂鬱だ。仕方ないけど。」
肩を竦めてポリカが言う。それからしばらく沈黙が流れた。
「夕飯食べに行こう。そろそろ時間だよ。」
その日は夕飯を食べて早々に寝た。翌日の夜明けに出発だった。これからアルデリアに向かうという商隊の警護をしつつ進むことになっている。
野盗がよく出ると言われる街道沿いに進む。騎士の格好のままで進んでいるから相手は警戒しているかもしれない。警戒して現れないならそれでもいい。帝国関係じゃないということになる。
途中に野営して夜を過ごさないといけない場所がある。そこに陽が沈む前について野営の準備をする。班ごとに見張りに2交代で立って夜をやり過ごすことになっている。まずは2班10人で対処する。敵襲があったらすぐに起こして回り、全員で対処することになる。
俺達の班は夜中までの見張りに立った。行き交う旅人の野営地になっているそこは丸く広場のようになっていて、馬車がすぐ出られるように配置し、その外側に死角がないよう2人1組で歩哨に立つ。4箇所に立って残りの二人はお互いのリーダーが間で連絡がすぐ受けられるよう待機をしている。
俺が立っているのは森に近い場所だ。隠れやすい藪があって中は暗い。ここからは森の中の様子は見えない。
不意に葉が揺れたように見えた。風はない。すぐにリンド先輩に後ろ手でサインを送った。
『何かいる。警戒。前の森』
いつでも対処できるように、剣に手をかけた。
ヒュッと耳の脇を矢が通り過ぎた。
襲撃だ。
「襲撃だ!」
今度は大声で知らせる。隣にいたスラフも槌を構えた。
矢が何本も飛んできて、馬車の後ろに隠れた。そこから飛び出してくる、剣を持った野盗らしき者達。
「フィメルは捕らえろ、メイルは殺せ!馬と馬車は奪え!」
野盗らしき言いようだ。斬りかかってきた奴の剣を受けとめて弾き返した。フィメルは捕らえるんじゃなかったのか?
「くそ、このデカブツメイルが!」
……俺はフィメルに見えないのか。そうか。
スラフがびくっと震えた。
俺はそいつに斬りかかった。体勢を低くして足を狙う。何人か、それで転倒した。ついでに弓を持つ者の弓も切った。
「やばい、メルトがキレた!」
キレてない。失礼だな。俺に群がってくる野盗を足で蹴って倒した。その次に斬りかかってきた者の剣を飛ばした。野盗は10人以上いた。俺は隣に駆け込んできたスラフが1人を吹き飛ばすのを見た。ああ、あれは死んでるかもしれない。俺も、1人袈裟斬りに斬った。そうして乱戦になって、気がついたら血塗れだった。
人を、殺した。
終わって、手が震えた。怒りに任せて人を斬った。俺は、そんな剣は望まない。自分を嫌悪した。思わず棒立ちになっていると、ポンと肩に手が置かれた。
「よくやった。メルトとスラフが勢いを殺してくれたから、対処できた。」
全員いつのまにか出てきて、後始末をしていた。
「……いえ、冷静さが足りませんでした……」
頭を下げて、後処理に向かった。生きて捕えた者はおらず、何人か逃げてしまったということだった。
野盗をひとりひとり、士官が検分していって首を切り落として土に埋めた。総勢、25人。逃げた者は4~6人ほど。それから、しばらくすると夜が明けて、寝不足のまま野営地を出発した。
日中は襲われることもなく、また野営地についた。今度は夜中からの見張りだったが、今回は襲撃はなかった。
アルデリアの領内に入ると護衛はそこまでで、交代の冒険者と思われる者たちが商隊の護衛についた。俺達はアルデリアからルーシ王国に向かう商隊の警護について街道を戻った。
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