上 下
65 / 67
本格始動

第64話 坂上智樹3(※坂上智樹SIDE)

しおりを挟む
 魔法の授業は座学から始まった。基礎論は前の講師に習ったが、すっかりと頭から抜け落ちていた。魔法制御の練習なんか、俺の頭にはなかったからだ。反発したけれど、従った。
 メリットはあるはずだからだ。

 それよりもなによりも。

 アイテムボックス作ったってなんだよ!?
 裏ボスってなんだ!?
 ありえねえ。
 こいつ、チート中のチート持ちじゃねえか!?

 よく考えればテキストも、日本語でわかりやすく書いてあって、その下にこの世界の言語で書いてあった。これ、あいつが作ったんだ。

 俺が不貞腐れて自室で寝ている時間、アイテムボックス作って、これを作って、授業内容考えて……。
 俺達と違う、もともとのあいつの集団の表情は、いうなればリーダーと部下、先生と生徒。
 見ていれば、実技は後半の集団の方が、魔法を上手く扱っている。
 俺達はばらばらに離されて、それぞれ指導をされている。後半の集団に。

 何故だ。

 俺達の方が早くこの世界に来て、鍛えられてたはずじゃ、なかったのか。

 全然だ。全然足りなかった。あいつに何もかも、かなわない。

「もうちょっとイメージを固めて放ってみるといいよ。ラノベによくあるだろう?ゲームのエフェクトみたいにさ。炎と火がどう違うか、考えるといい。」

 奴がアドバイスをしてくる。俺は一人で実技を練習していた。いや、俺はこの、宇佐見明良が、指導することになっているのだろう。
 今さら憎まれ口をたたく気になれず、でも素直に頷くのは悔しくて、吐きだした肯定の言葉は小さかった。
 そして俺はその日から制御の練習を、寝る前にすることにしたのだった。
 アイテムボックスは俺にも配られた。ラノベのアイテムボックスそのままの機能に、驚くしかなかった。

 ラノベの勇者のような存在の、あいつはなんなのだろうか。

 自主錬というものがおこなわれていることを、初めて知った。それは俺達にはきつくて、後半の集団には当たり前の訓練だった。
 これが差なのだと知ったが、認めたくはなかった。

 藤宮かのんが戻ってきた。

 藤宮の顔つきが違っていた。いつもびくびくしていた女は、毅然とした表情をしていて、なぜだかひどく羨ましかった。
 その女が妙なことを言った。

「あ、初めまして? ……藤宮かのんです。……ラビちゃん先輩?……あの、その……何で銀髪じゃないんですか?目も金色でしたよ、ね?」
 宇佐見明良の顔が引きつったのを見た。そしてブーイングが起こって、奴がさらなるチートを隠してたのを知った。
 目が金色になるチートって何なんだよ!? 驚きすぎて心臓が持たねえよ。厨二病かよ!?

 だが、それでわかった。奴とは違う、俺はやっぱり凡人なのだということが。
 それでもやっぱり素直に従うことはできなくて、いろいろ突っかかったりはした。
 もう半分意地になっていると、自覚はしていた。

 その日、何気なしに夜窓の外を見た。見覚えのある影が、訓練所の方に向かうのを見た。

「こんな真夜中に?」

 この日はなかなか眠れずに、魔法制御の練習をしながら起きていたのだった。何をしに行くのだろうとあとをつけることにした。方角はわかったから、急いででも気配を消すようにして向かう。

 多分、ここだ。魔法用の訓練所。物陰からそっとのぞく。魔法陣が地面に二つ輝いていた。彼は片方の陣に石を置いて、後ろに下がった。光が輝いて石がもう一つの陣に現れた。
 彼のほっといた顔が見えた。汗を額に浮かべて、ブツブツと何かを呟いている。そうして彼は何度もそれを繰り返した。陣の距離が段々と離れていく。そうしてある程度離れたら、石は動かなくなった。
 彼の声が聞こえた。

「何が、悪いんだ? この部分か?それとも……」

 魔法陣を何度も描いて、それをじっと見ている。俺はなんだか、悪いことをしている気になって、部屋にそっと戻った。

 その夜はやっぱり眠れなかった。

 早朝の訓練に寝不足の身では、やはり苦しかった。あいつを見れば、平然と走っている。地力が違うのかなんなのか。

「くそっ」

 俺は抜けそうになる力を振り絞って、走る速度をあげた。

 手に持ってた木剣が飛ばされる。王都に戻ってから、一週間がたっていた。繰り返される訓練は段々負荷を増している。今俺の相手をしているのは、カディスだ。

 宇佐見明良は今日は野暮用とかでいない。この男も相当な技量を持っているんだろう。

 見えないところから繰り出される攻撃は、目の前に剣が来るまでわからない。気配というか殺気もない。俺はそういうものを感じ取る能力はあんまりない。だが、他のメンバーと打ち合えば多少はわかる。それがないのは脅威だ。じんじんと痛む手を片手で押えて木剣を拾った。

 俺の剣の腕前はお粗末だ。剣を習ってた半年は、何の役にも立ってなかったってことが、身に染みてわかった。
 
 それでも、この目の前のカディスと宇佐見明良の、模擬戦を見せられたあとでは、悔しくて諦められない。
 才能は多分ない。チート集団のこの“彷徨い人”のなかで俺は真ん中よりも下だ。炎魔法は使い勝手が悪く、小回りはきかない。総合的な戦闘能力で、宇佐見の集団に劣る。

 それくらいは自覚した。

 自覚はしたが悔しい。素直になるのは今さらできない。出来るのはがむしゃらに向かっていくことだけだった。
 結果、俺は体力の限界を迎えて地面に転がることになった。見上げた空は青く、雲が流れている。異世界なのに空は元の世界と変わらない。それがなんだか不思議で胸が苦しくなった。

 俺は訓練量を増やした。夕食後誰もいない訓練所に素振りに出かける。走って身体を解して、型の稽古。魔力制御の練習。
 それをずっと続けて、多少体力がついた、1週間後冒険者登録をするとあいつが言った。

 チーム分けは魔法の授業でのグループそのまま、女どもだけ、二つに分かれた。

 俺は奴と二人チームだった。

「トモちゃんだと可愛すぎるか―。智樹、ウィズダムウッド、ウッドでどう?」

 何を言ってるのか、こいつは。

「また始まったよ。ラビちゃん先輩、ネーミングセンス最悪なのわかってんのかな?」
「わかってないだろ。」
「わかってないよね。」

 おい、誰か止めろよ。
 だが、俺だけではなかったので、諦めるしかなかった。それで後半の集団が愛称で呼んでいる理由がわかった。
 宇佐見明良のせいだった。普段から呼んでないと、ギルドでぼろが出るから、だそうだ。

「はあ」
 思わずため息が出た。
「幸せが逃げるぞ、ウッド。」
 背後で突然声がした。振りかえるとカディスがいてにやっと笑った。
「こんなの序の口だからな。」
 言って彼は女子のグループに向かっていった。爺さんもいる。どうやら女子4人に1人ずつつくようだった。何が序の口なんだろう。いやな予感がして俺はぶるっと震えた。

「ギルド行くぞ―」
 あいつがそう言って、王城の門をくぐった。初めて出る、王城の外。その景色に目を奪われた。
 
初めてここに来た時に見た風景のはずなのに。あの時とは季節が違う。少し色がくすんだ王都。雪がつもったその風景に俺は見惚れてしまった。


 俺はフード付きマントに皮の防具、長袖のシャツに、皮のズボン、ロングブーツに、鋼のすね当てが付いている。
 足先には金属が覆い、安全靴のようになっていた。腰に嵌めたベルトに、ポーションの入ったポシェット、ショートソードと短剣を装備していた。

 他の面子もそんな感じで、集団で移動する様は少し目立っていた。

 ギルドにつくとあいつが登録用紙に、何か書いていた。それをまとめて出していた。
 
そして新たに登録する俺達にギルドカードが渡された。それに魔力を通すと、カードが自分のものになるようだった。
「さて、定番の薬草採取だ。ウッドは俺と二人パーティ。達成度B以上目標だ。いくぞ。」

 すでに依頼の受理はされたようで、俺は宇佐見明良と森へ向かうのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハクスラ異世界に転生したから、ひたすらレベル上げしながらマジックアイテムを掘りまくって、飽きたら拾ったマジックアイテムで色々と遊んでみる物語

ヒィッツカラルド
ファンタジー
ハクスラ異世界✕ソロ冒険✕ハーレム禁止✕変態パラダイス✕脱線大暴走ストーリー=166万文字完結÷微妙に癖になる。 変態が、変態のために、変態が送る、変態的な少年のハチャメチャ変態冒険記。 ハクスラとはハックアンドスラッシュの略語である。敵と戦い、どんどんレベルアップを果たし、更に強い敵と戦いながら、より良いマジックアイテムを発掘するゲームのことを指す。 タイトルのままの世界で奮闘しながらも冒険を楽しむ少年のストーリーです。(タイトルに一部偽りアリ)

【グラニクルオンライン】〜女神に召喚されたプレイヤーがガチクズばかりなので高レベの私が無双します〜

てんてんどんどん
ファンタジー
国王「勇者よ!よくこの国を救ってくれた!お礼にこれを!!」 国王は綺麗な腕輪【所有者を奴隷にできる腕輪】を差し出した! 主人公(あかん、これダメな方の異世界転移だわ) 私、橘楓(たちばな かえで)はいつも通りVRMMOゲーム【グラニクルオンライン】にログインしたはずだった……のだが。 何故か、私は間違って召喚されゲーム【グラニクルオンライン】の300年後の世界へ、プレイしていた男キャラ「猫まっしぐら」として異世界転移してしまった。 ゲームの世界は「自称女神」が召喚したガチクズプレイヤー達が高レベルでTUeeeしながら元NPC相手にやりたい放題。 ハーレム・奴隷・拷問・赤ちゃんプレイって……何故こうも基地外プレイヤーばかりが揃うのか。 おかげでこの世界のプレイヤーの評価が単なるド変態なんですけど!? ドラゴン幼女と変態エルフを引き連れて、はじまる世直し旅。 高レベルで無双します。 ※※アルファポリス内で漫画も投稿しています。   宜しければそちらもご覧いただけると嬉しいです※※ ※恋愛に発展するのは後半です。 ※中身は女性で、ヒーローも女性と認識していますが男性キャラでプレイしています。アイテムで女に戻ることもできます。それでも中身が女でも外見が男だとBLに感じる方はご注意してください。 ※ダーク要素もあり、サブキャラに犠牲者もでます。 ※小説家になろう カクヨム でも連載しています

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

魔力吸収体質が厄介すぎて追放されたけど、創造スキルに進化したので、もふもふライフを送ることにしました

うみ
ファンタジー
魔力吸収能力を持つリヒトは、魔力が枯渇して「魔法が使えなくなる」という理由で街はずれでひっそりと暮らしていた。 そんな折、どす黒い魔力である魔素溢れる魔境が拡大してきていたため、領主から魔境へ向かえと追い出されてしまう。 魔境の入り口に差し掛かった時、全ての魔素が主人公に向けて流れ込み、魔力吸収能力がオーバーフローし覚醒する。 その結果、リヒトは有り余る魔力を使って妄想を形にする力「創造スキル」を手に入れたのだった。 魔素の無くなった魔境は元の大自然に戻り、街に戻れない彼はここでノンビリ生きていく決意をする。 手に入れた力で高さ333メートルもある建物を作りご満悦の彼の元へ、邪神と名乗る白猫にのった小動物や、獣人の少女が訪れ、更には豊富な食糧を嗅ぎつけたゴブリンの大軍が迫って来て……。 いつしかリヒトは魔物たちから魔王と呼ばるようになる。それに伴い、333メートルの建物は魔王城として畏怖されるようになっていく。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

処理中です...