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ヘリスウィル・エステレラの章(第二王子殿下視点)
ヘリスウィル・エステレラ~祝福の儀~
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祝福の儀を受ける日が来た。
そのあとは大規模なお茶会と、小さなお茶会の予定が詰まっている。
今年はセイアッド達が王都に来る。
王都の教会で祝福の儀を済ませて王城の鍛錬場を使って鍛錬をするという手紙が来ていた。
お茶会の招待状は二人にも送って出席の返事が来ている。
王族の祝福の儀は一番早く別の日に行われる。
騎士達の見守る中、大きな水晶に触れる。
途端に視界が切り替わった。
豪奢な一室の中心に玉座のような、豪華な椅子に、誰かが座っていた。
逆光が眩しくて顔が見えない。
その光が徐々に弱くなっていくと顔が見えた。
僕だ。
僕と同じ顔。
『やあ。顔を合わせるのは初めてだね。僕は太陽の神。君に加護を授けたものだ。神子君』
太陽の神。
この声はいつも頭の中に響いてた声。
神子?
『僕の現身になれる存在ということだよ。現界する時は君の体を使わせてもらうよ。月の神の神子を手に入れなくてはならないしね』
僕の体を使う?
『君の身体は僕と特に相性がいいし、僕の声も力もよく馴染むようだ。喜んで献上したまえよ。力は与えるからあの子を手に入れるよう励むように。僕のためにね』
何を言っている?
『もう行っていいよ』
視界が切り替わる。
「素晴らしい。さすが殿下ですね。太陽の神と光の精霊の加護がございます」
司祭にステータスプレートをもらう。
そこには僕の名前と【加護 太陽の神 光の精霊】と記されていた。
光の精霊の加護は希少なのだそうだ。ましてや複数の加護となると希少すぎて例がほとんどないそうだ。
父と母からも祝いの言葉をいただいた。
そして第二の性の話をしてくれた。
他の子供たちは神官から話があるのだそうだが同じ場所で聞くことは警備上難しいからだということだった。
アルファとオメガはほとんどの貴族の性だという。平民はベータが多くたまにオメガが生まれるそうだ。魔力の多寡が関係していると言われるがアルファはオメガからしか生まれず、オメガしか愛さない。
男でもオメガなら子供を産めるし、女でもアルファなら、子供を産ませることができる。アルファ同士、オメガ同士では子供は生まれないという。また、アルファとベータ、オメガとベータでも子供は生まれないという。
もしかして、セイアッドとロシュはオメガなのか?
「運命の番というものがあるのよ。出会った時、ああ、この人が自分の伴侶だと、わかるのよ。陛下と私も、そうだったの」
母が初めて馴れ初めを話してくれた。父に口説かれたのだと。
「好きな子ができたら、後悔しないようにしなさい。アルファとオメガは愛し合えないと、不幸になるの」
不幸に。
僕は、セイアッドが好きなのだろうか。
あの時優しくしてくれたから仲良くしたいと思った。ノクスといつもいるところが羨ましいのは間違いないけれど。
この気持ちがどんな気持ちなのかはもう少しすればわかるのだろうか。
その時ふと、ロシュの顔が浮かんだ。
なぜだろう。なんか無性にロシュに会いたくなった。
もちろん、会えるわけないんだけれど。
「ヘリスウィル、おめでとう」
兄上が祝いの言葉をくれた。優秀な兄上。優しくて、可愛がってくれる。
「ありがとうございます」
「そんな畏まらないでいいよ。兄弟なんだから」
1つしか違わない兄上だけど、とても大人びていて憧れる。
王太子には兄上がなるだろうと思う。
「たまには、一緒に鍛錬をしよう。空いている時間を教えてくれるかな」
「はい! あとで手紙を届けさせます」
「楽しみだね」
たまに一緒に剣を打ち合ってくれる。剣の才能は僕よりずっとあると思う。簡単にあしらわれてしまうから。
ノクスから手紙が届く。なぜか、チェスの一手が書いてあるから、返事を書いてしまうのだ。ノクスとだって、仲良くできればしたい。会えば、喧嘩になるんだけれども。
大きなお茶会の日になった。
席順は下位から上位の貴族家になっている。
何度か会っている子たちもいるが辺境から来ている者たちは初対面が多い。
こうしたお茶会で、運命の番が見つかれば婚約していいということだった。
そもそもまだ、第二の性は発現してはいない。一目見ただけで、本当にわかるのだろうか。
一つ一つテーブルを回り、最後のテーブルに来た。
もう、紅茶は飲めない。
見知った顔がいるだけで肩の力が抜けてほっと息を吐く。
初対面はフィエーヤ・ウェントゥス。それからシムオン・トニトルス。
フィエーヤは控えめで出しゃばらない感じで好感が持てた。シムオンはノクスとセイアッドと面識があるらしい。紫の髪は雷神の加護だ。父親の才能を受け継いでるのだろう。
余り時間がなかったため、初対面である二人を優先して改めてゆっくりできるお茶会に招待することになった。
僕は僕を支える側近と婚約者を見つけなければならない。
もともと王になる選択はなく、爵位をもらって、兄を支えたいと思っている。
僕がノクスといつもの言い合いをしている時にロシュとセイアッドが話をしているのが耳に入った。
「……オメガの可能性のほうが高いの?」
「う、うん。体つきとか、うちの家系的なものとかで」
「僕ももしかしたら、そうかもしれないんだ。兄弟の中で一番体格が貧弱だからね。同じように鍛えてるんだけど、どうにも筋肉つかないんだよね。男のオメガは希……」
やっぱり二人はオメガなんだろうか。
ドキドキとするこの気持ちは何なのだろう。
『月の神子は常にオメガだ』
声が響く。
だとしても、ノクスとセイアッドはお似合いだと悔しいが僕も認める。可能性は低すぎるのに。
剣聖の鍛錬にまた参加させてもらうことになったのだが、お茶会後の親睦会が入っていて、時間が取れなかった。
その間にあのテーブルの皆は仲良くなったらしい。ちょっと羨ましい。
来年はもっと時間を作ろう。
そんなふうに思っていたが、その後、ノクスとセイアッドは学院に入学する年まで王都に来ることはなかった。
そのあとは大規模なお茶会と、小さなお茶会の予定が詰まっている。
今年はセイアッド達が王都に来る。
王都の教会で祝福の儀を済ませて王城の鍛錬場を使って鍛錬をするという手紙が来ていた。
お茶会の招待状は二人にも送って出席の返事が来ている。
王族の祝福の儀は一番早く別の日に行われる。
騎士達の見守る中、大きな水晶に触れる。
途端に視界が切り替わった。
豪奢な一室の中心に玉座のような、豪華な椅子に、誰かが座っていた。
逆光が眩しくて顔が見えない。
その光が徐々に弱くなっていくと顔が見えた。
僕だ。
僕と同じ顔。
『やあ。顔を合わせるのは初めてだね。僕は太陽の神。君に加護を授けたものだ。神子君』
太陽の神。
この声はいつも頭の中に響いてた声。
神子?
『僕の現身になれる存在ということだよ。現界する時は君の体を使わせてもらうよ。月の神の神子を手に入れなくてはならないしね』
僕の体を使う?
『君の身体は僕と特に相性がいいし、僕の声も力もよく馴染むようだ。喜んで献上したまえよ。力は与えるからあの子を手に入れるよう励むように。僕のためにね』
何を言っている?
『もう行っていいよ』
視界が切り替わる。
「素晴らしい。さすが殿下ですね。太陽の神と光の精霊の加護がございます」
司祭にステータスプレートをもらう。
そこには僕の名前と【加護 太陽の神 光の精霊】と記されていた。
光の精霊の加護は希少なのだそうだ。ましてや複数の加護となると希少すぎて例がほとんどないそうだ。
父と母からも祝いの言葉をいただいた。
そして第二の性の話をしてくれた。
他の子供たちは神官から話があるのだそうだが同じ場所で聞くことは警備上難しいからだということだった。
アルファとオメガはほとんどの貴族の性だという。平民はベータが多くたまにオメガが生まれるそうだ。魔力の多寡が関係していると言われるがアルファはオメガからしか生まれず、オメガしか愛さない。
男でもオメガなら子供を産めるし、女でもアルファなら、子供を産ませることができる。アルファ同士、オメガ同士では子供は生まれないという。また、アルファとベータ、オメガとベータでも子供は生まれないという。
もしかして、セイアッドとロシュはオメガなのか?
「運命の番というものがあるのよ。出会った時、ああ、この人が自分の伴侶だと、わかるのよ。陛下と私も、そうだったの」
母が初めて馴れ初めを話してくれた。父に口説かれたのだと。
「好きな子ができたら、後悔しないようにしなさい。アルファとオメガは愛し合えないと、不幸になるの」
不幸に。
僕は、セイアッドが好きなのだろうか。
あの時優しくしてくれたから仲良くしたいと思った。ノクスといつもいるところが羨ましいのは間違いないけれど。
この気持ちがどんな気持ちなのかはもう少しすればわかるのだろうか。
その時ふと、ロシュの顔が浮かんだ。
なぜだろう。なんか無性にロシュに会いたくなった。
もちろん、会えるわけないんだけれど。
「ヘリスウィル、おめでとう」
兄上が祝いの言葉をくれた。優秀な兄上。優しくて、可愛がってくれる。
「ありがとうございます」
「そんな畏まらないでいいよ。兄弟なんだから」
1つしか違わない兄上だけど、とても大人びていて憧れる。
王太子には兄上がなるだろうと思う。
「たまには、一緒に鍛錬をしよう。空いている時間を教えてくれるかな」
「はい! あとで手紙を届けさせます」
「楽しみだね」
たまに一緒に剣を打ち合ってくれる。剣の才能は僕よりずっとあると思う。簡単にあしらわれてしまうから。
ノクスから手紙が届く。なぜか、チェスの一手が書いてあるから、返事を書いてしまうのだ。ノクスとだって、仲良くできればしたい。会えば、喧嘩になるんだけれども。
大きなお茶会の日になった。
席順は下位から上位の貴族家になっている。
何度か会っている子たちもいるが辺境から来ている者たちは初対面が多い。
こうしたお茶会で、運命の番が見つかれば婚約していいということだった。
そもそもまだ、第二の性は発現してはいない。一目見ただけで、本当にわかるのだろうか。
一つ一つテーブルを回り、最後のテーブルに来た。
もう、紅茶は飲めない。
見知った顔がいるだけで肩の力が抜けてほっと息を吐く。
初対面はフィエーヤ・ウェントゥス。それからシムオン・トニトルス。
フィエーヤは控えめで出しゃばらない感じで好感が持てた。シムオンはノクスとセイアッドと面識があるらしい。紫の髪は雷神の加護だ。父親の才能を受け継いでるのだろう。
余り時間がなかったため、初対面である二人を優先して改めてゆっくりできるお茶会に招待することになった。
僕は僕を支える側近と婚約者を見つけなければならない。
もともと王になる選択はなく、爵位をもらって、兄を支えたいと思っている。
僕がノクスといつもの言い合いをしている時にロシュとセイアッドが話をしているのが耳に入った。
「……オメガの可能性のほうが高いの?」
「う、うん。体つきとか、うちの家系的なものとかで」
「僕ももしかしたら、そうかもしれないんだ。兄弟の中で一番体格が貧弱だからね。同じように鍛えてるんだけど、どうにも筋肉つかないんだよね。男のオメガは希……」
やっぱり二人はオメガなんだろうか。
ドキドキとするこの気持ちは何なのだろう。
『月の神子は常にオメガだ』
声が響く。
だとしても、ノクスとセイアッドはお似合いだと悔しいが僕も認める。可能性は低すぎるのに。
剣聖の鍛錬にまた参加させてもらうことになったのだが、お茶会後の親睦会が入っていて、時間が取れなかった。
その間にあのテーブルの皆は仲良くなったらしい。ちょっと羨ましい。
来年はもっと時間を作ろう。
そんなふうに思っていたが、その後、ノクスとセイアッドは学院に入学する年まで王都に来ることはなかった。
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