102 / 115
要塞
しおりを挟む
車窓から見える街並みは、明らかに最初に訪れた場所とは違う。何かこう、物々しいというか、カッチリしているのだ。華やかさとはまるで縁がない。また逆に寂れているというわけでもない。
とある建物の前に停車した大型ビークルから、役人たち、ボクたち、軍人たちと続いて降車した。空には夕日が妖しく揺らめいている。
「おう、なんだい。ここは前に来たところとは違うなぁ」
今頃気が付いたゲルドーシュが、不思議そうな顔をした。それを見て苦笑するザレドス、いかにも機嫌の悪そうなポピッカ、まぁいつもの事だよという顔をするボクがいる。
「さぁ、どうぞこちらです」
一層他人行儀な役人の先導のもと、ボクたちは”如何にも”といった建物に入った。何故、如何にもという感じがしたかというと、見るからに防御の硬い、要塞とまでは言わないが、明らかに要人が逗留するような建造物なのである。
「おっ、こりゃまるで要塞だ。外から何が来てもビクともしねぇぞ」
ゲルドーシュが、辺りをキョロキョロと見回す。だがゲルドーシュよ、気づいているかい? それは中からも、脱出しづらい構造だという事を。
「もう、ゲルったら、子供みたいな事をするもんじゃありませんわ」
既にどこか、口うるさい姉になったような口調で弟をたしなめるポピッカ。
「よう、ポピッカ。おめぇ、いつから俺の母親になったんだ?」
「永遠になるつもりなんてありませんわよ!」
ダンジョンを出て、初の漫才披露ってところのようだ。
建物に入るとロビーらしい広間に出たが、明らかに通常の宿泊施設とは違う。侵入者に対応するためと思しき設備が、其処此処にある。
「やぁ、冒険者の皆さん。今回は本当にお疲れさまでした。そして皆さんを苦しめたのが、州の関係者だった事を心からお詫びします」
ロビーの中央付近で待っていた、背の高い中年の紳士がボクたちを出迎えた。
「私の名は、ラジュファム。この施設の責任者を務めております。まずはお部屋の方にお越しいただいて、ゆっくりと体を休めて下さい。これからの話は、明日になってからと致しましょう」
隙のない礼節をもって、ボクたちを歓待するこの男。眼鏡の奥に光る鋭い目つきは、明らかに他の小役人とは違う、全くもって、気を許す事の出来ない人物のようだ。
「君は、もういいから」
ラジュファムが、ボクたちを連れて来た役人を一瞥すると、彼は半ば怯えた様子で一目散に何処かへ消えていった。
「さぁ、皆さんをお部屋へ」
ボクたちは州兵の隊長に軽く挨拶をしたあと、彼の命を受けたスタッフに大人しくついていく。この従業員も一癖程度はあるように見えた。単なる宿泊施設のスタッフではあるまい。
やがてボクたちは、豪華な、しかしとても頑丈そうな造りのドアの前へと案内された。
「こちらが、皆さんにお使いいただくお部屋となります。中には続き部屋へのドアがありますので、ポピッカさまはそちらでお休みください」
ただ者ではないスタッフは、部屋の設備の一応を解説してドアの外へ姿を消した。
「さあってと、これからだな」
ボクが呟くと、ゲルドーシュ以外の二人が緊張した面持ちを取り戻す。
とある建物の前に停車した大型ビークルから、役人たち、ボクたち、軍人たちと続いて降車した。空には夕日が妖しく揺らめいている。
「おう、なんだい。ここは前に来たところとは違うなぁ」
今頃気が付いたゲルドーシュが、不思議そうな顔をした。それを見て苦笑するザレドス、いかにも機嫌の悪そうなポピッカ、まぁいつもの事だよという顔をするボクがいる。
「さぁ、どうぞこちらです」
一層他人行儀な役人の先導のもと、ボクたちは”如何にも”といった建物に入った。何故、如何にもという感じがしたかというと、見るからに防御の硬い、要塞とまでは言わないが、明らかに要人が逗留するような建造物なのである。
「おっ、こりゃまるで要塞だ。外から何が来てもビクともしねぇぞ」
ゲルドーシュが、辺りをキョロキョロと見回す。だがゲルドーシュよ、気づいているかい? それは中からも、脱出しづらい構造だという事を。
「もう、ゲルったら、子供みたいな事をするもんじゃありませんわ」
既にどこか、口うるさい姉になったような口調で弟をたしなめるポピッカ。
「よう、ポピッカ。おめぇ、いつから俺の母親になったんだ?」
「永遠になるつもりなんてありませんわよ!」
ダンジョンを出て、初の漫才披露ってところのようだ。
建物に入るとロビーらしい広間に出たが、明らかに通常の宿泊施設とは違う。侵入者に対応するためと思しき設備が、其処此処にある。
「やぁ、冒険者の皆さん。今回は本当にお疲れさまでした。そして皆さんを苦しめたのが、州の関係者だった事を心からお詫びします」
ロビーの中央付近で待っていた、背の高い中年の紳士がボクたちを出迎えた。
「私の名は、ラジュファム。この施設の責任者を務めております。まずはお部屋の方にお越しいただいて、ゆっくりと体を休めて下さい。これからの話は、明日になってからと致しましょう」
隙のない礼節をもって、ボクたちを歓待するこの男。眼鏡の奥に光る鋭い目つきは、明らかに他の小役人とは違う、全くもって、気を許す事の出来ない人物のようだ。
「君は、もういいから」
ラジュファムが、ボクたちを連れて来た役人を一瞥すると、彼は半ば怯えた様子で一目散に何処かへ消えていった。
「さぁ、皆さんをお部屋へ」
ボクたちは州兵の隊長に軽く挨拶をしたあと、彼の命を受けたスタッフに大人しくついていく。この従業員も一癖程度はあるように見えた。単なる宿泊施設のスタッフではあるまい。
やがてボクたちは、豪華な、しかしとても頑丈そうな造りのドアの前へと案内された。
「こちらが、皆さんにお使いいただくお部屋となります。中には続き部屋へのドアがありますので、ポピッカさまはそちらでお休みください」
ただ者ではないスタッフは、部屋の設備の一応を解説してドアの外へ姿を消した。
「さあってと、これからだな」
ボクが呟くと、ゲルドーシュ以外の二人が緊張した面持ちを取り戻す。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
彼女が望むなら
mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。
リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした
仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」
夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。
結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。
それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。
結婚式は、お互いの親戚のみ。
なぜならお互い再婚だから。
そして、結婚式が終わり、新居へ……?
一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる