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血筋

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「えぇ、よくわかりますわね。全くその通りです。私個人としてはスウォードルの血なんて余り興味はないんですが、そういう古のしがらみに捕らわれる人達もいましてね。私も小さいころから”聖なる血を引き継ぐ使命”を負わされてきましたわ」

ポピッカの顔が曇るのを、ボクは見逃さなかった。

「なんだよポピッカ。なにか気に入らねぇみたいな言い方だぞ」

ゲルドーシュは訝し気な表情だ。

「まぁ、まぁ。考え方は人それぞれだからさ。ここは余り突っ込まない」

ボクは慌ててゲルドーシュを諫めるが、剣聖の血を引く者が目の前にいるのである。剣士としては黙っていられないのも無理はない。

ただポピッカにしてみれば、只でさえ妖精魔族としての引け目を感じている上に、神話時代からの血を受け継いでいる事は、名誉というよりも煩わしいのであろう。

「でもよぉ……」

「それにしても、未だに伝説の聖獣を使役できるとは素晴らしい。本当に良いものを見せて頂きました。魔獣との戦いでは寿命が縮まりましたが、余りある経験ですよ」

食い下がる戦士を制するように、ザレドスが口を差し挟んだ。

「ところでさ、今さら何だけど……」

ゲルドーシュが、遠慮がちに問いかける。

「あの時、どうせ聖獣を呼んだんなら、あのまま魔獣と戦わせるってせんは、なかったんか?」

ある意味、もっともな疑問である。

「それはダメでしたわね」

ポピッカが、あっさり答えた。

「ほぉ、それは何故?」

今度は、ザレドスが聞き返す。

「活動時間の問題ですわ。

私が今まで込めた祈りの量と、これまでの経験から、あの時の聖獣の活動時間は、かなり短いと判断しましたの。実際、魔獣を押さえているだけなのに、ほんとすぐに消えてしまったでしょう?」

確かにその通り、ボクもいささか面食らったのを覚えている。

「それに聖獣を出した時点で、スタンの剛力魔法は尽きる寸前だったと思います。 となると、魔獣は戒めを解かれて、ほんと、掛け値なしで聖獣と戦う事になりますわよね。

魔獣との攻防となれば、ずっと聖獣の消耗は激しくて、あの時よりもずっと早く消えていたと思いますわ。それじゃぁ、魔獣を倒すのは無理」

「そう判断して、スタンに賭けたんですね」

ポピッカの解説を、ザレドスがまとめた。

「なるほどねぇ。聖獣ってあんまり役に立たねぇなぁ。っていうか、おめぇの祈りがいい加減なんで、そんだけしか、持たねぇんじゃねぇの?」

ゲルドーシュが、いつもの憎まれ口を聞く。

「なんですって? 筋肉ゴリラのあなたに祈りの何たるかが、わかるっていうんですの!」

「ほぉ、やっぱりおめぇとは、一戦交えなきゃならねぇようだな!」

「まって、まって。今ぐらい仲良くしてくれよ」

やっとこさ魔獣戦が終ったのに、ここでまた戦闘が勃発してはたまったものではない。

「でも、誰が祈ってもいいってわけじゃないんでしょう?」

ザレドスが、すかさず話題を振った。

「えぇ、スウォードルの血を引く者でなくてはなりませんの。でもあれだけの時間を使役するのに、二年以上も祈りを捧げましたわ」

落ち着きを取り戻したポピッカが答える。

「あぁ、そうか。ポピッカが何かにつけて、ロザリオを握りしめて祈っている姿を見てきたけど、あれはその祈りの力を注ぎこんでいたわけだね」

ポピッカが頷き、ボクは合点がいった。

「だけど、スウォードルとフォラシム教のロザリオって何か関係あんのか?」

振り上げた拳を収めたゲルドーシュが、再び鋭い質問をする。

「なるほど!」

ザレドスが突然手をポンと叩いた。一同、細工師に注目する。

「これも伝説の一つなんですがね。スウォードルは世界の半分を平定しましたが、当然そこまでの道程には多くの血が流れてきたわけですよ。彼はそれを悼んで、各地に慰霊塔を建立したと伝えられています。

一説によると、それがフォラシム教の前身となり、初代教祖に彼を支えた妖精の妻が就任したって話です。

だからフォラシム教は、慈しみを第一とする宗教と言われているんですね」

皆、ザレドスの博学さに感心しきりで、彼のドヤ顔も気にならない。

「そうなんか。おめぇ、結構凄い奴なんだな」

”凄い奴”と言う割には、ぞんざいな口を利くゲルドーシュだが、それが正に彼なんだと一同は納得済みだ。
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