上 下
63 / 115

調査開始

しおりを挟む
あらためて周囲を見回してみる。

少し長い通路の突き当りが、今、ボクたちがいる広間である。ダンジョンの最深部という特別な意味合いを利用したイベント会場という印象だ。まぁ、宗教儀式か何かを行うにはもってこいの環境といえる。

ただ、比較的新しい時代のダンジョンであると分かっているので、本当に恐ろしい邪教集団の巣窟だったという事はないだろう。そんな連中は、もう疾うの昔に滅び去っている。むしろ、もしそうであったなら、行きつく事が出来ないという壁の向こう側に、恐ろしい秘密があっても不思議はないとは思うが。

「ザレドスは、水を得た魚のように生き生きとしていますわね」

ポピッカの言うとおり、魔法電信の装置が壊されている事に一時は落ち込んでいた細工師も、本来の任務を思い出し精力的に調査を始めている。わからない事を解明する悦び。それがザレドスの原動力なのだろう。

それに引きかえ、ゲルドーシュは何とも手持無沙汰といった面持ちだ。まぁ、戦う事が仕事の戦士であるわけだから、調査がメインの今となっては仕方あるまい。

「おおい、ゲル。あんまり気を抜かないでくれよ。いつ敵が襲って来るかわからないんだからさ」

「あぁ~、わかってるよ旦那~」

ボクが注意をしても、戦士からは何とも頼りない生返事が返って来るばかりである。

とは言っても広間に通じる通路は一本しかなく、そこさえ見張っていれば敵の奇襲を受ける心配はまずないだろう。そういう事もあって、実を言うとボクとポピッカもこれといっての仕事はなく、ただチョコマカと動き回るザレドスを目で追う時間に飽きが来ている状態であった。

「皆さん、ちょっと来てください。あらましは、ざっとわかりました」

退屈な時間という気だるい泡を突き破るかのように、丹念な調査を続けていた細工師の声が響く。

「どう、何かわかったかい?」

待ちに待ったとばかりに、ボクと僧侶と戦士はザレドスの返答に期待する。

「そうですね。まずは今の状況からお話します。

事前にゼットツ州や州兵の隊長さんから渡された資料と実際の様子を突き合わせてみたのですが、調査は過不足なく行われていたようです。手抜きなどがあったわけではないですね。

その上で奥に通路と思われるスペースがあるという場所、ちょうど今、私たちがいるこの場所の壁なんですが、調査用魔使具で調べたところ、やはり何らかの空間が壁の向こうにあると判断出来ると思われます」

「ってぇ事は、今のところ手がかりゼロって事なのか」

倦怠みなぎる欝々とした霧の中から、やっと抜け出せると期待していたゲルドーシュは、あからさまに不満を表した。

「ちょっとゲル。慌ててはいけませんわ。州が総力を挙げて調べてもわからなかったんですのよ。すぐに謎が解けるわけないじゃありませんの」

「そりゃ、そうだけどよぉ……」

ポピッカの正論にも、やはり不満顔のゲルドーシュ。

ただ、ボクは先ほどザレドスが発した言葉に、少し違和感を覚えていた。

「ザレドス、さっき”判断できると思われます”って言ったよね。それは、どういった意味なんだい?」

ボクの質問にポピッカとゲルドーシュは顔を見合わせ、ザレドスは我が意を得たりと満足げな顔をする。

「ちょっと、それはどういう事ですの?今回の依頼、壁の向こう側にあるスペースに行きつく事が出来ないので、どうにかしてくれというのが、主旨となるわけですわよね」

いたたまれずに、ポピッカが問いただす。

「う~ん、説明が難しいのですが……。まず先ほど言ったように、ゼットツ州の調査に何か手抜かりがあったとは思えません。実際に、ここに残されている測定器具を使って調べなおしてみたのですが、報告書と同じ結果になりました。

しかしですね……」

ザレドスの次の言葉を待つボクの心中は、期待と不安がない交ぜになっている。

「私が自分の魔使具で調べてみると、空間はあるにはあるのですが、数値に微妙な差が現れるんですよ。単純に魔使具の精度などではなく、異質な何かが干渉しているような、ノイズとでもいいましょうかね」

「それは、州からもらった報告書には書いてありませんの?」

ポピッカは落ち着かない様子で、奇異な事を言い出す細工師に疑問を投げかける。

「えぇ、書いてありません。むしろ完璧なくらいの報告書です」

ザレドスが、少し難しい顔をする。

「あぁ、めんどくせぇ! だったら壁をぶち破ってみれば、それでいい話じゃねぇのか!? 」

一向に進まぬ話に業を煮やし、ゲルドーシュは小走りに壁から数メートル離れた場所へ下がり始めた。

「おい!ゲル!何を!」

ボクがそう言い終わる間もないうちに、ゲルドーシュは目の前の壁に猛突進していった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【R18】義弟ディルドで処女喪失したらブチギレた義弟に襲われました

春瀬湖子
恋愛
伯爵令嬢でありながら魔法研究室の研究員として日々魔道具を作っていたフラヴィの集大成。 大きく反り返り、凶悪なサイズと浮き出る血管。全てが想像以上だったその魔道具、名付けて『大好き義弟パトリスの魔道ディルド』を作り上げたフラヴィは、早速その魔道具でうきうきと処女を散らした。 ――ことがディルドの大元、義弟のパトリスにバレちゃった!? 「その男のどこがいいんですか」 「どこって……おちんちん、かしら」 (だって貴方のモノだもの) そんな会話をした晩、フラヴィの寝室へパトリスが夜這いにやってきて――!? 拗らせ義弟と魔道具で義弟のディルドを作って楽しんでいた義姉の両片想いラブコメです。 ※他サイト様でも公開しております。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

俺の性癖は間違っていない!~巨乳エルフに挟まれて俺はもう我慢の限界です!~

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
ある日突然、見知らぬ世界へと転移してしまった主人公。 元の世界に戻る方法を探していると、とある森で偶然にも美女なエルフと出会う。 だが彼女はとんでもない爆弾を抱えていた……そう、それは彼女の胸だ。 どうやらこの世界では大きな胸に魅力を感じる人間が 少ないらしく(主人公は大好物)彼女達はコンプレックスを抱えている様子だった。 果たして主人公の運命とは!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写などが苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

処理中です...