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魔女と奇妙な男 (35) 怒れる執事

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しかし次の瞬間、再び辺りは月明かりに照らされました。まるで何かが一瞬、月を隠したかのようでした。

「奇妙だな」

髭面のリーダー格が、呟きます。

「まぁ、どうでもいいじゃねぇか。目指す屋敷は目の前だ」

狂暴な息を吐きながら、スキンヘッドの男が武者震いをしました。

「ん? ちょ、ちょっと。誰かいますよ!」

太った男が驚いたように言うと、皆が一斉に彼の指さす方向へと顔を向けます。

確かに月明かりの中、闇に溶け込むように黒いシルエットがユラユラと見えました。明らかに人影です。皆が一斉に身構えました。

「て、てめぇ、一体、誰だ。何者だ!?」

本能的に恐怖を感じたリーダーは、声を荒げます。

目を金色にギラギラと輝かせたシルエットが答えました。

「”やせっぽちの、ガキみたいな執事”だよ」


さて、ここで話は十数分前に戻ります。

最高位魔女の邸では、主人のコリスを始め、オリビア、フレディと、皆どこか落ち着かない様子でおりました。使い魔執事のレアロンだけは、いつもの鉄面皮を貫いていましたが、それでも小刻みに足で床を鳴らしている始末です。

「まったく、あの子ったら今日も何をしているのかしら……」

ネリスの帰宅の遅さに、たまらずコリスが呟きました。もちろん単に呟いたのではなく、誰かにそれを聞いてほしい面持ちです。

「あいつは如何にも”のど元過ぎれば、熱さを忘れる”ってタイプですからね。もう化け物に襲われかけた事なんか忘れちまって、どこかで道草を食っているのではないでしょうか?」

主人の意をくみ取った使い魔執事レアロンが、ボヤキがてらに答えました。

「……かも知れないわね。それならいいんだけど……」

コリスが、心配そうにため息をつきます。

「マダム、いいって事はないでしょ? 一回、ガツンと言った方が宜しいのではないでしょうかね」

レアロンが、進言しました。

「レアロン、あなた、ネリスにちょっと厳しすぎるわよ。まだ子供をチョット抜け出したばかりの年頃でしょ」

ちょうど紅茶を運んできたオリビアが、ついウンウンとうなづきます。

「いえ、だからこそ、厳しくしなけりゃダメなんですよ。鉄は熱いうちに打てって言いますからね」

あくまで容赦がないレアロンでした。

「でもね……」

コリスが、そう言いかけた時です。

「しっ! ちょっと黙って!」

突然、使い魔執事が主人を制しました。

これにはオリビアも、少しビックリした様子です。コリス命のレアロンが、主人に対してこんなぞんざいな口を利くのは本当に珍しいのです。

レアロンの様子を只事ではないと察したコリスは、彼をとがめる事もなく、じっとその様子を見つめていました。

「屋敷の……、まだ、だいぶ先ですが、異様な悪意を感じます」

「えっ?」

レアロンの突拍子もない一言に、コリスとオリビアが同時に声を上げました。

皆さん、このお話の冒頭の場面を思い出して下さい。門前の掃除をいい加減に行っていたネリスの様子を、彼は邸内からしっかりと把握していましたよね。レアロンには悪魔の力として、そういった千里眼のような能力もあるのです。

ただ、察知した”悪意”が余りにも離れているので、詳しい事はわかりません。そのため、レアロンは悪魔の力を少し開放します。彼の雰囲気がスッと変わったかと思うと、その目の色は茶色から金色に変わり、耳も正に悪魔のように伸びていきました。
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